日本産業衛生学会「産業衛生学」に2001年5月から2002年3月号にかけて連載、
興味のある方は原著を取り寄せて全文を読んでください。 研究のトップへ戻る
1. VDTからの電磁界の健康影響 (抜粋) 2001年5月号に掲載
*はじめに
職場のVDT(Visual Display Terminalの略、表示装置の意味)作業者の中にVDTからの電磁界(電磁波)の健康影響を気にする声が残っている。 VDT作業に関連する健康問題はパソコンが普及し始めた 1980年代の初頭に発生し、VDTの電磁界もその一つとして疑われた。 各種調査が行われた、そうした経緯、最近の世界保健機構(WHO)や日本電子工業振興協会(JEIDA)のVDT対策専門委員会が行ってきた活動等を含めて、電磁界の健康影響に的を絞った。
*各界の動き
VDTからの電磁界の健康影響に関する取組みの経緯を纏めると、ほとんどが電磁界に関しては問題がない、という見解である。1983年からそうした見解が出始めている。 日本では、広く産業衛生の面から1985年にVDT作業に関するガイドラインが労働省から発行された。
こうした中でも、一例をあげればVDTのエルゴノミクスにも造詣が深い人間工学者E・グランジャンはその著書の中で「VDT作業者に関しては、流産とか奇形の危険を示す微候は何もない。 一方、妊娠中のVDT作業者が言われている悪影響について不安を抱いている事は良く理解できる。ある種の不安はVDT作業者の間に残る。」と、VDT作業者の間に不安感が残っている事を認めている。
電磁界の健康影響はないといっても、不安を全て払拭するに至っていなかった。
表1:電磁界の健康影響に関する見解の経緯
年 |
発行元・文献 |
内容 |
1983 |
アメリカ・科学アカデミー:VDTワークと人間 |
現在の知識から、VDTからの放射線のレベルはほとんど危害がない。(注;放射線の項で、低周波電磁界等も論及している。) |
1986 |
日本・ 労働省:VDTと労働衛生−資料集 |
このレポートにおいて論じられた分析結果に関する限り、VDTを操作する人が近傍電磁界に曝露されることによって、健康障害を起こすという確かな証拠を見つける事は出来なかった。 |
1990 |
アメリカ・IEEE:VDTからの電磁界の健康影響に関する宣言 |
VDTからの電磁界が健康に影響しているという確証はない、と判断。 |
*スウェーデンを中心とした動き(過去10年間の動き)
電磁波中でも低周波電磁界に関して、特異な動きをしたのがスウェーデンであった。 電磁界の健康影響に関する過度の不安感からか、VDTからの低周波電磁界の漏洩に関して規制を行うべき、と労働組合が主張して1990年にMPR2いうガイドラインが発行された。
このMPRUはVDTからの低周波電磁界の漏洩を技術的にできるだけ低く押さえることを目的とし、推奨値(注:MPRUは法規制ではない。 ガイドラインとして発行されたので、限度値Limit Valueではなく、推奨値Recommended Valueとなっている)を定めた。
この推奨値はガイドライン案作成段階で当時市販されていたVDTの漏洩電磁界強度を実測し、その平均的な値を基に定めたといわれている。 健康影響の観点からそこまでVDTから漏洩する電磁界の放射を規制しなければならない、という医学的・科学的な根拠を持ってはいない。
このMPRUの推奨値は、例えば周波数50 Hzの磁界に関してVDTから50 cmの距離で250nT (2.5mGauss)という値であり、国際非電離放射線防護委員会ICNIRPや日本産業衛生学会が提唱する電磁界曝露基準等に比べると、数百分の1の低さである。
スウェーデンの労働組合総連合であるTCOは、厳しければ厳しいほど良いのであるという論法で、MPR2推奨値をさらにカットして、より低い規制値(例えば機器からの距離を30 cmに近づけた上で200nTという厳しい50 Hz磁界値)を提唱している。
このMPR2ガイドラインは、スウェーデンのガイドラインに過ぎないが、同類の規定類が他の国になく、国際的な規定も全く存在しなかったことから、パソコンの世界ではデファクトスタンダードとして取扱われ、世界各国に広がっていった。 スウェーデンの医学会は1988年にこうした規制は無用との声明を出したが、VDTのユーザの不安を払拭するに至っていない。
日本は世界に向けたVDTの供給基地の役目を担っており、スウェーデン向けに低周波電磁界漏洩を低く抑えた機器も輸出している。 国内向けと輸出モデルで異なる仕様にすることは、ダブルスタンダードとなり、好ましいことではない。そこで、日本のJEIDAは不安を感じるユーザの声に応ずる事が肝要との立場から、MPR2に準拠した基準値をもったガイドラインを1993年に制定した。
図1に電界に関する概要を、表2に磁界の概要を示す。
図1: 電界曝露限度値
表2: 磁界曝露比較 (50 Hz 磁界の場合)
規定
|
磁界強度
|
ICNIRP (国際非電離放射線防護委員会) |
100 μT |
TCO (スウェーデン) |
0.2
μT |
MPRU(スウェーデン) |
0.25 μT |
JEIDA (JEITA) (日本) |
0.25 μT |
*最近の動き: WHO
国際的に健康問題に関して指導的な立場にあるWHOが、きちんとした指針を出すべく、電磁界曝露や環境影響を評価する国際プロジェクトを発足させた。 このプロジェクトが公表した文書にFact Sheet 201「表示装置と人の健康」がある。
*最近の動き: JEIDA(現在は改組されてJEITA)
WHOの動きを受けて、VDTからの電磁界の健康影響に関する見解(理解と対応)を公表した(参照URL http;//www.jeita.or.jp/)。概要は『現在市販されているVDTについて、静電気や電磁界に関しては、健康への影響はなく、何ら対策の必要もない、と確信している。そして、3つの提案を行う。
1) カタログ等への記載表現について; (略)。
2) 電磁界防護用品について: VDT用OAエプロン等の電磁界防護用品に関しては当委員会でも推奨しない。
3) VDTの選択について: 電磁界レベルが低減されたことを保証する為に、JEIDAのガイドラインへの適合品で十分であり、これらの製品の使用を推奨する。』 である。
JEIDAの低周波電磁界ガイドラインは表2に示すように、ICNIRPの規制値に比べると十分に低く、スウェーデンのガイドラインに比べても同等のレベルである。
* 結論
上記WHOの見解によればVDTからの漏洩電磁界は気にする必要のないレベルであり、電磁界よりは、視覚作業に伴う目の疲れ、作業に伴うストレスの問題等の解決が重要である。 また長時間の連続作業を行わない様にVDT作業の自主管理を行う必要がある
2.VDTからの電磁界の実態(1) X線・紫外線 (抜粋) 2001年5月号
*X線:過去の調査結果
VDTからのX線漏洩の実態把握は、VDT普及開始時期のVDT作業問題が指摘された当初から行われている。
英国ではCoxによって「VDTからの放射線放射」1)が調査された。60社200種類のVDTからのX線漏洩量が調査され、結果は「最大で等価線量率10μrem/h以下」であった。仮に10μrem/hとして、24時間365日連続でVDTの前に座っていたとして合計87mrem以下であり、一回の胸部X線診断時のX線暴露量100mremを超えない。
林ら(1986)2)も市販VDTのX線漏洩を測定したが、機器の電源をオン・オフしても有意な差異は検出できず、最終的に検出された微弱なVDTからのX線は、内部の高い直流電圧が源ではなく「CRTの構造材のガラスに含まれるカリウムが放射源と推定」としている。
このように多くの調査が行われ、X線漏洩は問題がなかった、という結論になっている。
他の測定例を表1に示す。
表1 VDTからのX線実測の例
文献・研究 |
結果 |
ドイツ 1985年 Derfel et al.の研究 |
検出限界以下 |
アメリカ 1986年 Maiello et al.の研究 |
X線は検出されず |
労働省:VDTと労働衛生−資料編 1986年に記載: 浅野らの1983年の研究 |
10モデルの精密なX線測定 最悪値を示した1台: 0.43 μR/h 9モデル:0.0093 μR/h以下 |
*VDTからのX線の実態
まず、CRTの構造を説明する(図1)。 電子銃と呼ばれる部分から電子ビームが飛び出し、これがCRTの電極に印加された直流高電圧(カラーVDTの例では、15インチクラスで24 kV、21インチクラスで26-27 kV程度、モノクロVDTで17 kV程度)で加速されて、CRT前面ガラスの内部に塗布された蛍光体に衝突する。
モノクロCRTでは電子ビームはそのまま蛍光体に衝突する。 カラーCRTでは、カラーの表示を行う為に蛍光体の直前に鉄系合金製のマスクと呼ばれる構造体があり、マスクには丸い穴やスリット状の隙間が設けられている。
電子ビームはこの構造体の穴等を通り抜けて蛍光体に衝突する。 電子ビームの全量がマスクの穴を通過すれば、VDTとしては効率が良く、より明るい画面となる。 現実には多くの電子ビームが金属製のマスクに吸収されてしまい、ほんの一部しか蛍光体に到達しない。
高速に加速された電子ビームが金属にあたると、X線が発生する。CRTのガラスの管内で発生するX線は、直流25 kV程度に加速された電子ビームによるX線であり、50 kVや100 kVという加速電圧による医療用X線よりエネルギーは低い軟X線である。
発生したX線はCRTのガラスを通過して外に漏れることになる。 CRTの周囲のガラス(ファンネルと呼ばれる後側の部分)は、比較的薄いが、鉛を入れてX線の吸収を図っている。 前面のガラスには、構造的な問題があって鉛を入れることができない(鉛が入っていると誤って記述されている文献もある)。
前面ガラスの厚さは通常のドット管と呼ばれるCRT型の場合10 mm程度、アパチャグリル管の場合15 mm程度である。 この厚いガラスにCRT管内で発生したX線の大部分は吸収され、外に漏出すX線量は微小となる。
産業衛生等の観点から過去にVDTからのX線の実測例が調査され、結果が紹介されている。 その一つのデータによれば10種類のモデルのVDTからのX線が実測され、最大のデータでも輝度最大(アノード電流が最大になる条件)で0.00043mR/h となっている。 これは、こうしたCRTの動作条件から言えば、当然の帰結である。
図 CRTの基本構造図
* 紫外線
CRTの管内で可視光線が蛍光体から放出され、同時に微弱な紫外線も発生する。可視光は波長400 nm以上の波長を指す。 紫外線は場合によっては最大波長370 nm迄としたり、最大波長を400 nm迄を包含したりする。
CRTの発光スペクトラムは殆ど学術論文に公開されていない。発光スペクトラムの青発光色の一部で370 nmから400 nmの部分が、場合によって紫外線として検出される。
Z社の4種類のVDTから放出する紫外線の実測例を以下に述べる。 通常の事務所環境下では窓から入り込む太陽光に含まれる紫外線や、天上の蛍光灯から漏れ出る紫外線に邪魔されて、VDTからの紫外線は測定できなかった。 この時の蛍光灯照明下における背景量としての紫外線量は0.05〜0.06 mW/cm2程度であった。 暗室内でのVDTからの紫外線量測定結果は最大で0.06 mW/cm2であった。 測定はCRTの前面ガラスから5 cmの距離で行い、測定された紫外線の主要な波長は400 nmであった。
紫外線は石英ガラスといった特殊なガラスでなければ通過しない。 CRTのガラスはそうした石英ガラスではないので、管球の内部で発生した紫外線は、透過せず、外には漏れてこない。 漏れてくるのは可視光線との境界にある波長400 nm付近のスペクトラムである。
* 考察
WHO国際EMFプロジェクトのFact Sheet 201に、X線については非常に低エネルギーのX線がCRT内部で発生するが、前面ガラスが十分に厚いので、CRT内部から外に漏れる以前に完全に吸収される、という記述がある。
また、紫外線についてはCRTからは極めて僅かな量の紫外線が放射されるが、冬場の窓越しに入ってくるよりもはるかに少ない、という記述がある。
機器の構造や設計の観点からレビューした結果、WHOの見解を裏付けることができた。
3.VDTからの電磁界の実態(2) 高周波電磁界 (抜粋) 2001年7月号
* はじめに
VDT (Visual Display Terminal)からの電磁界の実態に関し、非電離放射線の一部、マイクロ波等の電波領域で周波数400
kHz以上の電磁界に限定して述べる。
* VDTからの高い周波数の電磁界漏洩の源
VDTはパソコンからの信号を電圧増幅する。最終的にCRTの電極に印加する時は、40 Vp-pから50 Vp-pという大きな電圧スイングになる。 回路部分からの電界漏洩に対処して、多くのVDTでは金属類で電磁界シールドを施したりして、機器から外に漏れる電界を抑制する。
こうした個所から非意図的に漏れ出る電波が電気通信に障害を起こすことになる。これらの機器からの電波漏洩を規制するため、アメリカのFCC(Federal Communication
Committee;連邦通信委員会)では1980年からコンピュータ機器(VDTに限定されない)からの電波漏洩の最大値を定めている。 また日本では1987年からVCCI(情報処理装置等電波障害自主協議会)が、コンピュータ機器(VDTに限定されない)から空間への電波漏洩が他の電気通信に障害を与えないようにと規制を行っている。 これら電波漏洩の規制対象となる周波数範囲は30 MHzから1 GHzもしくは3 GHz迄である。
* 3
GHzを超える電磁界漏洩の実態
高い周波数で3
GHzから22
GHz迄という周波領域ではどうか? 郵政省電波防護指針が発行された頃、筆者も参画して日本電子工業振興協会で調査が行われた。 この時の報告では、ホーンアンテナとスペクトラムアナライザを用いて、VDTの外殻からアンテナの開口部までの距離を22 cmまで近づけて、3種類のVDTを対象に測定を試みた。 結果は測定器の測定限界である56μV/m以下であった。 ICNIRP等の規定に比べて十分に低い。
* 30
MHz −3
GHzの電磁界放射の実態
図1にICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が1998年に定めた電磁界曝露の限度値等を示す。 産業衛生学会の同様な曝露基準もある。 ICNIRP-Gとしたカーブが、電界に関する一般公衆への曝露限度値である。 VCCI-1としたカーブは、VCCIのクラス1(他の通信機器への影響度が少ないので、電磁界放射が多少多くてもかまわないとした商工業地域で使用されるコンピュータ機器を対象とした規定)機器からの漏洩電界限度値で、機器から10m離れた場所での電界強度で規定されている値を、1mの距離に単純換算した値を示す。
30
MHzから230
MHzの周波数範囲では0.9
mV/m、230
MHzから1000
MHzの周波数範囲では約2
mV/mの電界が放射限度値となる。 VCCIの機器からの通信への妨害抑制を主目的とした輻射限度規定と、ICNIRPの生体への影響を主目的とした電磁界曝露限度規定を比べれば、100,000倍の開きがある。
TV放送電波はICNIRPの曝露基準を超えないようになっており、そうした強度のTV等の電波が存在する身の回りで、VCCI等で放射が規制されているVDTからの電磁界曝露は問題視する必要はないと考えられる。 図1には3モデルの実例も含めた。
図 電界放射と曝露限度値
* 400
kHzから30 MHzまでの磁界漏洩の実態
400 kHzを超え30 MHzまでの磁界漏洩に関しては波長が長くなり、波源にも近くなるので、磁界を独立なものとして捉える必要が出てくる。 この周波数帯の磁界漏洩もほとんど注目されることがないので、データは僅少である。VDT専業メーカからの報告も見当たらないが、日本板ガラス(株)の協力でデータが得られたのでそれらの数値を紹介する。 この値はICNIRPの一般公衆に対する電磁界暴露基準の26万分の1である。より高い周波数の磁界は更に低い。
図 磁界曝露と限度値
* 考察
VDTからの漏洩電磁界の中で、周波数を400 kHzより高い帯域に限定して言えば、放射電力の推定や近傍界としての数値計算結果から、また正しく実測を行っている過去の例からも、電磁界強度はICNIRPや産業衛生学会の許容基準を十分に満足している、ということができる。 本稿で述べた範囲の電波領域の生体影響は考える必要が無いといえる。 TV受信機等への通信障害は起こりえるが、これは健康問題と別である。
4. VDTからの電磁界の実態 (3)低周波電磁界 (抜粋) 2001年9月号
*はじめに
VDT (Visual Display Terminal)の電磁界の実態について、今回は非電離放射線の中の低周波電磁界(400
kHz以下の周波数)に関して述べる。
周波数範囲から、ELF
(Extremely Low Frequency)やVLF
(Very Low Frequency)という言葉がある。VDTの低周波電磁界規制ガイドラインであるスウェーデンのMPR2は、ELFをバンドIとして周波数5
Hzから2 kHzの帯域とし、VLFをバンドUとして周波数2
kHzから400 kHz迄の帯域であると定義した。本稿はバンドTの周波数帯域をELF、バンドUの周波数帯域をVLFとして記述する。
* VDTの低周波電磁界漏洩源
VDTは広範囲の周波数で動作する電子部品や回路の集合体であり、色々な帯域の電磁界がVDTから非意図的に放射される。ELFやVLFという低周波電磁界もその一つである。
CRTの構造と偏向ヨーク:CRTに使用されている偏向ヨークは発生磁界の中に電子ビームを通すことを主目的に設計されるので、磁束の通路は開磁路となり、VDTの外部に磁界が漏洩し易い。 偏向ヨークの水平コイルからVLF磁界、垂直コイルからELF磁界が漏洩する。
* 低周波電磁界と健康影響の不安
VDTから漏洩する電磁界の中で、X線、紫外線、可視光線、マイクロ波といった電波領域は今迄述べてきたように、かなり厳密に評価され、安全性が判断できる。 しかし、ELF磁界に関しては、まだ最終的な結論が出ていない。 例えば、高圧送電線由来の磁界と小児癌との関係ついての疫学調査によれば、2mGauss(0.2μT)や3mGaussを超えると小児ガンが増加するという報告もあり、またそれを否定する報告もある。
高圧送電線由来の磁界と、同類の周波数の磁界をVDTは漏洩していることから、一部の労働組合や作業者は、不安を感じている。 この不安感から、行動を開始したのはスウェーデンの労働組合であり、スウェーデン政府に方策実施を要求した。 その結果、基準値として採用できる様な科学的論拠がないので、ALARA(As Low As Reasonable available :合理的に可能な限りできるだけ低くする)アプローチが選択されてMPRガイドラインの発効に結びついた。 1986年、案の制定の為に市販VDTの測定を行い、その中央値をもって基準値とした。
表1に関連する規定の概要を示す。
|
表1:VDTからの電磁界放射に関する規定の概要 |
|
|||
|
|
スウェーデン |
欧州 |
日本 |
スウェーデン |
|
|
MPR 2 |
ECMA/TC20/92/88 |
JEIDA-G-15-1996: JEIDA-G-11-1996 |
TCO'99 |
|
|
(1990) |
Final Draft 2nd Edition |
||
磁界 |
Band 1 |
250 nT 正面と周囲 50cm |
← |
← |
200 nT: 正面30cm 200 nT: 周囲50m |
( 5Hz-2kHz) |
|||||
Band 2 |
25 nT 正面と周囲 50cm |
← |
← |
← |
|
(2kHz-400kHz) |
|||||
電界 |
Band 1 |
25 V/m 正面50cm |
Class I: 50 V/m
ClassU:250 V/m 正面 50cm |
← |
10 V/m: 正面30cm 10 V/m: 周囲 50 cm |
(5Hz-2kHz) |
|||||
Band 2 |
2.5 V/m 正面と周囲 50cm |
10 V/m
正面と周囲 50cm |
← |
1 V/m: 正面30cm 1 V/m: 周囲
50cm |
|
(2kHz-400kHz) |
|||||
静電気 |
+/-500V |
n/a |
+/-500V |
+/-500V |
3.結論
ELF/VLFの電界と磁界に関して、JEIDAやMPR2ガイドラインに適合した製品の選択が好ましく、十分であり、TCOの規定に合致した低電磁界製品を使用する必要性は少ない。
VDTが低電磁界対応製品でなくとも、現時点のICNIRPや産業衛生学会の電磁界暴露限度値に比べると十分に低いレベルである。
比較的微少なELF磁界(例:0.4μT程度)の健康影響の研究が現在も行われている。 それらの結論がまだ完全に出ていない。従って、それらの結論によっては、本稿に述べた論は見直しが必要になる可能性は残っている。 本稿のみならず、ICNIRPのガイドラインも、産業衛生学会の許容曝露基準も見直しが必要になる。
今後とも電磁界の健康影響に関する研究の動向などを継続してウオッチしていかなければならない。
5.VDTからの電磁界の実態 (4)静電気 (抜粋) 2001年11月号
* はじめに
VDT (Visual Display Terminal)からの電磁界の実態として、今回は非電離放射線の中の静電磁界である静電気について述べる。
* VDT
における静電気の源
CRT
(Cathode Ray Tube)を用いたVDT は管面に静電気が発生する。CRT管球内部に金属製マスクがあり、25 kVの直流高電圧が印加される。 この電圧はVDT の画面サイズを示すインチ数が大きくなると少しずつ高くなり、21インチカラーVDT で27 kV程度、モノクロVDT では17 kV程度である。
CRTの外殻はガラスで、電気絶縁体である。 ガラスの片側(内部)に直流高電圧が印加されると静電誘導で画面が表示される管面(前面)に静電気が誘導される。 CRT管面に発生した電荷は空気中の水分等へ放電する。 帯電防止処理を行っていないCRT管面の帯電量はVDT 使用環境下の湿度の影響を受けることになる。 管面に埃があれば放電が加速される。 VDT 動作時は管面にプラスの電位が、電源をOffにすればマイナスに帯電する。
* VDT
からの静電気による皮膚障害の症例
VDT が普及し始めた1980年代の初頭にVDT 作業に由来する健康問題が発生した。
その一つはVDT
の静電気に絡むものと疑われた。 例えばTjonnよる研究「顔面発疹―ノルウエーの場合」によれば、1979年にノルウエーで多くのVDT オペレータの顔に発疹ができたという。 「症例は全て冬に起こった。仕事中の部屋の気温は20℃〜22℃であった。 相対湿度は約40 %かそれ以下であった。 皮膚に変化のあった仕事部屋ではビニールの敷物が床に敷かれていた1部屋を除いて全て合成繊維のカーペットで覆われていた」ので、電気的に絶縁されたカーペットの上で低湿度の空気の中で作業者の体に帯電した静電気と、VDT 管面の静電気帯電が疑われた。
日本では松永らが、女性作業者の顔面に皮膚障害が発生したという日本で唯一の症例を報告した。 気温26.5℃、相対湿度41 %、VDT 管面の帯電は+5 kV、顔の部分の帯電は-0.2 kVという条件下で発生し、OAフィルタの装着でVDT の帯電処理がなされて症状は消えた。
また松永ら(1987)は、当時のVDT 作業者で皮膚障害を訴えた症例(n = 3)が使用しているVDTの静電気と、そうした症状を訴えない対照(n = 16)が使用しているVDTの静電気の調査をした。 結果はそれぞれ平均値が0.6 kV,3.3 kVとなっており、皮膚障害がVDTの帯電量の少ない機種の使用者に発生し、帯電量と比例してない。
渥美ら(1988)はVDT と目の影響について、空気中の粉塵がVDT 管面の静電気で弾き飛ばされて角膜を傷つける恐れがあると考えて研究を行った。 気温25℃、相対湿度25 %という乾燥した条件下で、視距離10−30 cmという至近距離でマージャンゲームを120分にわたって注視させた結果、目に角膜びらんが発生したと報告している。
こうした至近距離で2時間も注視し続ければ、目の涙の枯渇等で目に何らかの異常が発生することが予想できる。 その報告は「たとえ塵埃が飛散するとしても10−20 cmであり、CRT管面から20 cm距離では静電気は1 kV程度に減少する。 これらのことから30 cmを超える距離を保てばあまり問題がない。」と結んでいる。
Kohらのシンガポールでの研究(1990)によれば、直流高電圧を使用せず、管面に静電気の発生の恐れがないプラズマ(当時12インチ程度のサイズのプラズマが平面VDTとして市販)を使用したVDT の作業者からも、多くの皮膚異常が訴えられている。 皮膚異常を訴えたのは、CRTタイプVDT 使用者403名中46名(11.4 %)、プラズマVDT 使用者269名中26名(13.4 %)であった。顔面の皮膚異常は、VDT の管面に帯電する静電気以外の他の要素が交絡している可能性を示唆している。
その後の研究ではスウェーデンのWahlberg (1991)が「皮膚疾患とVDT作業に関する科学研究とスウェーデンマスメディアによる宣伝について調査した。 VDTが皮膚疾患を発症させるとの仮説を支持するものは全く得られなかった。 この流行病はマスメディアが人々を動揺させたことを強調したい。」と述べている。 VDT の静電気は問題がないという報告である。
これらのことから、本稿ではVDTからの静電気の健康影響の有無等に関して結論を出すことはしないが、静電気は「VDT から電磁界の実態」として連載してきた電磁界の中では唯一生体への障害が症例として報告されているカテゴリーである。
* VDT
の静電気帯電圧の実例
最近のVDT
には帯電防止処理が施されているが、帯電処理の未実施時代の例と帯電処理実施の例を図1に示す。
現在、ほとんどのCRTモニタには静電気帯電防止処理がされている。
* 静電気とマイナスイオン
マイナスイオンとVDT
からの静電気の問題を述べる。Hawkinsの研究によれば、VDT 管面の静電気(14インチVDT が+6 kVに帯電している)によりVDTの周囲にはマイナスイオンが少なくなる。 VDT から5 m 離れた場所では1 cm3あたり400個のマイナスイオンがあるが、1 mの距離では130個に減少していることを示し、マイナスイオンの不足と健康問題を提起している。
このようなイオン分布の乱れも前項で述べたCRT管面に帯電防止処理を行っている最近のVDT では、問題はなくなる。
* 結論
静電気の健康影響に関しては過去に皮膚障害等の症例が報告されている。最近のVDT
では帯電防止処理がなされている。埃塵の影響で画面が見にくくなることも少なくなるので、これらの機器の使用を推奨する。静磁気に関しても問題はない。
図 静電気
6. LCDからの電磁界 (抜粋) 2002年1月号
*はじめに
液晶モニタは普及し始めた頃に、液晶モニタの特徴の一つとして、厳密に言えば「電磁界の漏洩量が少ない」もしくは「放射電磁界強度値が低い」とすべきであるが、「電磁界が少ない」というカタログ等の表現が用いられていた。 「Low Radiation」という意味で「低電磁界」もしくは「低電磁界放射」というセールストークも用いられていた。
その後、液晶モニタの製造会社や販売会社は、この「低電磁界漏洩」という表現は厳密な表現ではないことに気がつき、徐々にこのセールストークはカタログ等から消えて行った。
そこで、2000年6月、液晶タイプVDTを製造・販売している各社のインターネットホームページを検索して、液晶タイプVDTの特徴や仕様の欄で、電磁界と健康影響に関する記載内容を調査した(全32社)。 結果は電磁界の健康問題に関して何も触れていない会社が16社(50 %)を占め、「液晶は電磁界が少ないので安全」という記述をしている会社は3社(9 %)と、低電磁界漏洩のセールストークを維持している会社は少なくなっていることを確認した。
さらに、電磁界漏洩に関する何らかの記述のあった会社の中から選択して、電磁界漏洩の検証について問い合わせたが、電源部からの電磁界漏洩量を含めて、液晶タイプVDTからの低電磁界漏洩に関して、きちんとした科学的な論拠を持ってその優位性を明示した回答は無かった。
* CRT/液晶タイプ間に差異のない電磁界パート
1) X線の放射
CRTではアノード電極に直流25 kVといった高電圧を使用するのでX線が発生するが、X線は10 mm、15 mmの厚さのガラスで吸収され、外に漏れてくるX線は通常の使用条件では自然界に存在するX線の量以下である。 液晶では直流高電圧は使用していないのでX線の発生源が存在しない。
従って、X線に関して言えばCRTタイプ、液晶タイプとも問題視するレベルではない。
2) 紫外線の放射
CRTの蛍光体からは波長が400 nm付近の可視光領域との境界線上のUVAを少し放出する。 そのレベルは天上灯の蛍光ランプ点灯下や窓から太陽光が入り込む条件では、VDTからの紫外線は測定できない量であり、問題視するレベルではない。
液晶タイプVDTでも問題はないと思われるが、どの程度紫外線が放出されているのか、一つ課題がある。 液晶タイプVDTからの紫外線の実測データは現在調査中である。 問題はないと思われるが、今後もより明るい液晶パネルができていく。 それが技術・市場の動向であることを考えれば、基本的にUVCの波長である254 nmの紫外線漏洩の可能性を秘めるバックライトを採用した液晶タイプVDTに関する検証は必要である。
3) マイクロ波等の電波領域の電磁界放射
VDTを含む全てのタイプのパソコン機器は、機器から漏洩する高周波の電界が、業務として行っている電気通信やTV放送等の受信に障害を与えないように、法的(アメリカでは連邦通信委員会(FCC)によって法規制が行われている) もしくは自主規制(日本の場合はVCCIという自主規制)として対応が行われている。
通常職場や住環境に存在するTV放送等より低いレベルにVDTからの漏洩は規制されている。 これらの規制はCRTタイプVDT、液晶タイプVDT共に対象となる。
結果として、CRTタイプVDTも液晶タイプVDTも共にICNIRP等の規定する電磁界暴露基準は十分に満足し、問題はないレベルといえる。
* CRT/液晶タイプ間に差のある電磁界パート:低周波電磁界
山口らの報告(2000年)によるCRTモニタと液晶モニタの低周波電磁界漏洩の差異を見れば、液晶であっても、必ずしもCRTモニタよりあらゆる面で低電磁界であるとは言えず、液晶タイプが大きいところもあった。
一般のオフィス環境でバックグランドとして存在する低周波電磁界レベルは職場により変動するが、バックグランドノイズが比較的高い職場と比べると、MPR2や日本電子工業振興協会(JEIDA)ガイドライン規制値レベルの方が低い為、それらのガイドラインを満足しているCRTモニタと液晶モニタからの電磁界の放出レベルは、同じレベルであると判断することができる。 低周波電磁界は電源回路を有する全ての電気製品から輻射される。
* 考察・結論
CRTは電子銃から発した電子ビームを偏向して画像を作成する為に、偏向ヨークという開磁路の磁気部品を使用しており、ELFやVLFの磁界漏洩がある。
これに対して、液晶パネル(液晶タイプVDTに使用する表示デバイスの部分だけを取り出すと、液晶分子や偏光板等から構成される部分となる、これを液晶パネルと呼ぶ)の場合は、その構造原理から磁気偏向を使用しない。 従って、ELF等の磁界の漏洩はない。
液晶パネルの部分(部品)だけを取り出していえれば、ELF磁界の漏洩はないということは正しい。 この点のみをとらえて拡大解釈し、液晶パネルを製造している日本電子機械工業会液晶産業研究会や、液晶パネルを購入して組み込みんで 液晶モニタを製造し、それらを販売している会社の多くが、誤って「液晶タイプVDTや液晶モニタは低電磁界漏洩である」と判断されたと考える。
液晶パネルを組み込んで液晶モニタもしくは液晶タイプVDTに仕上げる為には、AC 100V交流電源から電源を得る必要があり、液晶パネルを動作させる為に各種電子回路や電子部品が必要となり、また、光源としてバックライトを点灯する為にVLF周波数帯で動作する特殊な電源回路が必要となる。 これらの電子回路・電子部品からはELFやVLF電磁界の漏洩の可能性が残る。
漏洩する電磁界の周波数帯等を明記しないで、カタログやセールストークとして、液晶タイプVDTは「電磁界が少ない」「低電磁界漏洩である」等の表現を行うことは、公正取引委員会による警告「優良誤認」の恐れさえあると考える。
機器からの電磁界漏洩の健康影響に関して必要以上の不安感を持つが故に、単純に液晶タイプVDTを選択したとすれば、それは間違いとさえいえる。 それぞれのVDT機器の特性、使用する環境等から、適切なVDT機器を選択すべきである。
7.電磁波防護用品の効果 (抜粋) 2002年3月号
* .始めに
VDT
(Visual Display Terminal)用のOAエプロンやOA画面フィルタ等の電磁界遮断特性に関し、電磁界遮断効果があるのか、防護用品を使用する意味があるかについて、調査を行った結果を述べる。
これらの電磁界防護用品は多くのパソコン販売店で販売されおり、カタログの表記を調査したが、電磁界遮断効果に関しては明確な論拠は示されていなかった。 僅かに記載されている情報から遮断性能の検証方法を吟味してみたが疑問が残った。そして、これらの用品の製造会社や販売会社に問合わせたが正確な論拠・十分な情報は得られなかった。
* 調査結果
OAエプロンとOAフィルタのOA環境下を模した状態での電磁界シールド効果の測定を、低周波電磁界に限定して行った。 (高い周波数ではVDT機器からの電磁界輻射は低く、防護の要がない為)
OAフィルタの電界シールド効果を表1に例示する。 フィルタはNR社製で大地への接地線が取付けてあり、測定は接地して行った。 図1にその他の例を示す。
フィルタの電界に関しては
表1: OAフィルタの電界シールド特性例
|
周波数帯域 ELF |
周波数帯域 VLF |
||||
|
フィルタ無し |
フィルタ有り |
減衰率 |
フィルタ無し |
フィルタ有り |
減衰率 |
正面 |
36.80 |
15.99 |
56.5% |
5.30 |
1.92 |
63.8% |
90度 |
22.30 |
17.28 |
22.5% |
7.02 |
6.20 |
11.7% |
180度 |
21.00 |
18.60 |
11.4% |
6.51 |
6.31 |
3.1% |
270度 |
27.00 |
24.50 |
9.3% |
3.98 |
3.20 |
19.6% |
一方 フィルタの磁界に関しては
図 フィルタの効果
注: ELFとVLFの説明
*ELF: Extremely Low Frequencyの略語
低周波電磁界の中での50Hz 60Hz などの低い周波数を取り扱う
*VLF: Very Low Frequency
の略語
低周波電磁界の中で、10kHz、50kHzといった少し高い周波数を取り扱う。
そして、OAエプロンに関しては
筆者も共同口演者となった報告から引用して紹介する。 結果は表2に示す。
電界に関しては2 %のカットから最良で22 %のカット率に過ぎず、磁界に関してはほとんど効果がない。
表2 OAエプロンの電磁界シールド効果の測定
電磁界の種類 |
MPR-2 推奨値 |
エプロン無し |
A社製 |
B社製( Niメッキ) |
B社製(Cuメッキ) |
VLF電界 |
2.5 V/m |
1.96
V/m |
22%カット |
2%カット |
9%カット |
ELF電界 |
25 V/m |
2.12 V/m |
22%カット |
8%カット |
10%カット |
VLF磁界 |
25 nT |
8.16 nT |
2%カット |
1%増加 |
変わらず |
ELF磁界 |
250 nT |
50.6 nT |
変わらず |
変わらず |
変わらず |
* 考察
電磁界防護用品の効果検証に「KEC法」や「アドバンテスト法」を用いている場合がある。 これらは近接電磁界法やTEMセルを用いたシールド素材としての測定法である。
シールド素材の評価法の代表として、アドバンテスト法の近接電磁界法(図2)で考えてみる。 2つの金属製チャンバの間に窓を開け、電磁界送信アンテナを入れたチャンバ側から発信し、受信アンテナを入れたチャンバで受信をする。 窓に何も無い時は電磁界が通過するが、試験片を置くと電磁界の直進は遮断される。 試験片の有無で得られた電磁界の伝達比からシールド素材の電磁界遮断特性を得る。 これらの方法では全て試験片のシールド素材の縁からは電磁界が回り込まないようにしてある。
この方法はシールド素材の試験方法としては妥当な試験法である。電磁界には回折という現象がある。
電磁界は有限の大きさを持つシールド材の縁から回り込む(図3)。 無限大のシールド素材を用いるか、もしくは人体保護の場合には頭の天辺から足のつま先まで隙間無く電磁界シールド素材で蔽った時にのみ、図2の測定で得られた電磁界遮断性能が実効的に発揮できる。
実際のOAエプロンやOAフィルタは有限の大きさであり、開口しているので、KEC法等で素材としての電磁界シールド効果が得られたとしても、実際の製品でも遮断効果があるのかは再検証しなければならない。
図 シールド材料のテスト法
図 回折の説明
* 結論
今回の検証でOAエプロンは、殆ど実効的に、電磁界防護効果がない、OAフィルタは電界抑制に効果があるが、それは必ず接地して使用しなければならない、ということが判った。