2003年11月に講演を行った産業衛生学会・VDT作業研究会のレジメを編集した内容です。
 他のページでの情報と重複しますが、VDTからの電磁波に関する情報です。
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VDTからの電磁界の実態 (CRTタイプと液晶タイプ)
産業衛生学会 VDT作業研究会
2003年11月15日
  
      
1.マスコミに登場する電磁波の健康影響に関連する各種報道
例: 朝日新聞 2002年8月24日 低周波磁界が問題、家電も調査
   超低周波磁界 0.4μT以上で小児白血病2倍
例: 週刊誌 週刊朝日 2002年9月15日号
   テレビ・パソコンからの電磁波漬け
例: 朝日新聞 2003年8月6日
   マンション屋上に携帯基地アンテナ
例: 産経新聞 2003年10月11日
   携帯電話の電波と脳腫瘍 因果関係認められず
*VDT作業研究会の課題
VDTからの電磁波の健康影響に関する正しい知識
        これが 本日の主題
継続して 電磁波の健康影響に関する情報の収集と理解が必要
*参考文献・引用文献の紹介
産業衛生学雑誌に掲載 三浦正悦:2001年5月号から2002年3月号
・VDTからの電磁界の健康影響(総論)
・VDTからの電磁界の実態 X線・紫外線
・ 同上       高周波電磁界
・ 同上       低周波電磁界
・ 同上       静電気    
・ LCDからの電磁界  
・ 電磁波防護用品の効果     
冨永洋志夫 「VDT作業の物理環境」 労働科学研究所 1990年
2.電磁波とは 何か
 
・電磁波という用語
・電磁界という用語
・電磁場という用語
・電波(通信に使用するパート)という用語
*電磁波とは? 広義な用語である、巷にあふれる電磁波という言葉
・X線診断装置のX線も電磁波
・目に見える光も電磁波
・障子は光をさえぎることができる  「障子は電磁波をカットする」
・携帯電話の電波も電磁波  「携帯電話から電磁波が発生」
   論議すべき電磁波の範囲を定義つけてから論議する
 
*電磁波の範囲と主な用途 
 
表1:電磁波の範囲と主な用途、パソコンから微量であっても漏洩しているパート
|  |  | 周波数 | 波長 | 主な用途 | パソコンからの放射 | 
| 電離放射線 | X線、ガンマー線 | 1017以上 |   | X線医療診断 | ブラウン管からX線 | 
| 紫外線(短い波長:100nm以下) | 1016-1017 | 100nm 以下 |  |  | |
| 非電離放射線 | 紫外線(長い波長) | 1015-1016 | 400nm-100nm |  | 可視光線との境目の紫外線 | 
| 可視光線 | 1014 | 720nm-400nm |  | 意図的に放射 | |
| 赤外線 | 1012-1014 | 1mm-720nm | 赤外線ストーブ |  | |
| ミリ波 | 30GHz-300GHz | 10mm-1mm | 今後の電気通信 |  | |
| マイクロ波 | 1GHz-30GHz | 30cm−1cm | 電気通信 | クロック信号や映像回路から非意図的な漏洩 | |
| 中波、短波、VHF等 | 30kHz-10GHz | 10km−3cm | テレビやラジオ放送 | ||
| 低周波電磁波 | 30kHz以下 | 10km以上 | 電力 | ブラウン管の偏向回路などから | |
| 直流電磁界 | ゼロ | 無限大 | 磁石 | ブラウン管の管面の静電気 | 
注)周波数や波長は概数です。
*VDTからの輻射の特徴
・VDT(特にCRTを用いたもの)はX線から紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波などの電波、低周波電磁界、静電気までほとんどすべての電磁界を放射(漏洩)
・意図的な放射: 可視光
・非意図的な放射: その他の電磁界
*電磁波の定義、電磁波の範囲: 電界
電界とは、厳密な電界の定義とは異なるが静電気等のある場所で塵芥などが引き付けられるような力が働く場所、そういう目には見えないが、電気の力が働いている場(界)
電界は測定が可能で固有の 単位を持つ V/m 1,000V/m = 1 kV/m
電場:電界と同義語
 
*電磁波の定義、電磁波の範囲: 磁界
磁界とは磁界:厳密な磁界の定義とは異なるが、磁石がある場所で釘等が引き付けられるような力が働く場所、目には見えないが磁気(磁石)の力が働いている場(界) 
磁界は測定が可能で、固有の単位を持つ  テスラ T(ガウス G: 古い単位) A/m 
1,000μT=1 mT   1,000mT =1
T   1,000mG
=1 G    10,000G =1T 
磁場: 磁界と同義語
  
*電磁波の伝播
 
    
電波(電磁波)の進行方向 (波源から離れた遠方界の場合)
*波長・周波数
電磁波は繰り返す波として伝播する
 周波数:1秒間に繰り返す回数  
 単位はヘルツ(Hz)1,000 Hz=1 kHz  1,000 kHz=1 MHz、1,000 MHz=1 GHz
 
電磁波は光速(1秒間に30万km)で伝播
 波の長さ(波長):30万km/周波数
 例:50Hz:6,000km  900MHz: 33cm
 周波数・波長が異なれば、生体への影響は異なる
*電磁波の健康影響を考える時
・低周波 50Hz 60Hz   電界と磁界は個別に 磁界の影響に着目
・高周波 携帯電話 基地局  電界もしくは磁界で
・高周波 携帯電話 ハンドセット 近傍界 アンテナと頭部が近接  SARで考える
ということで、観点が異なってくる
3.健康影響が疑われたVDT
職場のVDT作業者の中にVDTからの電磁界の健康影響を気にする声が残っている 
VDT作業に関連する健康問題はパソコン普及開始時の1980年代初頭に発生
 電磁界はその原因として疑われた そして、各種調査が行われた 
*健康影響に関する見解 
・アメリカ・科学アカデミー: VDTワークと人間  1983 :
「現在の知識から、VDTからの放射線のレベルはほとんど危害がない
(注;放射線の項で、低周波電磁界等も論及している)」 
・日本・労働省 VDTと労働衛生−資料集 1986 :
「このレポートにおいて論じられた分析結果に関する限り、VDTを操作する人が、近傍電磁界に曝露されることによって健康障害を起こすという確かな証拠を見つける事は出来なかった 」
・アメリカ・IEEE VDTからの電磁界の健康影響に関する宣言  1990 :
 「VDTからの電磁界が健康に影響して いるという確証はないと判断 」
・WHO国際EMFプロジェクト fact Sheet 201 VDTと人の健康: 
「VDT作業に関連した健康影響の決定因子は、VDTからの電磁界の発生そのものではなく、職場環境にあるだろうとの見解を述べています」 
*突出したスウェーデン
・健康影響に関する不安感からVDTからの低周波電磁界の漏洩に関して規制を行うべき、と労働組合が主張
・1990年にMPR2ガイドライン発行
・TCOが輪をかけて規制提案
・デファクトスタンダードとなる
・日本のJEITAも追従
4.CRTを用いたVDTの実態
*X線の発生源
  
 
*X線の実測例
表2:表示装置からのX線実測の例
| 文献・研究   |  結果 | 
| ドイツ Derfel et al.の研究、1985年 | 検出限界以下 | 
| アメリカ Maiello et al.の研究、1986年 | X線は検出されず | 
| 労働省:VDTと労働衛生−資料編 1986年に記載された浅野らの1983年の研究 (文献6) | 10モデルの精密なX線測定 最悪値を示した1台:0.43μR/h 9モデル:0.0093μR/h以下 | 
*X線の実態
  
  
図5:ブラウン管の動作状況と、X線漏洩状況を示す図
注*太い破線:20インチブラウン管の場合の0.5mR/h限度カーブ             
*その他は全て14インチブラウン管の場合。
*太線は14インチブラウン管の0.5mR/h限度カーブ
*0.1mR/hから0.003mR/hまで4点は、それぞれ300μAの時のX線量
*丸印のカーブは、通常の14インチ表示装置のブラウン管としての動作状態
*四角印のカーブは、表示装置に異常が発生して、陽極電圧が異常に上昇した時、保護回路が動作する点
*紫外線の発生源
 
  
 図6:カラーブラウン管からの発光特性の例   □の部分が紫外線として検出される場合がある
*紫外線の実測
・通常の事務所環境下では窓から入り込む太陽光に含まれる紫外線や、天上の蛍光灯から漏れ出る紫外線に邪魔されてVDTからの紫外線は測定不可能
・蛍光灯照明下における背景量としての紫外線量は0.05〜0.06 mW/cm2程度
・暗室内に持ち込み、ようやく測定可能
VDTからの紫外線量測定結果 最大で0.06 mW/cm2
 測定はCRTの前面ガラスから5cmの距離  測定された紫外線の主要な波長は400nm
*可視光
問題視されず 割愛
*赤外線
筐体の温度に比例して放射  ほとんど問題視されず 割愛
*マイクロ波等の電波帯域の発信源
 
  
*3GHz - 22GHz電界の実態
郵政省電波防護指針が発行された頃の日本電子工業振興協会で調査 :
ホーンアンテナとスペアナを用いてVDTの外殻からアンテナの開口部までの距離を22cmまで近づけて 3種類のVDTを対象に測定    結果:測定器の測定限界の56μV/m以下
*0.4MHz
- 3GHz電界の実態 
 
  
*0.4MHz
- 30MHz磁界の実態
 
 
   管面から50cmで測定
*400kHz以下
(ELF/VLF)の発信源
  
  
発信源:偏向ヨーク 電源部 FBT

偏向ヨークに流れる電流波形の例
*400KHz以下
(ELF/VLF)の規制
・JEITA、MPR2などのガイドラインで規定、TCOで規定
・規制値(推奨値):ALARAで規定
・ユーザの不安感の払拭に有効
*ELF/VLFの電界規制
  
   
*ELF/VLFの磁界規制
  
    
*VLF磁界の周波数分析の例
 
    
 機器から20cmで測定
*FBTからのVLF電界の実例
 
  
*ELF磁界の実例
 
 
*静電気の発生源
・CRTの内部には25kVといった直流の高電圧が印加されている
・CRTのガラスは電気の絶縁物
・前面に静電気が誘導する
*静電気での障害事例
・北欧などの冬季に絶縁された床カーペットの上でのOA作業で、 皮膚の異常など発生
・VDTからの電磁界では唯一の障害事例
・日本でも症例報告が1件(松永)ある
*静電気の実例
 
  
 湿度に大きく依存
*静電気の対策
帯電防止処理を実施  電源オン後20分後で500V以下
 
  
*静磁気(直流磁気)
・直流の地磁気の変動にも弱いCRT
・地磁気のレベルを超える静磁気(直流磁気)の外部への漏洩は考えられない
*結論
CRTからの実態報告やWHO文書Fact Sheet 201などから一般論としては 「大丈夫」「有害なレベルではない」 
ただし
1) 弱視者などの近距離使用
2) 過渡的な磁界漏洩(消磁コイル)による ペースメーカへの影響は
継続的な検討は必要
5.液晶を用いたVDTの場合
*X線
・CRT:発生源あり でも低レベル
・液晶 :発生源なし            ともに問題なし
*紫外線
・CRT:可視光線の一部が紫外線  でも低レベル
・液晶:バックライトの蛍光灯から  の漏洩   実測データ なし 
      多分 ともに 問題なし
*可視光
CRT 液晶:ともに問題視されず
*赤外線
CRT 液晶:ともに問題視されず
*30MHz以上の高周波電磁界
CRT、液晶ともにVCCI、FCCなどで規制 遠方界での電界漏洩   CRTと液晶は同一条件にある
*VLF/ELFの電磁界
・発信源
  CRT:偏向ヨーク、FBT,電源部
  液晶 :            電源部
(液晶のパネル部だけ取れば、ELF/VLFの磁界発生源はない → 液晶は電磁界が少ない と誤った主因)
・実態:ともにMPR-2やJEITAのガイドラインに適合    同一条件
*静電気
・CRT:発生源あり 対策を実施
・液晶 :発生源なし         ともに問題なし
*結論
・CRTと液晶では、差異はない
・「液晶は電磁波が少ない」ということはいえない、誤りである
6.最後に
・三浦正悦の解説論文(産業衛生学会)活用
・WEB「電磁波健康影響講座」参照  http://homepage3.nifty.com/~bemsj/ 
・「仮題:電磁波の健康影響の基礎」執筆中 出版されたら参照
  
終わり  ご清聴に感謝