高周波電磁界に関するコーナ(6)


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このページでは、モスクワシグナルと呼ばれたマイクロ波電波による健康影響などに関して、解説を行います。

 

1.モスクワシグナルの謎


*ノンフィクションレポートから
1950年代にモスクワのアメリカ大使館で、盗聴装置の県債をしているときに、道を隔てた向こう側から弱い電波が大使館に向けて照射されていることが判明した。
これが後に、モスクワシグナルと呼ばれる電波の登場であった。


このモスクワシグナルに関しては、新聞記者時代も長かったイギリスの作家ブライアン・フリーマントルのノンフィクション・リポート『KGB(新庄哲夫訳)がある。
この中から一節を引用する。

「ソ連の電子盗聴技術が高度化、精密化していることがアメリカ当局を惜然とさせるほどのものだと判明したのは、1976年である。
モスクワのアメリカ大使館に勤務する二人の外交官がリソパ腺ガソにかかり、ウォルター・ストーセル大使は理由不明のしつこい吐き気にみまわれ、ついで眼から出血しはじめたことがあった。

ワシソトソからモスクワに専門医が派遺されたが、診断によれば、大使館となっているチャイコフスキー通りの革命まえに建てられた十階建てビルに勤務するスタッフは、電子監視装置が発するマイクロウェーブ放射線を間断なく浴びているというのであった。

大使がとくに障害を受けたのは、十階にある執務室がもっとも多量にマイクロウェーブ放射線を浴びたためであった。

ソ連側はアメリカ大使館に向けて、放射線を照射している事実を否定しなかった。そのいい分によると、ソ連側は合衆国のあまりにも精密な超感度の盗聴装置を妨害する方式をとっているが、それはアメリカ側がブレジネフ書記長の使うカーテレフォンを盗聴している疑いがあったからだというのである。

アメリカ側もブレジネフの車内電話に波長を合わせている事実は否定しなかった。ただ沈黙を守ったまま、建物内に放射線遮断壁をとりつけただけであった」

ここで「マイクロウェーブ放射線」といっているのは、micro-wave radiation 厳格には「マイクロ波の放射」とすべきところであるが、正確に翻訳していなかったと思われる。

 このモスクワシグナルのマイクロ波照射の強さは年々の変化もあり、最も強い時期の電力密度は15マイクロW/cm2で、照射時間は118時間であった、そしてこのモスクワシグナルの照射は1979年に終わっている。 
このモスクワシグナルは、電磁波の健康影響を語るときに、微弱なマイクロ波電波の健康影響の例として、しばしば登場する。

引用:フリーマントル著 新庄哲夫訳「KGB」新潮選書 (原著は1982年)

*科学的な検証は
モスクワ大使館で弱いマイクロ波電磁界の暴露を受けた職員を対象に、Lilienfeldが行った調査研究(1978年)では、暴露の影響は認められなかった
しかし、がんの症例数がわずか数例であり、この研究だけで結論を出すことには難がある。

引用文献:多氣昌生「高周波電磁界について」第1回電磁界の生体影響に関するシンポジウム予稿集、電気学会 1997

参考文献:Lilienfeld AM et al: Evaluation of Health Status of Foreign Service and Other Employees from Selected Eastern European Posts, Final Report, Contract No. 6025-6190973 (NTIS PB-288163), U.S. Department of Commerce, Washington, DC, 1978
この原著を読んでみたい。

Lilienfeldの報告は1978年に出ている、フリーマントルの著作は1982年に発行されているので、当然、フリーマントルはLilienfeldの報告を知っているはずであると、BEMSJは想像する。でも、これらの検証に関する記述は彼の著作には見当たらない。

 

 

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2.マイクロ波電波の健康影響が疑われた例

作成: 2003−5−16  

徳丸仁「電波は危なくないか」講談社 1989に面白い事例が紹介されています。

モスクワシグナルだけではなく、他にもマイクロ波電波が健康に影響しているのではないかと、疑われた例がある。
以下は実測などで曝露評価をきちんと行って判断した例である。

1980年代のアメリカのポートランドでの話である。バンクーバー地区の小学校で、4年生から5年生になった生徒の中で、1年間に4人が小児ガンになった、

その内訳は白血病二人、悪性リンパ腫、脳腫瘍それぞれ一人であった。常識的に考えてみて、これはたいへんなできごとであった。
父兄たちは、学校から3km離れたところにある、12.4GHzのマイクロ波回線のアンテナに疑いの眼を向けた。

その学校で照射されていたマイクロ波電力は、理論計算によると0.01μW/cm2以下で、ANSI安全基準よりも十分に低い値であった。
会社側が、このことを父兄たちに示しても、信用してもらえない。電波とガンを結びつけた論文もいくつか発表されているからであった。

そこで会社側は照射マイクロ波電波の電力密度の現場測定をすることになった。
結果は、その学校における測定値は、0.0068μW/cm2であった。
同時に比較として、その学校から約5km離れていて、それまでの6年間、生徒の間にガンの発生がなかった小学校でも測定をおこなった。
そして、これらのふたつの学校間の測定結果に有意の差がないことも明らかにされた。

さらに、近くに敷設されている60Hzの高圧送電線についても測定をした。
送電線の直下の電界は170V/mであった。両学校内では問題になるほどの磁界量はなかった。
そこで初めて父兄は、その電波が小児ガンの原因ではないと納得したのである」 

この調査の詳細な報告書があれば、読んで見たいものです。

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3.Lilienfeldによるモスクワシグナルの調査結果

作成:2004−6−2 

上に述べたLilienfeldの報告の原著全文を入手した。  以下に概要を述べる。

このモスクワシグナルのマイクロ波照射の強さは年々の変化もあり、その変遷を下表に示す。

期間

照射を受けた場所

照射の強度

1953年から19755

西側の建物正面

最大5μW/cm2 19時間

19756月から197627日まで

南側と東側の建物正面

最大15μW/cm2 118時間

197627日以降

南側と東側の建物正面

1μW/cm2程度で変動 118時間

表 モスクワシグナルの変遷  引用:Lilienfeld 1978より日本語訳

モスクワ大使館で弱いマイクロ波電磁界の曝露を受けた職員を対象にLilienfeldが行った調査(1978)の結果では、曝露の影響は認められなかった。
癌の症例数がわずか数例であり、この研究だけで結論を出すことには難があった。

Lilienfeldは、モスクワのアメリカ大使館勤務者の健康状態を調べるだけではなく、勤務状況などが類似している当時の東欧圏の他の大使館勤務者の健康状態を調査し、比較検討を行った。死亡率の調査と、健康状態の調査を行い、アメリカ本国の一般的な平均値と比較を行った。

結果の一部を下表に示す。全死亡率はモスクワ大使館勤務でも、その他の東欧圏大使館勤務者でもSMR0.470.59と、アメリカ本国の一般の平均値より低く、これはHealthier Worker 効果であるとされた。
マイクロ波照射量は年によって異なるので、大使館への着任年と死亡率の変化を見たが、特に関連は見られなかった。

特記すべきは、モスクワ勤務者の中に白血病による死亡者が2名おり、SMR2.5であった。
東欧圏の勤務者の中には白血病による死亡者が3名おり、SMR1.8であった。ともに統計的には有意ではなかった。

 

モスクワ勤務

その他の東欧大使館勤務

死因

観察値

期待値

SMR

観察値

期待値

SMR

全死因

49

105.3

0.47  (0.4-0.6

132

223.7

0.59 0.5-0.7

心臓疾患

16

32.6

0.49  (0.3-0.8

28

73.2

0.38 0.2-0.6

全癌

17

10.0

0.89  0.5-1.4

47

41.1

1.1  0.8-1.5

内訳

消化器

3

4.6

0.65  (0.1-1.9

11

10.8

1    0.5-1.8

0

0.9

0

5

1.5

3.3  (1.1-7.7

5

5.8

0.86  (0.3-2.0

11

12.2

0.90 0.4-1.6

白血病

2

0.8

2.5   (0.3-9.0

3

1.7

1.8  0.4-5.3

2

0.5

4.0  (0.5-14.4

3

1.2

2.4  (0.5-7.0

自殺

0

3.9

0

5

5.8

0.85 (0.3-2.0

表 モスクワシグナルに関係してモスクワ大使館勤務者とその他の東欧圏の大使館勤務者の死因を調査した結果(抜粋) 引用:Lilienfeld 1978より日本語訳


説明: 説明: image003

モスクワのアメリカ大使館周辺の地図 周囲からマイクロ波を照射された。  引用:Lilienfeld 1978より

興味のある方は、この原著を読んでください。


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4.モスクワシグナルに関するリリエンフェルトの研究と、その後のゴールドスミスとニール・チェリーの研究

まとめ:2008−5−4 再編集してWEB公開 2012−6−10

$1.はじめに
以下の掲示板に気になるメッセージがあった。

笹山登生の掲示板 http://www.sasayama.or.jp/saboard/b_board.cgi?  <現在ではリンク切れ> にあった情報 
************** 引用  *************
[7198] Re:[7195]鎌倉駅バスターミナルで4.4μW/cm2を記録
投稿者:**** 投稿日:2008/03/19(Wed) 19:28

>
このモスクワシグナルに関しては、アメリカ政府の詳細な報告書が出ています。
> A. Lilienfeld et al; Evaluation for health status of foreign service and other Employees from
>selected eastern European posts, final report.
> NTIS, PB-288163 US Dep. of Commerce 1978

ザルツブルグ会議(2000年)でのDr. Neil Cherryの発表によると、その初期の研究にはその後、反論があるそうですよ。

>
初期の研究
>Robinette et al.(1980)
の朝鮮戦争の研究、Lilienfeld et al.(1978)のモスクワの米国大使館の
>
研究という2つの初期研究をRepacholi博士はニュージーランドの環境裁判所で引用した。
>
著名な環境疫学者であるJohn Goldsmith博士は住民側の専門家証人としてこれに反論した。
>
彼の証言によれば、2つの研究はレーダーに被曝した人々におけるガンの増加を示している。

>
米国大使館の研究では、5から15μW/cuの範囲の高い被曝があり、
>Cherry
博士の証言では、ほとんどの期間における1日ごとの平均被曝は、
>
高いときは1日あたり9時間に5μW/cm2であり、短期間それが15μW/cm2 になり、
>
平均すると118時間に2.4μW/cm2であった。
>
後にこれは大使館の建物の一方の端で5階の壁の外側で測定されたとわかった。

>Pollack
1979)の指摘によれば、内側の被曝はずっと少なく、
>
そのため0.1μW/cm2より少ない程度の被曝でも健康への悪影響と関係づけられるのである。
>
>
(略)
>Goldsmith
1997)は1950年代から70年代にわたって、モスクワのアメリカ
>
大使館の勤務者やその家族が、極低レベルのレーダー波を慢性的に被曝したことに
>
よって、高い突然変異性と発ガンが見られたと報告している。(略)
>血液検査の結果では、半分以上の人の血液が染色体異常の上昇を示した。白血病の発生率は、成人、子供にかかわらず高まっていた。
>
>まず、モスクワでの大使館勤務者の男性の死亡率は0.42(0.3-0.5)、女性は1.1(0.5-1.9
>
であることに注目したい。アメリカ国務省勤務の男性は、平均的アメリカ人よりも
>
はるかに健康であり、女性はごく平均的な健康度であるということだ。

>
これは「健康的な労働者の電磁波の影響」をみるには絶好の例といえる。
>
国務省の人選のやり方では、不健康な人たちははじかれ、健康な人たちが採用されやすいのだ。
>
次に示す表2は、Lilienfeldら(1978)のデータから要となるものを抜き出して、
>
並べたものである。もっとも顕著な結果はLilienfeldの表2(原著論文の表6.18)に示されている。

>
これは、モスクワの大使館に勤務した年数に相関させて、さまざまな病気の発症率を
>
表したものである。つまり、その年数だけ低レベルのレーダー波の曝露があったと
>
みなされるわけである。これらの症状はすべて有意な被曝量対応関係を示している。
>
病気の発症率は勤務年数に伴って増加し、加齢による増加を上回っている。
>
(表とか略。ザルツブルグ議事録74ページ〜を参照のこと)
>
>で、表5にほとんどの職員の血液サンプルからは、赤血球や白血球数の変化や
>
染色体の変異がみられた。染色体変異のデータはGoldsmith1997)によるものである。
>
>Goldsmith
はモスクワ大使館の子供における先天性異常とガンの関係を示すデータも
>
ニュージーランドの環境裁判でJohn Goldsmithさんによって示されて、裁判の結審の決め手となった。
**********   ************
とあります。

2, Pollackの研究とは

Pollack
1979)の研究としては以下の2点がある。

1) Pollack, H., 1979:

タイトル "Epidemiologic data on American personnel in the Moscow Embassy",
掲載誌:Bull N.Y. Acad. Med, 55(11): 1182-1186.
2) Pollack, H., 1979a:

タイトル:"The microwave syndrome",
掲載誌:Bull. N.Y. Acad. Med, 55(11): 1240-1243.
である。

これは医学のブレテンの記事で、Pubmedではヒットしなかったが、Pubmedに公開されている学術雑誌のアーカイブに登録されていた。
この2点の原著論文を読んだ。

Pollack1979)の指摘によれば、内側の被曝はずっと少なく、そのため0.1μW/cm2より少ない
>程度の被曝でも健康への悪影響と関係づけられるのである。

Pollack
は確かに窓際で測定した値に比べて、部屋の中の曝露強度は小さいと記述している。
しかし、彼は、Lilienfeldの研究を引用し、Lilienfeldの結論に同意する意見を述べている。
彼は、低レベルの電磁界曝露に関して注目すべき・・・・と主張したこともある学者であるが、モスクワシグナルの件に関しては、マスコミの報道が正しくない・・・・・と批判を行っている。

「マスコミは過去の二人の在モスクワアメリカ大使がガンになったのはモスクワシグナルのためと報道しているが、二人の大使がモスクワに勤務した時代の曝露は、大使の執務室とは無関係で、モスクワでの住居にあった電子レンジから漏洩するマイクロ波以外の曝露はほとんど無かった。
よって、マスコミの報道は誤りである・・・・・」とも記述している。 

詳細は原著論文を読むこと。

したがって、ニール・チェリーはPollackの論文を正当に理解していない。

3Goldsmithの研究とは

Pubmed
で検索するとGoldsmithのマイクロ波に関する論文は以下の2点がある。
1
Goldsmith JR. 1997
タイトル:Epidemiologic evidence relevant to radar (microwave) effects
掲載誌;Environ Health Perspective. 1997 Dec;105 Suppl 6:1579-87. Review

2
Goldsmith JR. 1995
タイトル:Epidemiologic Evidence of Radiofrequency Radiation (Microwave) Effects on Health in Military, Broadcasting, and Occupational Studies
掲載誌:Int J Occup Environ Health. 1995 Jan;1(1):47-57.

3
)以下の文献もフルテキストで入手した。PubmedではヒットしなかったGoldsmith 1996年の論文である。
タイトル:Balancing the interests of patients, science and employees: case study of RF (microwave) exposure of US embassy staff in eastern European posts
掲載誌:The science of the total Environment 184(1996) 83-89

)Goldsmith1996年論文はFull Textを入手した。
2)Goldsmith
1995年論文はアブストラクトのみ full textは発行元のサイトですら個別の古い時代の論文を販売・公開していない。
後日JSTの複写文献サービスを利用して購入した。

Goldsmith1997年の論文を入手した。
この論文の中で、モスクワシグナルに関連する記述は以下である。
ちなみに、この1997年の論文はレビュー論文であり、Goldsmithのオリジナルな研究報告ではない。

*****************   ***********
Reproductive Outcome:
Moscow Staff StudyThe exposures of U.S. Embassy personnel in Moscow are described in Goldsmith (8), based on Lilienfeld at al.(17)(Table 1).
Studies were done among Moscow embassy employees, staff dependents, and other personnel and compared with similar groups in other Eastern European embassies.
Table-1Lilienfeld1978Table-6.23からの抜粋である。>

The study known as the Foreign Service Health Status Study (FSHSS) or Lilienfeld Report (17) was designed to compare the experience of employees in the Moscow embassy with those of similar employees in other Eastern European embassies on the assumption that the latter were not exposed to RF radiation.
There was some evidence that these employees were exposed as well, but the contract officer dismissed the possibility as being based on hearsay.

In a meeting with the State Department Contract Officer Dr. Pollack about the submitted draft of the Lilienfeld Report,
G. Jacobson noted that the reference to a potential infertility effect in the study might be inappropriate because the experimental work was done at very high doses and there are no controlled human studies (18).
According to the minutes of the meeting, "this clause will be modified to reflect the very speculative nature of the reports, but the FSHSS data will be presented as is" (17).
*******************    *************

<引用文献18Unpublished Dataである。不妊に関連するデータがあるということを引用しているが、モスクワシグナルが話題になった1978年から20年も経過した段階で書かれたこのGoldsmith1997年の論文に、20年前のUnpublished Dataを引用することは適切であるか、疑問がある。
18: Jackbson G: unpublished data
としか引用文献リストに記載がない。>

******************  **********
The final report makes no reference to any possible impact on infertility, but it does present some data (Table 1) that show more frequent complications among Moscow workers compared to those from other embassies.

Thus, we are left with higher rates of complications of pregnancy at the Moscow embassy for a problem that originally was thought to affect fertility. It seems most likely related to or actually to be spontaneous abortion.

Systematic Alterations in Red or White Blood Cell Counts:
A hematologic study of Moscow foreign-service workers was submitted to the U.S. government on 7 October 1976 by Tonascia and Tonascia (26).
They found, on comparing the data for Moscow-based employees with that from foreign-service exams conducted in the United States, that


The differences between the two groups with respect to every parameter except monocytes (% and counts) are highly statistically significant (p < 0.001) after appropriate transformation.
Specifically the Moscow group had a higher mean hematocrit, the Moscow group had a lower neutrophil percentage, but higher percentages for the other three cell types (lymphocytes, eosinophils, and monocytes).The white cell counts are strikingly higher in the Moscow group.


Several statistically significant changes occurred over time in the Moscow group; specifically, mean hematocrit increased and a 3-fold increase in monocyte count Occurred.
Neutrophil percentages fell and then rose; the reverse pattern was observed for the lymphocytes
(26).
***************    *************

<引用文献26Unpublished Dataである。白血球・赤血球数の変化に関連するデータがあるということを引用しているが、モスクワシグナルが話題になった1978年から20年も経過した段階で書かれたこのGoldsmith1997年の論文に、20年前のUnpublished Dataを引用することは適切であるか、疑問がある。
26 Tanascia JA, Tanascia S J: unpublished data 
としか引用文献リストに記載がない。>

****************************** 
Evidence of Mutational Activity in Human Incubated White Blood Cells:
The initial examination of Moscow embassy workers, conducted when it became known they were being irradiated by Soviet transmitters, was done to study the possible effects of radiation on chromosomes in blood samples (26).
Beginning in February 1966, 3 to 4 years after the microwave irradiation was first detected, samples were taken for chromosomal analysis.
Twenty spreads were scored per sample; results are shown in Table 2
(18).

Table 2. Results of tests for chromosomal changes in metaphase spreads of lymphocytes cultured in vitro among selected Moscow embassy employees.

Mutagenic level a

Designator

Subjects no

5

Extreme

0

4

Severe

6

3.5

Intermediate

5

3

Moderate

7

2.5

Intermediate

5

2

Questionable

5

1

Normal

6

Growth failure

2

 

a Grading of mutagenic processes and clinical interpretations of these findings were provided by Dr. G.Jacobson (George Washington University Medical School, Washington, DC), who wrote: "Patients who repeat at level 3 or higher should not reproduce until 6 months after somatic levels have returned to 2 or 1.
Patients at level 4 should be withdrawn from mutagenic exposure and monitored each month until less than 3 is obtained on two consecutive samples" (18).
Dr. Jacobson also wrote, "I feel impelled, as in past reports, to emphasize the necessity to study serial samples on the same individual and when possible to study the subject prior to exposure"
(18). Apparently, no such follow-up or serial studies were done.
****************   ************

<引用文献1826Unpublished Dataである。白血球・赤血球数の変化に関連するデータがあるということを引用しているが、モスクワシグナルが話題になった1978年から20年も経過した段階で書かれたこのGoldsmith1997年の論文に、20年前のUnpublished Dataを引用することは適切であるか、疑問がある。>
***********************

Additional Studies of Cancer in Children and Others.
Among the many tabulation from the Lilienfeld report (18), those for data about leukemia are shown in Table 8, based on data excerpted from the Lilienfeld report by Goldsmith (8).
Although the numbers are small, there is significant excess for child dependents in both Moscow and other embassies, as well as an excess for employees and dependents in both locations. Estimated exposures at the Moscow embassy were from 5 to 18 pW/cm2.

Table 8. Leukemia among U.S. embassy employees and child dependents in Moscow and other Eastern European embassies

 

Moscow embassy

Other embassies

Total O/E

Population

Observed

Expected

Observed

Expected

 

Employees

2

0.8

3

1.7

5/2.5

Child dependents

2

0.5*

3

0.7*

5/1.2*

Total

4

1.3*

6

2.4*

10/3.7*

*Significantly elevated O/E ratio, p< 0.05. Based on table in Goldsmith (8)

 

********************** 
この表8を検証する。Goldsmithの文献8を引用している、この文献は1995年の文献で未入手である。Lilienfeld1978年の原典を見ると以下になっている。

 

Moscow embassy

Other embassies

Population

Observed

Expected

O/E

Observed

Expected

O/E

Employees

2

0.8

2.5(0.3-9.0)

3

1.7

1.8(0.4-5.3)

Child dependents

2

未記入

1

3

未記入

0.98


Lilienfeld
の原典では、大使館勤務者(成人)に関してはモスクワ大使館勤務者に2名の白血病が発生している。
モスクワ以外の東欧圏の大使館勤務者の中にも3名の白血病が発生している。
O/E
比はそれぞれ2.51.8であるが、95%信頼区間から考えると、この発生率は有意ではない。
Goldsmith
は提示していないが、Lilienfeldの原典では、脳腫瘍の発生件数も把握しており、モスクワ大使館では件数ゼロ。モスクワ大使館以外の大使館勤務者で3名、O/E比で3.3CI:1.17.7)と有意な数字がある。

こうしたことからモスクワシグナルによるガンリスクはないと、Lilienfeldは結論を出している。

Goldsmith
は、東欧圏の大使館もモスクワと同様なマイクロ波照射を受けていると仮定し、症例を合算している。
そしてその結果、統計的に有意であり、ガンのリスクとなっているとしている。これは正しくない。

 

Goldsmith1996年の研究
フルテキストを入手した。
Lilienfeld
の研究から、モスクワ以外の大使館勤務者もモスクワシグナルと同類の電波曝露を受けていると仮定して、合算して計算し、リスク増加ありと主張している。

Goldsmith1995年論文を入手した
(JST
の複写文献サービスを利用)これはレビュー記事であり、オリジナルな研究ではなく、解説のような論文である。
査読された跡は見られない。

この中で、モスクワシグナルに関連する事項は以下の様なことがある。

1)
 染色体異常に関する表が掲載されている。
Table 7: Tabulation of results for chromosomal changes

Mutagenic level a

Designator

Subjects no

5

Extreme

0

4

Severe

6

3.5

Intermediate

5

3

Moderate

7

2.5

Intermediate

5

2

Questionable

5

1

Normal

6

Growth failure

2


このデータは、アメリカ政府の書類を情報公開法によって入手したもの と根拠が示されている。
1966
年から1969年にかけてアメリカ政府の委託を受けた研究として、Jacobson CBが行ったものである。
この研究は「この結果からは有効な結論は出せない」と非政府のパネル(評価機関?)によって評価された。
それをGoldsmithは有効なデータであるとして、自分の論文に引用している。

2) 1976年に報告されたアメリカ政府委託の研究、委託先はTanascia JAらである。
モスクワ駐在者の中に白血球数の増加などが見られた、という報告である。

3) Lilienfeldらの研究が行われた。
モスクワ以外の東欧大使館でもモスクワと同様な電波曝露が行われたのではないかとの指摘は、コンファレンスのときに、噂に過ぎないとして、否定された

よって 以下は同じことの説明の繰り返しになるが、掲示板に書かれたことに関する反論として

>Goldsmith
1997)は1950年代から70年代にわたって、モスクワのアメリカ
>
大使館の勤務者やその家族が、極低レベルのレーダー波を慢性的に被曝したことに
>
よって、高い突然変異性と発ガンが見られたと報告している。

に関しては、前述のGoldsmith3つの論文を読んだ結果として

Lilienfeld
の原典では、大使館勤務者(成人)に関してはモスクワ大使館勤務者に2名の白血病が発生している。
モスクワ以外の東欧圏の大使館勤務者の中にも3名の白血病が発生している。
O/E
比はそれぞれ2.51.8であるが、95%信頼区間から考えると、この発生率は有意ではない。

Goldsmith
は提示していないが、Lilienfeldの原典では、脳腫瘍の発生件数も把握しており、モスクワ大使館では件数ゼロ。モスクワ大使館以外の大使館勤務者で3名、O/E比で3.3 (CI:1.1-7,7)と有意な数字がある。

こうしたことからモスクワシグナルによるガンリスクはないと、Lilienfeldは結論を出している。

モスクワ以外の東欧大使館でもモスクワと同様な電波曝露が行われたのではないかとの指摘は、Lilienfeldらの研究が行われた時のコンファレンスで、噂に過ぎないとして、否定されたと、Goldsmith1995年論文では紹介されているが、それでも、Goldsmithは東欧圏の大使館もモスクワと同様なマイクロ波照射を受けていると仮定し、症例を合算している。
そしてその結果、統計的に有意であり、ガンのリスクとなっているとしている。
これは正しくない。

>
で、表5にほとんどの職員の血液サンプルからは、赤血球や白血球数の変化や
>
染色体の変異がみられた。染色体変異のデータはGoldsmith1997)によるものである。

5の一部を紹介すると

突然変異誘発度

意味

実例数

5

非常に激しい

0

4

かなり激しい

6

3.5

34の中間

5

3

多少ある

7

以下 略

この血液関連はかなり長い研究の歴史があるようです。

Goldsmith
1995年論文に、その履歴1)2)が紹介されています。
1)
上記の表5のデータは、1966年から1969年にかけてアメリカ政府の委託を受けた研究として、Jacobson CBが行ったものである。
測定を行ったサンプル数は35例と少ない。
この研究は「この結果からは有効な結論は出せない」と非政府のパネル(評価機関?)によって評価された。

そして、この研究報告書はお蔵入りになり、論文としては刊行されることはなかった。

Goldsmith
は論文の中で「アメリカ政府の書類を情報公開法によって入手した」とその根拠が示されている。
このデータをGoldsmithは有効なデータであるとして、自分の論文に引用している。

2) 1976
年に報告されたアメリカ政府委託の研究、委託先:Tanascia JAら がある。
モスクワ駐在者の中に白血球数の増加などが見られた、という報告である。
これも多分お蔵入りになったのでしょう。論文としては刊行されることはなかった。

Goldsmith
は論文の中で「アメリカ政府の書類を情報公開法によって入手した」とその根拠が示されている。

そして、アメリカ政府はLilienfeldらに委託して研究を行わせ、1978年に報告書が完成している。

Goldsmith
の論文には記述はないが、Lilienfeld1978年の研究には、表610でモスクワ駐在とその他の東欧圏の大使館勤務者の白血球の数の調査の結果も報告している。
男性8901324名 女性315名+566名が対象で、結果はモスクワと他の地域では差異はない、となっている。

ということで、
Lilienfeld
1978年報告書までは実際の調査や研究がおこわなれたと見られます。

その後のGoldsmithの研究は、1978年以前のデータを引用して、データを抜粋して、解析などを行っている といえます。
したがってGoldsmithの研究にはオリジナルさは見えません。

$4.Lilienfeld1983年の論文
Environmental Health Prospective Vol:52  P3-8 1983
Practical Limitations of Epidemiologic Methods

1978
年の報告書の紹介で、特段追記の情報はない。

1978
年の論文はアメリカ政府の委託研究で言いたいことが言えなかった という側面があるとしても、5年後の1983年の論文では、何か言えなかったことがあるというニュアンスの記述は不可能ではないと、想像する。
1983
年の論文には、そうした不満をにおわす表記は見つからない。

$5.ニール・チェリーの論文 
2000
年のザルツブルグの会議で講演を行い、モスクワシグナルに関しても言及しているが、彼のオリジナルな研究はなく、LilienfeldGoldsmithの研究を引用しているだけである。
参考文献: ザルツブルグ国際会議 議事録 ガウスネット発行 2001

>
ザルツブルグ会議(2000年)でのDr. Neil Cherryの発表によると、
>
その初期の研究にはその後、反論があるそうですよ。

反論というよりは、過去のデータの再解析・再利用が行われている という表現がより適切でしょう。

 

 

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5.1998年の論文 リリエンフェルドの研究を見直したリアコリス論文

記;2012−6−11

荻野晃也著 プロブレムQA 危ない携帯電話 2002年緑風出版発行を読んでいて、
P41
に「97年にリアコリス論文が発表されました。事件を当時調べた人の研究を再調査した論文。」という記述であった。

Goldsmith
以外にもリリエンフェルドのモスクワシグナルの研究を見直している研究者がいることが判った。

1997
年のこの論文は
研究者:A. G. J. Liakouris
タイトル:Radio Frequency sickness in the Lilienfeld study: an Effect of Modulated Microwave
掲載誌: Archives of Environmental Health, Vol.53, No.3 1998
である。
荻野著の1997年は誤りである。荻野著に転載され論文のアブストラクトは、明らかに1998年の論文のものである。

この論文のフルテキストを入手した。
読んだ結果は

リアコリスはLilienfeldの研究では白血病などの癌に注目しているが、「低レベルのマイクロ波による頭痛などの疾病の可能性についても、研究を行うべき」 とリアコリスは、この論文で提言しているに過ぎなかった。


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