携帯電話などからの電磁波によって、脳関門BBBの破壊が起こっているという研究がある。
このテーマに関しては、様々な研究がおこなわれてきている。
それらの概況を紹介する。特殊なテーマなので、ここに別ページを設けます。
1.Moriyamaらの1991年BBB破綻は熱効果とする研究
1A.PerssonとSalfordらのBBBに関する1992年研究
2.SalfordらのBBB研究1994年
3.PerssonとSalfordらのBBB研究1997年
4.郵政省H10年度(1998年)携帯電話の電波とBBBに関する研究
5.SalfordのBBB研究 2003年
6.SalfordのBBB研究に対する論評2003年
7.SAR 2W/kgでも脳関門BBBに影響があるとしたToreらの2003年研究
8.2003年総務省の研究ではToreのBBB研究の再現性はなかった。
9.2003年環境省の報告書にみるBBB研究の状況
10.2003年BBBに関する国際ワークショップ
11.2004年ARIBの研究報告から
12.2005年多氣らによるBBB研究の状況解説
13. 2007年増田のBBB研究の解説
13A.Salfordらの2008年 BBBの研究
14.Salfordらの2009年 BBBの研究
15.MasudaらのBBB研究2009年
15A.SalfordらのBBBに関する2011年研究
16.Wangらの2015年マイクロ波曝露によるBBB障害の研究
16A.Tangらの2015年BBB等の研究
17.2015年Masudaらの携帯電話とBBBの研究
17A.積極的にBBBを破綻させ、医療目的の研究の例:2013-2015年度
18.EMF
Portalサイトの2016年4月時点での総括
19.2017年Gannesらの携帯電話とBBBの研究
20.2018年の亀論文にあったBBBに関する見解
20A.荻野晃也「身の回りの電磁波被曝」緑風出版2019年に見るBBB論
21.2020年のICNIRPガイドラインの根拠に採用されず
記:2021−10−10
以下の研究がある。
掲載誌: Surg Neurol 1991; 35 (3): 177-182
タイトル:Blood-brain barrier alteration after
microwave-induced hyperthermia is purely a thermal effect: I. Temperature and
power measurements.
マイクロ波誘導ハイパサーミア後の血液脳関門の変化は純粋に熱的影響である:I.温度および電力の測定値
研究者: Moriyama E, Salcman M,
Broadwell RD
この研究は、21匹のSprague-Dawleyラットを用い、マイクロ波ハイパサーミア処置が血液脳関門に及ぼす影響を調べた。
ペントバルビタールナトリウム麻酔下で、動物を定位フレームに置き、2450MHzで動作する組織内マイクロ波アンテナを矢状縫合と平行に穿孔した骨溝に挿入した。
一部のアンテナには外部冷却ジャケットが装着された。
温度測定は、螢光温度計によってアンテナの横方向に行われた。
電力は時間 - 温度プロファイルから算出された。
マイクロ波照射の終了5分前に、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(1mg/20g体重)を静脈注射した。
結果、
1)44.3℃以上で30分間、または42.5℃で60分間加熱された脳組織において、ホースラディッシュペルオキシダーゼの血管外遊出が観察された。
2)冷却システムによって脳温度が40.3℃未満に維持された場合、マイクロ波照射による血液脳関門への影響は見られなかった。
3)血液内のペルオキシダーゼの血管外遊出は、最大温度上昇部位で生じたが、この最大温度上昇部位が最大電力の部位と一致しない場合でさえも、そうであった、
ということが判った。
曝露条件
2.45 GHz マイクロ波
変調の有無:変調なし、搬送波・連続波
曝露時間: 30 or 60 min
SAR: 404.2W/kg maximum 局所、頭部
1A.PerssonとSalfordらのBBBに関する1992年研究
以下の研究がある。
*******************
掲載誌:Annals of the New York Academy of
Sciences 1992
タイトルIncreased permeability of the blood-brain barrier
induced by magnetic and electromagnetic fields.
磁界ならびに電磁界で誘導される血液脳関門の透過性の増加
研究者: Persson BR, Salford LG,
Brun A, Eberhardt JL, Malmgren L
この研究は、MRI装置からの静磁界、低周波磁界、無線周波(RF)電磁界のそれぞれ単独曝露、および3つのタイプの組み合わせ曝露を、Sprague-Dawleyラットに与え、曝露後の血液脳関門のエバンスブルー透過生を調べた。
その次に、915MHzマイクロ波(連続波および種々の低周波(8-215Hz)での変調波)曝露をFischer 344ラットに与え、曝露中の内因性アルブミンおよびフィブリノーゲン漏出を調べた。
その結果、RF電磁界曝露には、血液脳関門の透過生を高める影響が見られた。
この影響は、RF連続波で見られたが、パルス化RF放射においてより大きかった。
******************
Full Textを読むと
・We first studied the permeability of the blood-brain barrier after exposure to the components of the MRI electromagnetic fields: static magnetic fields (SMF), low frequency pulsed magnetic fields (TVMF), radio-frequency electromagnetic fields (R F), and a combination of these three types of fields.
最初に、MRI電磁界の各成分、静電磁界(SMF)、低周波パルス磁場(TVMF)、無線周波数電磁界(RF)への曝露と、3種類の電磁波の組み合わせた曝露で、血液脳関門の透過性を実験した。
Anesthetized Sprague-Dawley rats, male and female, weighing 175-225 g were
exposed for two hours in the M RI machine.
We found an increase in the extravasation of Evan's Blue in all fields (SMF, TVMF, RF (see TABLE).
The most significant effect was found after exposure to R F electromagnetic fields and to the combined NMR sequence.
麻酔したスプレイグ・ドーリーラット、雄および雌、体重175〜225gを、MRI装置において2時間曝露した。
すべての曝露(SMF、TVMF、RF)条件下でエバンスブルーの浸透が増加した。(表を参照)。
最も顕著な効果は、RF電磁界への曝露後および組み合わされたMRI曝露条件下で見られた。
<BEMSJ注:対照群でも5匹中2匹のラットに、軽度の浸透が見られた、曝露群よりは軽いことはわかるが、本来は、対照群にわずかでも浸透があってはならないはず。何か、この実験手順に課題がありそう。>
We have also studied leakage of endogenous albumin and fibrinogen during exposure to microwaves of 915 MHz that are continuous wave (CW) and modulated at various low frequencies (8-215 Hz).'
Fischer 344 rats, male and female, weighing about 175-225 g were used in these experiments.
The rats were not anesthetized during the exposure.
The exposure of the rats took place in a TEM-cell tuned to 915MHz.
また、連続波(CW)と、様々な低周波(8-215 Hz)で変調された915MHzのマイクロ波への曝露時に内因性アルブミンとフィブリノーゲンの漏洩を調べた。
フィッシャー344ラット、オスおよびメス、体重:約175〜225gをこれらの実験に用いた。
ラットは曝露の間に麻酔されなかった。
ラットの曝露は915MHzの電磁波を入力したTEMセルで行われた。
We found albumin leakage in 3 out of 20 control animals and in most of the animals exposed to 915-MHz microwaves.
Continuous wave exposure resulted in 11 positive findings out of 23 (p = 0.03).
With pulsed 915-MHz microwaves at modulation frequencies of 215,50,16, and 8Hz, 8 out of 35 were positive p < 0.0001) (see TABLE).
我々は、20匹の対照動物のうち3匹と915MHzのマイクロ波にさらされた動物のほとんどでアルブミン漏れを見出した。
連続波曝露では23のうち11の陽性的な所見を見出した(p = 0.03)。
215,50,16, 8Hzの変調周波数で915MHzマイクロ波をパルス化した場合は、35の中で8件は陽性的な初見(p:<0.0001)でした(TABLEを参照)。
<BEMSJ注:対照群でも20匹中3匹のラットに、軽度の浸透が見られた、曝露群よりは軽いことはわかるが、本来は、対照群にわずかでも浸透があってはならないはず。何か、この実験手順に課題がありそう。>
この研究論文Full Textを読んでも、曝露強度の記述が皆無であることに驚く。
以下の研究がある。
**********************
掲載誌: Microsc Res Tech 1994; 27 (6):
535-542
タイトル:Permeability of the blood-brain barrier induced by
915 MHz electromagnetic radiation, continuous wave and modulated at 8, 16, 50,
and 200 Hz.
915 MHz連続波電磁放射と変調(8,16, 50と200Hz)電磁放射で誘発された血液脳関門の浸透性
研究者:Salford LG, Brun A, Sturesson K, Eberhardt JL,
Persson BR
この研究では、TEMセル内において、オスとメスのFischer
344ラットに、915MHzの連続波(CW)およびパルス変調波(8,16,50、および200Hzの繰り返し率)を与えた。
比吸収率(SAR)は0.016- 5W/kgの範囲で変化させた。
曝露は無麻酔状態で実施された。
<曝露時間はアブストラクトには不記載である。>
全ての動物は、曝露終了後に、抱水クロラール麻酔下で脳の灌流固定が実施された(生理食塩水での3〜4分間灌流後に4%ホルムアルデヒドにより5〜6分間で固定)。その後、脳の中枢冠状切片を脱水し、パラフィン包埋し、5ミクロンで切片化した。
アルブミンおよびフィブリノーゲンは、免疫組織化学的に検査した。
その結果、対照群では5匹/62匹、曝露群では56匹/184匹が、アルブミンの漏出を示した。
連続波曝露の場合の陽性率は14匹/35匹であり、対照群に比べ有意(P=0.002)であった。
パルス波曝露の場合、42匹/149匹でアルブミン漏出が陽性であり、P=0.001レベルで有意であった。
連続波とパルス波の間に、有意差はなかった。
*******************
対照群に比べると多いが、曝露群で全てのラットが漏出を示していない、これは何を意味するか?ラットの個体差で説明がつくか?それとも曝露強度が大きくばらついているのか????
どのような曝露条件で実験を行ったのか?どのようにSARを推定したのか・・・・
原著full text を読んでみたいものである。
以下の研究がある。
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掲載誌: Wireless Networks 1997; 3 (6): 455-461
タイトル:Blood-brain barrier permeability in rats exposed
to electromagnetic fields used in wireless communication.
無線通信に用いられる電磁界に曝露されたラットでの血液脳関門透過性
研究者: Persson BRR, Salford L,
Brun A
この研究は、両性のフィッシャー344ラットを用い、血液脳関門(BBB)に対する高周波電磁界(EMF)の生物学的影響を調べた。
曝露用TEM内で、915 MHzマイクロ波の連続波(CW)およびパルス変調波(パルス電力およびパルス間隔は変化させた)の曝露を行なった。
連続波およびパルス波の電力は0.001 Wから10 Wまで、曝露時間は2分から960分まで、それぞれ変化させた。
実験では、電源ONのTEMセルに4 - 6 匹の曝露ラットを、電源OFFのTEMセルに2 - 4匹の対照ラットを入れ、ランダムに配置した。
ラットは無麻酔で曝露を受けた。
曝露後、抱水クロラール麻酔下で脳を灌流固定した。
脳を生理食塩水で3 - 4分間灌流し、その後4 %ホルムアルデヒドで5 - 6分間灌流固定した。
脱水、パラフィン包埋して、全脳の冠状切片(5 μm厚)を作成し、アルブミンおよびフィブリノーゲンの病理学的漏出を免疫組織化学的に検査した。
その結果、種々の曝露条件のマイクロ波曝露を受けたラットは合計で630 匹、対照ラットは372匹であった。
全曝露ラットにおいて、病理学的変化が見られたラットの割合244/630で、対照ラット(62/372)とは有意差があった(p < 0.0001)。
曝露ラットをSARレベルでグループ化すると、1.5 J/kg以上のすべてのレベルで、有意差があった。
パルス波曝露では170/481、連続波曝露では74/149で、いずれも対照群とは有意差があり、パルス波と連続波の間にも有意差があった。
*************************
Full textを読む。
・ラットのSAR値は、「計算で求めた」としか記述がない。
・実験結果の一部を以下に示す。
以下の様な報道発表があります。
概要を以下に示すので、関心のある方は、郵政省のサイトで公開されている全文、報告書全文を入手して読んでください。
*********** 一部 引用 ******************
99/09/03 熱作用を及ぼさない電波の強さでは脳(血液-脳関門)に障害を与えず
−生体電磁環境研究推進委員会の研究結果−
郵政省では、平成9年10月より「生体電磁環境研究推進委員会(委員長:上野照剛 東京大学教授)」を開催し、電波の生体安全性評価に関する研究・検討を行っております。
平成10年度研究においては、電波曝露により血液-脳関門に対して影響があったという実験報告に対し、ほぼ同様な電波の強さでの実験を実施し、熱作用(電波曝露によって全身が加熱されることにより深部体温が上昇する作用)を及ぼさない強さの電波曝露(1週間)では、「血液−脳関門(BBB)」に障害を及ぼすような影響は引き起こされないことを確認しました。
1 実験概要
携帯電話から発射される電波(1,439MHz、PDC方式)の脳に対する影響を調べるため、平成9年度研究においては、一般環境の電波防護指針値レベル(注1)での2週間及び4週間の電波曝露の影響を調べ、BBBに対して障害を及ぼすような影響が引き起こされないことを確認しました。
注1:脳局所SAR:2W/kg(携帯電話やPHSから発射される電波の強さはこの指針値レベルよりも低い。)
一方、海外において、より強い電波によりBBBに対する実験を行ったところ影響が生じるとの報告があったため(注2)、平成10年度研究においては、この実験条件を基に、下記の条件による影響の検討を行いました。
注2:ドイツのFritzeらは1997年に脳平均SARが7.5W/kgの時にBBBの透過性がこう進すると報告。
(1) 熱作用の影響がない場合
熱作用を引き起こす閾いき値(全身平均SAR 4W/kg)を超えない全身平均SAR 1.4W/kgにおいて脳部に強い電波(脳平均SAR 7.4W/kg)を曝露。
(2) 熱作用の影響がある場合
上記条件の3倍以上(全身平均SAR 4.5W/kg、脳平均SAR
25W/kg)の電波を曝露。
2 実験結果
BBB、脳組織の形態学的変化及び深部体温の変化について検討した結果、脳への曝露レベルが携帯電話よりも非常に大きな場合でも熱作用の影響がない場合には、電波曝露によるBBBに対する影響は認められませんでした。
3 考察
過去の研究報告のうち、電波曝露がBBBの透過性をこう進させるという報告のほとんどが熱作用によるものと考えられている。
今回の実験では、条件3(全身SAR 4.5W/kg)のみにおいて、曝露直後にBBBの透過性がこう進し、深部体温測定により深部体温の上昇が認められた。
今回行った実験においては、脳平均SARはFritzeらの実験とほぼ同じ強度であるが、Fritzeらの実験では全身平均SARが4.2W/kgと熱作用の閾値を超えてしまっているのに対し、今回の実験では1.4W/kgと熱作用の閾値を十分下回っていることから、本研究の結果は、熱作用に影響されない、電波の脳に対する精度の高い ものであると考えられる。
1)Wired NewsのWEBに以下のニュースがあった
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GSMケータイの電磁界が成長途上のラットの神経細胞を破損
2003年1月30日 1:00pm JT
携帯電話から発せられる電磁界(EMF)が成長中のラットの神経細胞を破損するという調査結果を、スウェーデンの大学の研究者チームがまとめ、29日(米国時間)発行の米政府の学術雑誌『環境衛生展望』(EHP)のオンライン版で発表した。
研究チームによると、神経損傷を確認した初の報告という。
スウェーデンのルンド大学神経学科のリーフ・サルフォード教授を代表とする研究チームが発表した。
研究チームは、人間のティーンエイジャーに相当する生後12週から26週のラットを3グループに分け、それぞれ異なる強度のGSM携帯電話の電磁界に2時間ずつさらした。
その結果、電磁界が、脳の血液関門からのアルブミン(タンパク質)漏出とニューロン損傷とに有為に関連していることを確認したという。
研究チームは、実験のサンプル数が少ないことを認めながらも、結果は非常に重要だと説明。
生物の成熟プロセスではぜい弱性があり、「発育途上の若者が毎日携帯電話を使用していれば、数十年後に彼らが中年にさしかかった時、悪影響が出てくる可能性は否定できない」としている。
携帯電話の生体への影響については、世界保健機関(WHO)が、電話機や基地局の電波が健康に悪影響を及ぼすという科学的に確固たる証拠はない、との見解をまとめているが、同時に安全性を確証できるよう研究を進めることを推奨している。
***************************
2)EMF Portalのサイトにあった概要
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掲載誌: Environ Health Perspect 2003; 111 (7): 881-3
タイトル:Nerve cell damage in mammalian brain after
exposure to microwaves from GSM mobile phones.
GSM携帯電話からのマイクロ波への曝露後の哺乳類の脳における神経細胞の損傷
研究者: Salford LG, Brun AE, Eberhardt JL, Malmgren L,
Persson BR
この研究は、著者の先行研究の知見(弱いパルスマイクロ波が血液脳関門からのアルブミンの顕著な漏出を引き起こした)を踏まえて、血液脳関門を透過する病理学的漏出がニューロンの損傷と結びついたものであるか否かを調べた。
それぞれ8匹のラットからなる3つのグループに、異なる強度のモバイル通信用グローバルシステム(GSM)携帯電話電磁界への2時間曝露を与えた。
その結果、曝露を受けたラットの脳の皮質、海馬、および大脳基底核における神経損傷について、非常に有意な証拠(p
<0.002)を見出した、と報告している。
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3)研究の詳細
低いSARでもマイクロ波暴露によって脳細胞がダメージを受けるというスウェーデンの研究です。
雑誌に投稿中でそのアブストラクトはWEBに公開されています。
筆者に依頼したところ、投稿中の論文のファイルを送ってくれました。
作成: 2003−3−25
論文名:Nerve cell damage in
mammalian brain after exposure to microwaves from GSM mobile phones
GSM携帯電話のマイクロ波暴露による哺乳類の脳の神経細胞の障害
研究者:Leif G. Salford, Arne
E. Brun, Jacob L. Eberhardt, Lars Malmgren, Bertil R.R. Persson
Depts
of Neurosurgery, Neuropathology, Medical Radiation Physics and Applied
Electronics, Lund University, the Rausing Laboratory and Lund University
Hospital, S-22185, Lund, Sweden.
Abstract:概要
The possible risks of radio-frequent electromagnetic fields for the human body,
is a growing concern for the society.
ラジオ周波数の電磁界暴露による健康影響は社会的な関心事になっている。
We have earlier shown that weak pulsed microwaves give
rise to a significant leakage of albumin through the blood-brain barrier (BBB).
我々の過去の研究では、微弱なパルス性マイクロ波によって、脳関門をアルブミンが透過することを見出している。
Now we have investigated whether a pathological leakage
over the BBB might be combined with damage to the neurons.
今回の研究では、脳関門の透過がノイロン(神経突起)に障害を与えるかを調査した。
Three groups of each 8 rats were exposed for 2 hours to
GSM mobile phone electromagnetic fields of different strengths.
8匹ずつの3群のラットに異なる強度のGSM携帯電話の電磁界を2時間暴露した。
We found, and present here for the first time, highly
significant (p<0.002) evidence for neuronal damage in both the cortex, the
hippocampus and the basal ganglia in the brains of exposed rats.
そして、ここに、初めて示すように、暴露したラットの脳の中の海馬などで、ノイロンに有意に高い障害が発生していることがわかった。
Material and Methods 研究手法の中から
The peak output power from the GSM mobile telephone fed into two TEM-cells
simultaneously for 2 hours were 10mW, 100mW and 1000mW per cell, respectively.
2時間、GSM携帯電話の無線電力をTEMセルに印加した、ピーク強度は10mW,100mW,1000mWである。
This exposed the rats to peak power densities of 0.24.
2.4 and 24W/m2, respectively. This exposure resulted in average whole-body
specific absorption rates (SAR) of 2mW/kg, 20mW/kg and 200mW/kg, respectively.
これは、電力密度では、0.24、2.4、24W/m2に相当し、ラットの受けるSARは、全身暴露で、2mW/kg、20mW/kg and
200mW/kgとなる。
2mW/kgの暴露でも影響が現れている。
BEMSJの追記:
ICNIRPの一般公衆に対する規定では、この携帯電話の無線周波数で、全身平均暴露SAR:80mW/kg、頭部への局部暴露SAR:2W/kgである。
この研究では、TEMセルで、遠方界とみなせる状況でマイクロ波をラットに浴びせている。
人が使用する携帯電話の場合は、頭部にアンテナが近接して置かれ、近傍界であり、局部的な暴露となっている。 ちょっと条件が異なる。
興味のある方は、原著全文を入手してください。
Micro Wave News May 2003には、この研究に関する論評が紹介されている。
仮訳をつけた。 作成:2003−10−2
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Swedish BBB Research Faulty, Says German Wireless Group
スウェーデンのBBB研究は疑わしい、と ドイツの無線研究グループは言っている。
Reviews commissioned by FGF, the German telecom industry research group, cast
doubt on the validity of the Salford-Persson experiments on the effects of RF
radiation on the blood-brain barrier (BBB).
FGFドイツの通信工業会の研究グループによって行われたレビューは、高周波電磁界暴露による脳関門の影響に関するSalford-Perssonの実験の有効性に疑問を投げかけた。
FGF is now sponsoring in vitro studies of RF radiation and the BBB, according
to Dr. Gerd Friedrich, FGF's managing director in Bonn.
FGFは現在、高周波電磁界と脳関門に関するインビトロの研究のスポンサーをしている、ボンのFGFの管理者Friedrichは、語った。
Cells are being exposed to UMTS (3G) phone radiation; experiments with GSM
signals are being planed. Results are scheduled to be released at the 2004
annual meeting of the Bioelectromagnetics Society.
細胞はUMTSの携帯電話での電磁界暴露にさらされ、GSM携帯電話での試験も計画されている、結果は2004年のBEMS総会で発表する予定である。
Friednch declined to say who is leading the study, but Microwave News has
learned that the principal investigator is Dr. Florian Stogbauer of the
University of Munster.
Friednchはだれがその研究のリーダであるかを明確にしなかったが、本編集部ではMunster大学のStogbauerであることを知った。
Earlier this year, Drs. Leif Salford and Bertil Persson of Sweden's University
of Lund reported that extremely low levels of GSM radiation can increase the
permeability of the BBB and cause nerve cell damage in rats (see MWN. J/F03).
Lund大学のSalfordとPerssonは今年の初めに、GSM携帯電話からの低レベルの電磁界によって、ねずみの脳関門での透過が増加し、神経細胞の障害が増加することを報告した。
FGF is also hosting a workshop on RF and the BBB, to be held in Reisensburg,
near Ulm, Germany, November 3 - 6 (see p.12). Salford has been invited,
Friedrich told Microwave News, adding that Persson is also welcome.
FGFは今年の11月Reisensburgで高周波暴露と脳関門に関するワークショップを主催する。Salfordは招待されている、Perssonの参加も歓迎する、とFriedrichは本編集部に語った。
In the first of three sharply critical reviews published in the March issue of
the FGF Newsletter, Dr. Roland Glaser contends that the Lund researchers made
many errors and violated the rules adopted by the international scientific
community to assure high-quality research.
FGFニュースレターの3月号に掲載された3つのするどく批評的なレビューの一番手として、Glaserは、ルンド大学の研究者は多くの間違いと高品質な研究を補償するために国際的な科学の世界で採用されている決まりに違反していると断言した。
Among the alleged shortcomings are: the exposure of a small number of rats; the
lack of a double-blind protocol; poorly characterized exposures; and the
failure to include appropriate controls in the study design.
疑われている欠点として、1) 暴露したラットの数の少なさ 2)
2重盲検法の欠如 3) 暴露に関するあいまいな記述、そして研究方法における適切な制御を含むことに失敗している ことである。
According to Glaser, who is a professor emeritus at Humboldt University in
Berlin, Salford and Persson also fail to address previous research by other
labs that failed to see effects.
ベルリンのHumboldt大学の名誉教授であるGlaserによれば、SalfordとPerssonは影響が見られなかった他の研究所で行われたこれまでの研究に論及することに失敗した、と。
In the second critique, Drs. Helmut Franke, Frank Gollnick and Sheila Johnston
contend that the Swedes' measurements of nerve cell degeneration and leakage
through the BBB are unreliable. They argue that the type of degeneration
observed is common and could be the result of aging rather than radiation.
2番目の批判者は、Frankeらであり、神経細胞の変質と脳関門の透過のスウェーデンの測定は信頼性がないと。観察された変質のタイプはよくあることで、電磁界の輻射によるというよりは、加齢に伴っても起こるものである、と。
Johnston, a consultant based in London, states
in a separate comment that the Lund team overreached in raising the possibility
that the reported effects could have an impact on neurological health. Like
Stogbauer, Franke is at the University of Munster; Gollnick is an advisor to
FGF.
ロンドンのコンサルタントであるJohnstonは、個別にコメントを発表した、Lundの研究者は報告された効果が神経関係の健康に影響することができるという可能性を、度を越して言い過ぎており、だめである、と。(この部分の訳は??)
overreachのように、FrankeはMunster大学の研究者であり、GollnickはFGFのアドバイザーである。
In concluding his commentary, Glaser writes that it is "a pity" that
such results are presented to the public without peer review.
コメントのまとめとして、Glaserは「査読前に公衆にこうした研究成果を公開することは残念なことである、と飽きている。
In fact, Environmental Health Perspectives stated on its Web site that Salford
and Persson's paper "has been peer-reviewed, revised and accepted for
publication." Their paper, which was first posted on the Web in January,
is now in print in the June issue of Environmental Health Perspectives (111, pp.881
-883, 2003). '
事実、Environmental Health PerspectivesはそのWEBで「Salford and Perssonの論文は、査読を経て、書き直しを行い、承認されてから発行される」と明記されている。
この情報は1月にWEBに掲載され、2003年6月号のEHP誌に掲載された。
The March issue of the FGF Newsletter is available in pdf format at:<
www.fgf.de>. It is currently only in German, but an English translation will
soon be posted on the Web site, Friednch said.
FGFニュースレターの3月号はpdfファイルでWEBに公開されている。現在はドイツ語のみであるが、英語版もWEBに掲載する予定であると、Friednchは語った。
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以下の研究がある。
掲載誌:BEMS 2003 meeting ABSTRACT
タイトル:EFFECT OF 2 HOUR GSM-900 MICROWAVE EXPOSURES AT
2.0, 0.5, AND 0.12 W/kg ON PLASMA PROTEIN EXTRAVASATION IN RAT BRAIN AND DURA
MATER.
2時間のGSM携帯電話マイクロ波曝露(2.0、0.5、0.12W/kg)におけるラットの脳と硬膜における血漿タンパク質の浸出の影響
研究者;F. Töre, P.E. Dulou,E. Haro, B. Veyret, P.
Aubineau.
CNRS UMR 5017, Universite Bordeaux 2, Bordeaux, France
目的
これまでのGSM携帯電話のマイクロ波による脳関門の浸透性への影響に関する研究は相反する結果となっている。
今回の研究は、曝露中のストレスの影響(血圧のモニターや麻酔条件)の影響だけではなく、頭部のSARに関しても十分に配慮した実験条件となっている。
2時間の曝露による血漿タンパク質の浸出は、頭部のSAR 0.12から2W/kgで実権を行った。
こ影響はラットの脳と硬膜で評価を行った。
網膜は最外周にある髄膜で、自律神経や敏感な神経誠繊維よって構成され、偏頭痛に関係していると信じられている。
実験には2種類の年齢をマッチさせたモデルを用いた。
一つは通常のラットであり、2つ目は両方の首の交感神経を神経節切除術によって急性硬膜神経炎症を起こさせたモデルであり、これは偏頭痛を起こしているモデルと考えられる。
実験方法
250gの体重の70匹のSDラットを用いた。6群に分割した、1)コントロール、2)擬似曝露、3)曝露、4)交換神経切除術を行い擬似暴露 5)交換神経切除術を行い暴露 6)たんぱく質浸出が起こるようにしたポジティブコントロール群。ラットは飼育小屋で2ヶ月間飼われ、体重が400−450gになったときに実験を行った。
この時間は、交換神経切除術によって硬膜炎症を起すために必要であった。手術で二つの頸部の神経節を切除し、脳と硬膜の血管を発達させた。
2ヶ月に引き続き、1週間の間、ロケットの形をした試験装置に慣らした。全てのラットには実験開始24時間前に大腿部動脈と静脈にカテーテルを挿入した。
ロケットの形をした試験装置に入れて、2時間、暴露もしくは擬似曝露をおこなった。
頸部の片側が良く曝露するように、体軸に対して5度傾けて、頭部の上にループアンテナを置いて曝露を行った。
動脈の血圧をマイクロ波暴露中にモニタした。
曝露開始前と実験終了15分前にBSA-FITCを静脈カテーテル経由で流し込んだ。
実験終了後に麻酔剤を大量に投与してラットを殺した。そして頭部には大動脈を経由して含塩下剤を流し込んだ。
硬膜と脳は病理学的な手法で取り出した。硬膜は直ちに、全体として蛍光顕微鏡試験にかけられた。
検査に先立って、脳は冷却ミクロトーメで顕微鏡標本を作製し、断面は、BSA-FITCの特性蛍光を増加させるために、BSAに対して間接的な免疫組織化学的な処理を行った。
結果
ロケットに似た試験装置に入れた全てのラットの血圧は100−130mmHgで正常範囲であった。
脳の脳関門に影響があるとされる170mmHgは超えなかった。
また、血圧の平均値と個々のラットにおける浸出のレベルとの相関はなかった。
顕微鏡観察では、硬膜と脳の主要部分(脳実質)ともに、コントロール群と擬似曝露群では、検出可能なBAS-FITC浸出は観察されなかった。
SARが0.5W/kgと2W/kgのマイクロ波を曝露した群では、硬膜と脳実質の深層皮質の部分で、明らかな浸出が観察された。
この部分は、ループアンテナの直下であり、頭頂部と前頭部の大脳皮質でもっとも高い曝露を受けた部分である。
交換神経切除術を施し、擬似曝露を行った群では、浸出はマイクロ波曝露群より顕著であり、硬膜だけではなく、脳の各部でも見られた。
この浸出は交換神経切除術を施し、マイクロ波曝露を行った群では、著しい増加を見せている。
これらのラットに見られるアンテナの近傍の脳の部分と硬膜における蛍光は、浸透性刺激でポジティブコントロールとしたラットでの観察結果と似ている。
0.12W/kgの曝露群では硬膜でも脳実質でも浸出は見られなかった。
CONCLUSION: 結論
At high and moderate SAR values (2 W/kg and 0.5 W/kg averaged over the brain),
GSM microwaves induced respectively marked and discrete permeabilization of
intracranial 内blood vessels, both
in the meninge and in the brain parenchyma.
高・中曝露のSAR(頭部平均SARで2W/kg、0.5W/kg)のGSMマイクロ波は、頭蓋骨内(硬膜及び脳実質)の血管の透過性に影響している。
This permeabilization is much more prominent in animals
made “inflammation-prone” by
the degeneration of their cranial sympathetic supply leading to complex trophic
phenomena, which favor both the hyper-development of pro-inflammatory
structures such as the parasympathetic and sensory inputs as well as mast
cells, and changes in the structure of blood vessels themselves.
この透過性は、頭蓋内交感神経の退化による交感神経炎症の傾向にあるラットにおいて突出し、複雑な栄養上の現象を呈していた。
この現象は副交感神経のような前炎症性構造の過度の進展や、マスト細胞のような感覚受容器、血管そのものの構造変化に、見られた。
Permeabilization was not observed at the lower
averaged SAR value presently tested, i.e., 0.12 W/kg.
0.12W/kgといった低曝露では、透過性の変化は見られなかった。
In the outer meninge, corresponding local SAR levels can be estimated
respectively at around 20, 5 and 1.2 W/kg, the last two being unlikely to
induce noticeable local increase in temperature.
外周の硬膜において、推定された局部SAR値は20、5、1.2W/kgで、最後の2条件下では体温の局部的な増加があるとは思えない。
Experiments designed to measure possible temperature increases as a function of
depth are in progress.
体温の増加があるかに着目した実験が進行中である。
平成15年12月12日に総務省が発表した「携帯電話の電波が脳微小循環動態に及ぼす影響は認められないことを確認−生体電磁環境研究推進委員会の研究結果−」によれば
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生体電磁環境研究推進委員会では、以前にも脳微小循環動態評価実験を行い、平成13年1月にとりまとめた中間報告において影響は認められないとの結果を公表しましたが、同実験では、ラットの頭部に加えて全身が比較的強い電波を曝露される条件となっていたため、全身曝露による影響を排除し、頭部への局所的な電波曝露のみによる影響を明らかにする必要がありました。
このため、ラットの頭部に従来よりも局所的な電波曝露を可能とする装置を開発し、それを用いて、人が携帯電話を使用している状況により近い曝露条件下で、同実験を行いました。
その結果、携帯電話の電波をラットの頭部に局所的に曝露しても、脳微小循環動態への影響は認められないことを確認しました。
4 結論
長期埋込型cranial window法による実験の結果、携帯電話の電波については、ラットの頭部に電波防護指針の値を超える電波あるいは電波防護指針の値にほぼ等しい電波を曝露しても、熱作用を生じない範囲においては、脳微小循環動態には急性影響、慢性影響ともに認められないと結論された。
組織学的評価法による実験の結果、携帯電話の電波については、ラットの頭部に熱作用を生じるかなり強い電波を曝露しても、頭部温度が42℃未満である範囲においては、BBB機能の変化は認められないと結論された。
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そして この報告書の中に考察では
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4.4. 考察
脳平均SARが35W/kgとなる電磁波をループアンテナよりラット頭部に2時間照射し,曝露終了直後,2,24時間後の時点で,それぞれ異なった分子量を持つEvans blue,FITC-BSAおよび内因性Immunoglobulin が脳実質に漏出していないことを組織学的評価法により確認した.
Toreらは2001年に,我々と同様のループアンテナを使用して,脳平均SAR 2W/kgの電磁波をラット頭部に2時間照射することにより,BBB機能が破綻し静脈内投与したFITC-BSAの血管外漏出が認められたことを発表した.
そこで,我々も電磁波曝露時間を2時間とし,あえて電磁波曝露によるBBB機能破綻の陽性反応を期待し,我々の曝露装置での最大出力,脳平均SAR値で35W/kgの条件でラット頭部を曝露した.
しかし,FITC-BSAを含む3種類の分子の脳実質への血管外漏出は全く認められなかった.
本実験では,電磁波の特性,ラットの系統はToreらの実験とは異なる.
しかしながら,35W/kgという一般環境下における局所SARの防護指針値2W/kgの約18倍もの強さの電磁波によってもBBB機能破綻の陽性反応が見られなかったことは,Toreらの結果に電磁波以外の要因があることを示唆させる.
GoldmanおよびLinらは,電磁波曝露によるBBB機能の破綻は、電磁波そのものではなく電磁波により脳内に生じる熱の影響によると報告している。
さらに、脳内でのEvans blueの血管外漏出を検討した結果から、BBB機能が破綻する脳内温度閾値を42℃としている.
我々の実験においても、電磁波曝露直後から頭部温度上昇が認められた。しかし、その温度は、脳内よりも高温になると予想される頭頂部皮下でも42℃に至らなかった。つまり,脳内の温度が42℃未満に保持されたままで、脳には平均SARで35W/kgの電磁波が照射されていたことになる。
したがって、本実験においてBBB機能の破綻が観察されなかったことは、GoldmanおよびLinらの報告により支持される。
本実験においては、我々の曝露装置で負荷できる最大の脳平均SAR値35W/kgという条件下で、かつBBB機能破綻の温度閾値を下回る温度範囲内で、電磁波そのものによって惹起されるBBB機能破綻を期待したが、組織学的検査によっても陽性反応は観察されなかった.
今後は、さらに高出力電磁波曝露が出来るよう装置を改良し、電磁波そのものによって本当にBBB機能破綻が惹起されるのかをどうかを確認する必要がある。
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となっており、明らかに厳しい条件で実験を行っても、Toreらの研究は再現しなかった。
以下の報告がある。
環境省請負事業
2003年平成15年度 生活環境中電磁界と健康リスク評価に係る調査 報告書
独立行政法人 国立環境研究所
4.2 血液脳関門
血液脳関門(BBB)への影響は、高周波電磁界の生体作用で、最も議論される機会の多い問題の一つである。
古くから、熱作用の生じる強い曝露では透過性が高まることが知られていたが、携帯電話程度の弱い曝露でもアルブミンの漏洩が見られたという報告(Salford 1994)以来、高い関心を集めている。
しかし、その後の研究では影響が見られないという報告がほとんどである
表4。2に示すD’Andrea ら(2003b)によるレビューは、これまでの血液脳関門への高周波の影響に関するこのような状況について詳細に述べている。
Salfordら(2003)はこれまでの研究に引き続き、0.02および0.2W/kgという携帯電話で生じるSARより小さなSARでの曝露によって血液脳関門をアルブミンが透過することを報告し、さらに、神経細胞の損傷を示す「ダークニューロン」の頻度が曝露の大きさに依存して増えることを報告している。
D’andorea(2003)によるレビュー(表4.2)では、血液脳関門への影響に関する25の研究論文を精査している。
携帯電話機から曝露程度の弱い曝露では、Salfordと共同研究者のPerssonのグループによる報告だけが影響を報告している。
但し、査読された論文は未刊行であるが、ボルドー大学のグループが類似の陽性報告(Töre 2001)をしている例があり、また、核磁気共鳴装置によって血液脳関門の透過性が増加したという報告もある(Prato 1990)。
Leszczynskiら(2002)は、ヒト内皮細胞にin
vitroで携帯電話によって脳に生じるのと同レベルの曝露を行い、熱ショック蛋白27の発現を報告している。
著者らはこの蛋白の発現が血液脳関門の透過性の増加に結びつく可能性を指摘しているが、血液脳関門自体を対象とした研究ではない。
Leszczynski(2004)は、この実験結果を根拠にマイクロ波の曝露がタンパク質リン酸化に影響を及ぼす可能性を問題提起している。
血液脳関門への影響の問題は、携帯電話機による健康リスクを評価する上で重要な問題であるとの認識から、2003年11月にこの問題を集中的に扱うワークショップがドイツのReisensburgで開催された(http://www.cost281.org/)。
ワークショップでの報告では、SalfordとPersson のグループ、TöreとAubineauらグループがこれまで報告通りの陽性報告、FritzeとHossmannのグループは拘束時に強い曝露を受ければ一過性の影響があるが、影響はマイナーであると報告、米国ブルックス空軍研究所のMiller らのグループおよび日本の国立保健医療科学院のMasudaとOhkuboのグループは影響がないという結果を報告した。
このうち、MillerらはSalfordらと同じ曝露装置を使用したにもかかわらず、影響を見ていない。
結果の不一致を解決し、この問題の結論を得る必要があることから、共通のプロトコルでの確認実験が多研究機関で実施される見通しである。
表4.2 RF曝露の血液脳関門(BBB)への影響 (D'Andrea et al.[2003b]より)
影響 |
対象 動物 |
SAR (W/kg) |
周波数 (MHz) |
変調 |
強度(mW/cm2) |
曝露 時間 |
脳血流量増加が計測された |
ラット |
|
2800 |
PW |
15 |
5-60分 |
BBB透過性(エバンス青染料を使用)の増加。MWハイパーサーミアとの関連あり |
ラット |
〜3.0 |
2450 |
PW |
|
20分 |
透過性の有意な増加なし。熱的影響に関してδ補正した。トレーサは[14 C] および[3H]。 |
CDアルビノラット |
0, 2, 4,
6 |
2450 |
CW |
0, 10,
20, 30 |
30分 |
透過性の増加なし。トレーサは131Iアルブミン。 |
イヌ |
|
1000 |
CW |
2, 4,
10, 50, 200 |
20分 |
45Ca2+ の脳組織への結合をパルス変調MWによって変化させることを試みたが成功しなかった。 |
ラット脳(in vivo およびin vitro) |
1.9-2.9 |
1000 |
PW |
1 |
20分 |
BBB透過性に影響なし。意識のあるラットを使用、トレーサは[14C]サクロース。 |
|
|
2800 |
CWおよびパルス波(500pps) |
10-40CW;
1-15pW |
30分 |
フルオレスセイン・ナトリウムに対するBBB透過性の増加あり。熱環境またはRFエネルギ曝露による高温状態の脳においてのみ見られた。 |
Fisher344 ラット |
13 (>41℃) |
2450 |
CW |
65 |
30 または90分 |
熱環境またはRFエネルギ曝露後、HRPに対するBBB透過性の増加なし。脳のトレーサ摂取の減少は観察された。 |
Fisher344ラット |
13 |
2450 |
CW |
0, 20,
65 |
30, 90,
180分 |
BBB透過性の増加なし。トレーサは[14C]。 |
ラット |
13 |
2450 |
CW |
20, 65 |
30, 90分 |
トレーサ[14C] 、[3H]の摂取に変化なし。擬似曝露群と比較して、脳の8領域のいずれにおいても。 |
CD ラット |
0.1 |
1700 |
CW およびPW |
|
30分 |
[86Rb]に対するBBB透過性の増加あり。MWによる強度ハイパーサーミアと関連あり。電磁界固有の相互作用によるものではない。 |
ウィスター系ラット |
3(平均値), 240 |
2450 |
PW |
|
5, 10,
20分 |
脳の加温を低減した状態で、MWで誘導したBBB透過性はエタノールによって抑制された。 |
ウィスターラット |
3.0 |
3150 |
CW |
|
15分 |
核磁気共鳴は153ガドリニウム・ジエチレン・トリアミン酢酸に対するBBB透過性を増加させた |
ラット |
|
6.25 |
|
|
23分 |
BBBを通した血管内分子(Rh因子複合体)の摂取の増加 |
アルビノラット |
〜2 |
2450 |
PW |
10 |
30-120分 |
アルブミン通路としてBBBを開けることが可能 |
Fisher344
ラット |
3.3 |
915 |
CWおよびPW |
|
|
SAR2.5W/kg以下では浸出に関係なし。それ以上のSARでは有意な上昇あり。但し、PWとCWは曝露条件で有意な差異はなし。 |
Fisher344
ラット |
0.16-5 |
915 |
CWおよびPW(8, 16,50, 200/s) |
|
120分 |
GSM携帯電話のMW曝露後、脳の神経細胞損傷あり |
ラット(12-26週齢) |
2, 20,
200mW/kg(全身) |
862-960 |
PW: 217
Hz |
0.24,
2.4, 24W/m2(ピーク電力密度) |
2時間 |
43℃以上の領域でエバンス青の浸出が観察されたが、42℃以下ではなかった。 |
ウィスターラット |
<43℃ |
8 |
CW |
|
30分 |
BBB開門はMWハイパーサーミアによるもの。MWの非熱的作用は関係しない。 |
S-Dラット |
42.5 または44.3℃ |
2450 |
CW |
|
30または60分 |
7.5W/kgにおいてのみ浸出あり(ラット自己アルブミンに対する免疫組織学による) |
ラット |
0.3-7.5 (脳) |
900 MHz |
GSM |
|
4時間 |
全てのSARレベルで浸出あり(ラット自己アルブミン、フィブリノーゲン、アビジンービオチンに対する免疫組織学による) |
ラット |
0.0012-12(全身) |
915MHzCW
およびGSM |
217Hz(パルス幅0.57ms)または50Hz(パルス幅6.6ms) |
|
2分〜960分 |
浸出なし(ラット自己アルブミン、アビジンービオチンエバンス青に対する免疫組織学による) |
ラット |
2(脳) |
1439 MHz |
GSM TDMA |
|
1時間/日, 2-4週間 |
浸出なし(マウス自己アルブミンに対するin vivo免疫組織学による) |
マウス |
4.0 (全身) |
898.4
MHz |
GSM |
|
60分 |
透過度の上昇あり(ZO114C.サクロース流束に対するBBB免疫組織学のin vitroモデルによる) |
マウス |
0.3 |
1800 MHz |
GSM |
|
4日 |
浸出なし(マウス脳での血管透過度に関する携帯電話MW曝露の長期的影響) |
マウス |
0.25,
1.0, 2.0, 4.0W/kg(全身) |
|
GSM |
|
60分, 5日/週,
104週間 |
1)ワークショップが開催された。
以下はアブストラクトの表紙から
2)ワークショップの概要
以下の報告書にあった。
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環境省請負事業
平成15年度「生活環境中電磁界と健康リスク評価に係る調査」報告書
独立行政法人 国立環境研究所
血液脳関門への影響の問題は,携帯電話機による健康リスクを評価する上で重要な問題であるとの認識から、2003年11月にこの問題を集中的に扱うワークショップがドイツのReisensburgで開催された(http://www.cost281.org/).
ワークショップでの報告では、SalfordとPersson のグループ、TöreとAubineauらグループがこれまで報告通りの陽性報告、FritzeとHossmannのグループは拘束時に強い曝露を受ければ一過性の影響があるが、影響はマイナーであると報告、米国ブルックス空軍研究所のMillerらのグループおよび日本の国立保健医療科学院のMasudaとOhkuboのグループは影響がないという結果を報告した。
このうち、MillerらはSalfordらと同じ曝露装置を使用したにもかかわらず、影響を見ていない。
結果の不一致を解決し、この問題の結論を得る必要があることから、共通のプロトコルでの確認実験が多研究機関で実施される見通しである。
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以下はARIBのサイトにあった情報
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【2004-1】携帯電話の電波による脳の血液脳関門の機能への影響の調査
研究目的
国際的な電波の防護基準である国際非電離放射線防護委員会(International Commission on
Non-Ionizing Radiation Protection; ICNIRP)のガイドライン、ならびに日本の電波法で定める電波防護指針値以下の微弱な電波により、脳の血液脳関門(Blood-Brain Barrier;以下BBB)の機能に影響を及ぼすという研究結果が報告されました。
この報告により、携帯電話の電波が脳に影響を及ぼすかも知れないとの懸念が高まりました。
そのため世界保健機関(WHO)の国際電磁界プロジェクトの研究調整委員会では、この研究報告の信頼性を再現実験により検討することを最優先課題の一つに位置づけ、アメリカ、フランス、日本の3カ国が共同で再現実験を実施することになりました。
本研究はこの共同実験の枠組みに基づいたもので、血液脳関門機能への電波の及ぼす影響について再現実験により検討しました。
研究内容
再現実験は先行報告の動物実験で用いられた、電波曝露装置の機能を検討する工学的検討、ならびに先行報告の電波曝露装置を用いた動物実験の実施による生物学的検討の2側面から行いました。
工学的検討:電波の生体影響を正しく評価するためには、動物実験で用いられた電波の曝露装置内における電界、磁界、熱量、温度などの条件の正確な把握が必要です(電磁界ドシメトリと呼ばれています)。
そこで先行報告で用いられた電波曝露装置(TEM-cell)の、評価装置としての機能について、電波曝露装置内の電界強度分布の数値計算、実測により検討するとともに、実験マウスに吸収された電波の量(SAR)を検討し、曝露装置としての性能を評価しました。
生物学的検討:先行実験で用いられたTEM-cell装置ならびに他の曝露装置を用い、電波の曝露による血液脳関門透過性および神経細胞死の亢進の有無を検討しました。
研究結果
TEM-cell装置は内部電界強度が不均一であり、電波曝露量の評価の信憑性に疑いがあることがわかりました。また電波曝露後のラット脳を検討しましたが、電波曝露14日後および50日後のラット脳においてアルブミンの血管外漏出および変性した神経細胞の増加は認められませんでした。
以上のことから、今回の再現実験においては電波防護指針値以下の微弱な電波による血液脳関門への影響は認められませんでした。
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引用文献などに関しては、ARIBのサイトにアクセスして下さい。
以下の文献にBBBに関する概説が書かれている。
掲載誌:生体医工学 43(3): 375―387、2005
タイトル:解説特集:電磁環境の生体への影響と安全性:携帯電話の生体安全性
研究者:多氣昌生・渡辺聡一・和氣加奈子
6・3 血液脳関門
血液脳関門(blood-brain barrier、BBB)は、脳組織に必要な物質のみを選択的に透過させる機能であり、この機能により、脳神経近傍の環境が一定に保たれている。強いマイクロ波によって温度が上昇すると血液脳関門の透過性が高まることが知られている。
Salfordらは、温度上昇のない弱い電波の照射でも血液脳関門の透過性が高くなることを報告した[30:1994]。携帯電話の使用により血脳関門の透過性が高まれば、頭痛などの症状や他の疾患の原因となる恐れがあるため、この結果が注目された。
Fritzeらは、GSM規格の波形をラットの頭部に照射した実験から、脳でのSARが3.5W/kg以下では影響がなく、Salford の報告が再現しないことを報告した。但し、7.5W/kgを超えるとやや影響が見られるとした[31:1997]。
この値は、局所SARについての一般公衆の指針値よりは高いが、管理環境(職業曝露)の指針値より低い。このため、わが国でもさらに研究がなされた。その結果、温度上昇に留意すれば7.5W/kgでも影響が見られないことが示された[32:Tsurita 2000]。
Salfordらはその後も、0.02および0.2W/kgという携帯電話で生じるより小さなSARで血液脳関門をアルブミンが透過することを報告し、さらに、神経細胞の損傷を示す「ダークニューロン」の頻度が曝露の大きさに依存して増えると報告した[33:2003]。
他にも、査読された論文は未刊行であるが、ボルドー大学のグループが類似の結果[34:Dulou 2001]を報告した例があり、また、核磁気共鳴装置の磁界曝露の影響によって血液脳関門の透過性が増加したという報告もある[35:Frappier 1990]。
血液脳関門への影響は、携帯電話機による健康リスクを評価する上で重要な問題であるとの認識から、2003年11月にこの問題を集中的に扱うワークショップが開催された。主催した欧州の研究プログラムCOST281では、その時の記録を公開している(http://www.cost281. org/)。
Leszczynskiらは、ヒト内皮細胞をin vitroで携帯電話の曝露と同程度の強さで曝露し、熱ショックタンパク27の発現を報告している。著者らはこのタンパクの発現が血液脳関門の透過性の増加に結びつく可能性を指摘している[36:2002]。
しかし、最近のMiyakoshiらの報告では、この現象は再現されていない[37:2005]。
以下の論文から、BBBに関する部分だけを引用。
図や参考文献は割愛、関心のある方は、原著を読んでください。
掲載誌:J.Natl. Inst. Public Health、 56(4). 2007
タイトル:高周波電磁界と健康
研究者:増田宏
本稿では、電波と健康影響に関する様々な報告を紹介することは敢えて控え、ひとつの事例に絞り詳述する。
1992年の発表より現在に至るまで論議の続いている、スウェーデン・ルンド大学のSalford らの研究報告がそれである。この事例は、電波と健康影響に関するテーマが抱えている問題を考える上で、また、電波と健康影響について今後報道されるであろう様々な情報を理解していく上で、参考にして頂けるのではないかと著者は考えている。
以下では、Salford らの報告ならびに問題点を具体的に示し、これに対して実施された検証実験データおよび現在の状況について言及してみたい。
3.血液脳関門に対する電波の影響
高周波電波の照射により血液脳関門の透過性が亢進する結果が示されている。1992年および1994年に相次いで出されたスウェーデン・ルンド大学のSalford らのグループの報告である。彼らは、欧州の携帯電話で用いられている電波をラットの全身に2 時間照射すると、通常は血液脳関門の働きにより血管外に漏出することのない血中アルブミンタンパクが、脳内に漏れ出ていることを示した。
さらに彼らは、この血中アルブミン漏出が極めて低レベルの電波照射条件下でも認められることを示した。電波照射強度を全身平均SARで0〜5W/kgの間でいくつか定め、血中アルブミンレベルを検討した結果、0.4〜8mW/kgの電波照射においても同様の漏出を認めている。また、2003年発表した報告では、同様の処置を施したラットでは50日後の脳においてもアルブミンが漏出しているデータを示した。
ICNIRPでは(我が国においても同様)安全係数を十分に考慮した上で、ヒトへの電波曝露量の一般環境指針値を全身平均SAR 80mW/kgと定めている。したがって、Salfordらのデータは、この指針値の1割にも満たない強度で血液脳関門に影響が及ぼされることを示したわけである。
前述したように、これはあくまでラットを用いた実験結果である。したがって、直ちにヒトへと外挿出来るものではない。しかし、我が国を含む多くの国が採用している基準値を大きく下回るレベルの電波照射が生体、それも血液脳関門に影響を及ぼすという結果だっただけに大変注目されるとともに、電波の脳への影響に関して問題提起される際には、必ずと言ってよいほどこのデータが引き合いに出される。
4. Salford らの報告が抱える問題点
Salford らの結果を読み取るには十分な注意が必要である。前段で示したように結果だけ(特に写真)を示されると、明らかに影響があるように見える。しかし、それ以前に彼らの実験方法には複数の疑問点が存在することを見落としてはなない。
まず、使用している実験動物に関する情報が欠落している。実験に用いているラットの系統はF344ラットになっているが、雌雄を混合しているばかりでなくその週齢差も非常に大きい。さらにそれらラットの各個体数も示されていない。通常、実験動物を用いた研究を行う場合、性周期に伴うホルモン変動による影響を避けるために雌雄を区別せずに実験を行うことはない。また、本実験では電波照射量が体重により大きく左右されるため、週齢差の大きい動物を同一条件で照射できているかどうか疑問である。
次に電波照射方法に問題がある。彼らはTEM-cellという電波照射箱の中にラットを入れ電波を照射している。このTEM-cell を用いて電波照射する場合、箱の中のラットの位置や姿勢により電波照射量が大きく変動することが知られている。特に、彼らの実験ではこの箱の中へ同時に2 匹のラットを入れて電波照射を行っている。したがって、どちらのラットにどれだけの照射が行われたのかを知ることは一切出来ない。
さらに、提示されている電波照射量についても疑問が残る。彼らが設定した電波照射量SAR はシミュレーションにより求めたと記載されている。しかし、そのシミュレーション方法については、「いずれどこかで発表する」と示されたきり、十年以上たった今でも公表されていない。つまり、本実験の根幹とも言える電波照射量について、いったいどのように算出し設定したのかさえ不明確なままなのである。
この他にもいくつか疑問点があるが、以上3 点について見ただけでも、本実験結果を捉える上で注意が必要であることがお分かりになるだろう。実は、実験方法に関するこのような不明確さは、次に示すような再現実験を行う際に非常に大きな障壁となる。なぜなら、先行研究と同一条件で再現実験を行うことは事実上不可能だからである。
5.再現性実験結果
前述したとおり、Salford らの報告に対する再現実験は事実上不可能である。そこで、各国の研究グループは、血液脳関門に及ぼす電波影響の有無を明らかにすることを目的として、それぞれ独自のプロトコルに基づいた確認実験(ここでは敢えて「確認実験:confirmation study」とした)を実施している。
以下に、本院で実施した著者らの研究結果も含めて代表的な報告を紹介する。
5.1.組織学的検討
釣田らは、Salford らと同じ免疫組織学的手法を用いて、ラットの脳に電波を照射してもアルブミン漏出は認められないことを示した。彼らは、ラットの頭部に局所的に電波照射可能な装置を開発し、シミュレーション結果に基づきSARも制御した。また、アルブミン漏出の評価方法はSalford らと同じ免疫組織学的手法を用いた。その結果、脳における局所SAR が2W/kg(全身平均SAR
0.25W/kg)の電波照射を4週間にわたり処置しても、脳実質内へのアルブミン漏出は認められなかった。
ちなみに、この研究グループでは、同様の手法を用いて、ラットの脳神経細胞変性や記憶への影響、さらにホルモンに及ぼす影響についても検討したが、いずれの評価象においても電波照射の影響を認めていない。
5.2.培養細胞による検討
ドイツのFrankeらは、培養細胞を用いた実験を用いて、電波が血液脳関門の透過性に影響を及ぼさないことを示した。彼らはブタの脳毛細血管から内皮細胞を採取し、細胞培養系において血液脳関門機能を構築した。また、ディッシュ上の培養細胞に電波照射可能な装置も開発し、シミュレーション結果に基づきSAR を設定した。その結果、細胞層平均SAR 0.3W/kgを5日間にわたり照射し続けても、構築された血液脳関門を透過するスクロース量に変化は認められなかった。
実は、このグループはこれより前に類似した研究で「血液脳関門透過性に対して影響有り」と報告し、Salford の結果が培養細胞でも確かめられたとして社会的にも取り上げられた。しかし、その後実験方法を精査し再検討した結果、影響がないことを確認したため前言を撤回している。最新の報告ではこのことも明記されている。
5.3.直視的観察による検討
著者らは、ラットの脳血管を動物が生きたままで直接観察できる頭窓法を用いて、電波が血液脳関門の透過性に影響を及ぼさないことを急性照射実験(10分間照射)および亜慢性照射実験(1日60分間を4週間)により示した。
ラット頭部に透明な窓を取り付けることで、脳表血管網を顕微鏡下で直接観察できる状態にし、静脈内投与した色素が関門を持つ脳血管から漏出するかどうかを観察した。電波照射装置は前述した釣田らと同じものを用い、脳における局所SAR が急性照射実験では0.6、2.4、4.8W/kg、亜慢性照射実験では2.4 W/kg の電波照射を施した(各全身平均SARは局所SARの1/3.7)。その結果、いずれの照射条件においても色素が脳血管外に漏出する現象は認められなかった。
この実験では、血液脳関門機能だけでなく脳が異常をきたすことが分かっている微小循環動態指標、脳血管内白血球挙動、血管径、血流速度についても合わせて観察した。しかし、これらいずれの指標においても電波照射に起因する変化は認められなかった。以上の結果より、電波は血液脳関門機能を含む脳微小循環動態全体に影響を及ぼさないことが示唆された。
6.問題の収束に向けて
以上のように、Salfordらが報告した「血液脳関門に対する電波影響」は、彼らの実験方法に含まれる問題点からも、またその後の確認実験の結果からも、否定的見解へと収束しつつある。彼らの結果を肯定する報告もあったが、わずか数グループにすぎず、それ以外のグループは著者らも含めて血液脳関門への電波影響を認めていない。
しかし、この問題は否定的見解へ収束しつつあるものの已然として燻っている。
同一条件で実施される「再現実験」とそうでない「確認実験」との違いに原因があるように思える。
確かに、Salfordらの発表以降に実施された実験は、著者らのものも含め電波照射方法などが必ずしも彼らのそれと同じではない。つまり、たとえ同じ評価対象について影響が認められないことを示しても、アプローチの方法が異なっているために彼らの結果を直接確かめたことにはならないのである。実験条件の詳細が示されていない先行研究の証明がいかに難しいかを示す典型的な例である。
現在、この問題の解決に向けた共同プロジェクトが日本・フランス・アメリカの3カ国により進められている。このプロジェクトでは、実験プロトコルを可能な限りSalford
らのそれに合わせ、彼らの実験をそれぞれの国で同時に検証することを目的としている。血液脳関門への電波影響の有無を確認するだけでなく、電波照射レベルなど、Salford らの報告が抱えていた問題点を浮き彫りにし、どのように解釈するかまで明示される予定である。既に3カ国とも実験は終了しており、まもなく実験に参加した全研究機関より「Salfordらの知見を確認できず」という見解が共同発表されることになっている。
血液脳関門に対する電波影響に関する長年の懸念を払拭するためにも、共同プロジェクトに参加した著者らのグループとしても、15年にもわたるこの論争の終焉となることを期待している。
記:2021−10−9
掲載誌: Electromagn Biol Med 2008; 27 (3): 215-229
タイトル:Blood-brain barrier permeability and nerve cell damage in rat brain 14 and 28 days after exposure to microwaves from GSM mobile phones
GSM携帯電話からのマイクロ波ばく露の14日または28日後のラットにおける血液脳関門透過性と神経細胞損傷
研究者: Eberhardt JL, Persson BR, Brun AE, Salford LG, Malmgren LO
目的:900MHz帯の実際のGSM携帯電話(プログラムにより送信条件可変)を用いて、ラットの血液脳関門透過性およびニューロン損傷に対する携帯電話GSMマイクロ波曝露露の影響を調べること。
方法:96匹の非麻酔ラットに、平均全身SAR値0.12、1.2、12、120mW/kgで、TEMセル内で2時間のマイクロ波曝露または擬似曝露を行った。
曝露後14日または28日の回復期間を経てラットを屠殺し、アルブミンの漏出、そのアルブミンのニューロンでの取り込み、ニューロン損傷の発生数を評価した。
結果:曝露後14日群では、アルブミン漏出とニューロンでの取り込みは増加したように見えたが、曝露28日群では見られなかった。
一方、ラット脳のダークニューロンの発生数は、曝露後28日群で増加した。
また、この28日群の脳の試料では、ニューロンのアルブミン取り込みは損傷ニューロンの発生数と有意に相関した。
この概要では量‐反応関係が判らない。
この論文では、Full Textを読むが、実験結果を淡々と述べているだけで、「結論らしき」文言は見当たらない。
Full textを読む。
以下は量‐反応関係が判る結果の例
BEMSJ注:このデータからは、「微弱でも多少強い曝露でも、電磁波の影響がある」と読むことができるし、「量‐反応関係が明確ではなので、この結果からは明確な結論は出せない」ということが言える。
最も大きな疑問は、電磁波曝露によるBBB障害が、曝露後14日後・28日後といったかなり日数が経過してから起こるものであるか否かである。
記:2020−1−7
以下の研究がある。
以下はEMF Portalにあった情報
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掲載誌: Pathophysiology 2009; 16 (2-3): 103-112
タイトル:Increased blood-brain barrier permeability in
mammalian brain 7 days after exposure to the radiation from a GSM-900
mobile-phone
GSM-900携帯電話放射に曝露してから7日後の哺乳類の脳における血液脳関門の透過性上昇
研究者:Nittby H, Brun A, Eberhardt J, Malmgren L,
Persson BR, Salford LG
この研究は、著者らの以前の研究(携帯電話からの電磁放射が血液脳関門(BBB)の透過性を変化させ、その結果として2時間の曝露の直後と14日後にアルブミンの血管外漏出が生じたという知見を報告している)に引き続き、GSM携帯電話からの電磁放射への単回の2時間曝露がラットの血液脳関門透過性に与える影響を、曝露終了から7日後に調べた。
異なるSAR条件において、TEMセルでの2時間曝露実験を行った。
48匹のラットを用いて実施したSAR条件は、0mW/kg、0.12mW/kg、1.2mW/kg、12mW/kg、120mW/kgであり、いずれも非熱的レベルである。
BBBからのアルブミンの血管外漏出、ニューロンのアルブミン取り込み、およびニューロン損傷を評価した。
その結果、7日後において、擬似曝露群に比べ、SAR値12mW/kg(Mann-Whitney、p=0.007)での曝露群において、アルブミンの血管外漏出が増強された(Fisherの正確確率検定でp=0.04、Kruskal-Wallis検定でp=0.012):0.12mW/kgおよび120mW/kgのSAR値でもアルブミン漏出が増加する傾向が示された:曝露レベル(SAR値)と限局的なアルブミン漏出の発生との間には弱いが有意な相関関係があった(r(s)=0.33;p=0.04)、と報告している。
*******************
ちょっとわかりにくいので曝露レベルと影響度を纏めてみると、
0mW/kg |
対照 |
0.12mW/kg |
アルブミン漏出が増加する傾向が示された、検定で有意ではない。 |
1.2mW/kg |
上記概説では記述なし。原文を読むと 「アルブミン漏出が増加する傾向が示された、検定で有意ではない。」 |
12mW/kg |
アルブミンの血管外漏出が増強された、検定で有意 |
120mW/kg |
アルブミン漏出が増加する傾向が示された、検定で有意はない。 |
Full Textを読むと、
・ラットのSARは、ラットの位置によって変化する。
・ラットのSARは、計算によって求めた。
・以上の2点の詳細は、この論文の研究者たちの他の論文を参照 とある。<機会があれば、読んでみたい。>
BEMSJのコメント
曝露量(強度)と影響に量-反応関係が見られない。もし電磁波曝露でBBBが破綻するのであれば、120mW/kgの曝露条件下では、最も大きい影響が観察されてしかるべきである。
よって、この研究論文は、他の研究所において、再現するか否かをみなければならない。
以下の報告がある。
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掲載誌: Radiat Res 2009; 172 (1): 66-73
タイトル:Effects of 915 MHz electromagnetic-field radiation
in TEM cell on the blood-brain barrier and neurons in the rat brain.
ラット脳の血液脳関門および神経細胞に対するTEMセル内の915MHz電磁界放射の影響
研究者: Masuda H, Ushiyama A, Takahashi M, Wang J, et al;
この研究は、Salfordらの報告(2003)のように、915MHz電磁界への2時間の単回曝露を受けた14日後および50日後のラットの脳にアルブミン漏出およびダークニューロンが存在するか否かを調べた。
64匹の雄F344ラット(12週齢)に、TEMセルを用いて、全身平均SARが0、0.02、0.2、2.0 W/kgの915MHz電磁界の2時間曝露を与えた。
これは、Salfordらが報告しているプロトコルと同じである。
曝露終了後に、脳組織の組織学的および免疫組織化学的検査を行なった。
その結果、曝露群において、アルブミン免疫反応性は観察されなかった。
さらに、ヘマトキシリンおよびエオシン染色を用いて評価したが、ダークニューロンは極めて稀にしか存在せず、曝露群と擬似曝露群の間に統計学的な有意差はなかった。
したがって、この研究では、Salfordらの研究結果を確認することができなかった。
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以下の研究がある。
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掲載誌: Environmentalist 2011; 31 (2): 140-148
タイトル:Nonthermal GSM RF and ELF EMF effects upon rat BBB permeability.
ラットのBBB透過性に対する非熱的なGSM RF及びELF電磁界の影響
研究者: Nittby H, Brun A, Persson BR, Salford LG et al;
Salfordらの研究グループが1980年代後半から報告している「携帯電話から放出されるタイプのパルス変調高周波電磁界(RF-EMF)が血液脳関門に影響を及ぼすという」知見の検証の一環として行われた。
Salfordらの研究において、動物の曝露にはTEMセルが用いられ、このセルは外付け型電気ファンによって換気されていた。
そこで今回は、電気ファンからの超低周波(ELF)磁界(50Hz)がRF効果に追加的な効果を示すか否かを調べた。
64匹のラットを4群に分けた。
すなわち、RF単独曝露群、ELF単独曝露群、RF + ELF曝露群および擬似曝露群である。
TEMセル内での50 Hz磁界分布は、0.1 - 1.9μTであったので、この範囲のいくつかの磁束密度を曝露実験に用いた。
GSM-900 MHz RF曝露は、従来通り、非常に低く、非熱的で、全身平均SARレベル0.4mW/kgであった。
いずれのタイプの曝露も、曝露時間は先行研究と同じ2時間とした。
脳組織でのアルブミンの血管外漏出を観察するために、研究者らが従来から使用している染料の他に、サードサプライヤーから入手したアビジン、ビオチン、抗体も使用したが、後者では許容できる染色はできなかった、と述べている。
結果として、擬似曝露群でアルブミン漏出は観察されなかった。
RF単独曝露群では、25%の動物に病理学的アルブミン漏出が観察された。
ELF単独曝露群、RF + ELF曝露群ではそれぞれ3つおよび2つの病理学的所見があったものの、擬似曝露対照群との有意差はなかった。
総括すると、外付け型電気ファンの使用は従来からの研究知見に大きな影響を与えないことが示された。
************************
Full Textを読むと、実験装置の写真があった。
BEMSJのコメント:
纏めると
・「擬似曝露群でアルブミン漏出は観察されなかった」は当然。
・「ELF単独曝露群では有意差はない」は理解できる。
・「RF単独曝露群ではアルブミン漏出が観察された」は理解できる。
・「RF+ELF曝露群では有意差はなかった。」は大きな疑問である。
この複合曝露条件では、「ELFは影響がない」のであるから、「RF+ELF曝露群」では「RF曝露単独曝露」と同じ程度に「漏出が観察され」なければならない。
この研究の実験方法などに何か、不十分なところがある様に思える。
以下の研究がある。
1)EMF Portalのサイトにある概要
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掲載誌: Mol Neurobiol 2015; 52 (1): 478-491
タイトル:Activation of VEGF/Flk-1-ERK Pathway Induced Blood-Brain Barrier Injury After Microwave Exposure.
マイクロ波曝露後のVEGF/Flk-1-ERK経路の活性化が誘発した血液脳関門の損傷
著者: Wang LF, Li X, Gao YB, Wang SM, Zhao L, Dong J, Yao BW et al;
この研究は、ECV304細胞株とラットの脳星状細胞初代培養株で作成したインビトロの血液脳関門(BBB)モデルを用いて、マイクロ波曝露(50mW/cm2、5分間)後のBBBの構造的および機能的損傷における血管内皮細胞増殖因子(VEGF)/Flk-1-ERK経路の役割を調べた。
構造変化は走査電子顕微鏡により、透過性変化は経皮内電気抵抗(TEER)および西洋わさび過酸化酵素(HRP)透過性により評価し、VEGF/Flk-1-ERK経路の構成物質およびオクルジンの活性および発現も検査した。
その結果、マイクロ波曝露による細胞間のタイトな結合の拡大と破壊が観察され、それにはTEER低下とHRP透過性上昇を伴っていた;また、VEGF/Flk-1-ERK経路の活性化オクルジンのチロシンリン酸化が観察された、などを報告している。
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2)少し詳しいAbstractの紹介
掲載誌;Mol Neurobiol. 2015 Aug;52(1):478-91.
タイトル:Activation of VEGF/Flk-1-ERK Pathway Induced
Blood-Brain Barrier Injury After Microwave Exposure.
VEGF/Flk-1-ERK経路の活性化は、マイクロ波曝露後に血液脳関門障害を誘導した。
研究者:Wang LF, Li X, Gao YB, Wang SM, Zhao L, Dong J, et
al:
Abstract 概要
Microwaves have been suggested to induce neuronal injury and increase permeability
of the blood-brain barrier (BBB), but the mechanism remains unknown.
マイクロ波は神経細胞損傷を及ぼすと考えられ、血液脳関門(BBB)の透過性を高めと考えられるが、メカニズムはいまだ明らかになっていない。
The role of the vascular endothelial growth factor (VEGF)/Flk-1-Raf/MAPK kinase
(MEK)/extracellular-regulated protein kinase (ERK) pathway in structural and
functional injury of the blood-brain barrier (BBB) following microwave exposure
was examined.
マイクロ波に曝露によって発生する、血液脳関門(BBB)の構造的損傷および機能障害での血管内皮増殖因子(VEGF)/Flk-1-Raf/MAPKキナーゼ(MEK)/extracellular-regulatedプロテインキナーゼ(ERK)経路の役割を検討した。
An in vitro BBB model composed of the ECV304 cell line and primary rat cerebral
astrocytes was exposed to microwave radiation (50mW/cm2, 5 min).
試験管内実験でのBBBモデルはECV304細胞系で形成し、そして、第一段階のラット脳の星状細胞は、マイクロ波に曝露(50mW/cm2、5分間)した。
<BEMSJ注;電波曝露基準を1mW/cm2とすれば、50倍、温度が1度上昇するとされる曝露強度での実験>
The structure was observed by scanning electron microscopy (SEM) and the
permeability was assessed by measuring trans-endothelial electrical resistance
(TEER) and horseradish peroxidase (HRP) transmission.
構造物は走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察され、透過性は経内皮電気抵抗(TEER)および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)伝達を測定することによって評価された。
Activity and expression of VEGF/Flk-1-ERK pathway components and occludin also
were examined.
VEGF/Flk-1-ERK経路成分の発現と活性、そしてオクルディンを検討した。
Our results showed that microwave radiation caused intercellular tight
junctions to broaden and fracture with decreased TEER values and increased HRP
permeability.
我々の実験では、マイクロ波放射は、TEER値の低下と共に揺るぎと広域化のために細胞間タイト結合を起こし、HRP透過性を高めることが判った。
After microwave exposure, activation of the VEGF/Flk-1-ERK pathway and Tyr
phosphorylation of occludin were observed, along with down-regulated expression
and interaction of occludin with zonula occludens-1 (ZO-1).
マイクロ波曝露で、VEGF/Flk-1-ERK経路の活性化およびオクルディンのTyrのリン酸化は、小帯occludens-1(ZO-1)を伴ったオクルディンの下方制御発現および相互作用とともに観察された。
After Flk-1 (SU5416) and MEK1/2 (U0126) inhibitors were used, the structure and
function of the BBB were recovered.
Flk-1(SU5416)およびMEK1/2(U0126)阻害剤が使用された後、BBBの構造および機能は復帰した。
The increase in expression of ERK signal transduction molecules was muted,
while the expression and the activity of occludin were accelerated, as well as
the interactions of occludin with p-ERK and ZO-1 following microwave radiation.
マイクロ波曝露とp-ERKとZO-1と共にオクルディンの相互作用と同様に、オクルディン発現および活動を加速した一方で、ERKシグナル伝達分子の発現の増大はミュートされた。
Thus, microwave radiation may induce BBB damage by activating the
VEGF/Flk-1-ERK pathway, enhancing Tyr phosphorylation of occludin, while
partially inhibiting expression and interaction of occludin with ZO-1.
このように、ZO-1によってオクルディン発現および相互作用を阻害する一方、マイクロ波放射は、VEGF/Flk-1-ERK経路(オクルディンのTyrのリン酸化を促進する)を活性化することによりBBB損傷を誘発する可能性がある。
BEMSJ注;曝露基準の50倍という強度のマイクロ波曝露で、BBB機能の損傷という研究、難解。
記:2023−1−18
以下の研究がある。
掲載誌: Brain Res 2015; 1601: 92-101
タイトル:Exposure to 900 MHz electromagnetic fields activates
the mkp-1/ERK pathway and causes blood-brain barrier damage and cognitive impairment in rats
900MHzの電磁界への曝露はラットのmkp-1/ERK経路を活性化し、血液脳関門の損傷および認知障害を引き起こす.
研究者: Tang J, Zhang Y, Yang L, Chen Q, Tan L, Zuo S, Feng H, Chen Z, Zhu G
この研究は、SDラット(n=108)に900MHzの電磁界(EMF;1mW/cm2、全身平均SARが0.0162W/kg、頭部の局所SARが2W/kg)の曝露を、1日3時間、14日間または28日間与えた後、さまざまな組織学的検査およびモーリス水迷路試験を行った。
その結果、28日曝露群では、14日曝露群および無曝露群に比べ、空間記憶の低下が観察された;また28日曝露群では、細胞性浮腫および神経細胞オルガネラの変性、血液脳関門透過性の損傷が見られた、と報告している。
以下はEMF Portalのサイトにあった情報
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掲載誌: In Vivo 2015; 29 (3): 351-357
タイトル:No dynamic changes in blood-brain barrier permeability occur in developing rats during local cortex exposure to microwaves.
マイクロ波の局所的な皮質曝露を受けた発達中のラットに血液脳関門透過性の動的変化は生じない
研究者: Masuda H, Hirota S, Ushiyama A, Hirata A, Arima T,
Kawai H, Wake K, Watanabe S, Taki M, Nagai A, Ohkubo C
この研究は、非熱的レベルの無線周波(RF)電磁界を脳皮質へ局所曝露することにより、幼若および若齢成獣のラットの血液脳関門(BBB)の透過性が変化するか否かを調べた。
皮質の標的部位の曝露には1457MHzを用い、標的部位でのSARは2.0W/kg、曝露時間は50分間とした。
軟膜のBBBの透過性変化は生体蛍光顕微鏡法により直接測定した。
その結果、幼若、若齢成獣のいずれのラットにおいても、曝露群と擬似曝露群で、静脈注入した染料の血管外漏出に有意差はなかった。曝露直後の脳のあらゆる部位でアルブミン漏出の組織学的証拠は見られず、BBB破壊の痕跡は無いことが示された、と報告している。
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記:2021−8−13
BBBが機能するので、脳の病気の治療目的で薬などを投与しても、脳の幹部に届かないという課題がある。
この医療目的で、BBBの機能を止めて、薬物を投与しようとする研究がある。
以下はその一例
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文科省の科研DBにあった情報
研究機関:防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究
研究代表者:佐藤 俊一
防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, その他部局等,
研究期間 (年度):2013-04-01 – 2016-03-31
研究成果の概要
我々は先行研究において,短パルスレーザで発生させた圧力波(フォトメカニカル波)を用いて脳血管の障壁(血液脳関門)を一時的に開放できることを見出した。
本研究ではこの効果に基づき,ラットの悪性脳腫瘍,特に再発の原因となる腫瘍周縁部の浸潤腫瘍細胞に安全かつ効率よく薬剤を送達できることを示した。
血管から漏出する薬剤の動態を画像化する方法,および臨床応用に必要な要素技術についても検討を行った。
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血液脳関門
脳には微細な毛細血管ネットワークがあり、それが栄養分および酸素などを神経細胞に供給しています。
これらの血管壁は、身体の他の毛細管とは異なる独特の特質をもちます。
脳内血管の内側を覆う内皮細胞には物質輸送のための小孔(窓形成)がありません。
その上、細胞同士はそれぞれの境界でいわゆる密着結合しています。
この2つの特質により、ほとんどの物質(グルコースやほとんどのアミノ酸だ>けでなく、薬剤や微生物も)が脳内へ無制御に入り込むことを防止しています。
ごく少数の低分子に限り、拡散による障害なく内皮細胞の半透性細胞膜を通過する(親油性の物質およびガス)、あるいは密着結合しているにも拘らず隣接する細胞の形質膜の間の空隙を通り抜ける(例えば、尿素およびグリシン)ことができます。
したがって、血液から脳へ、またはその逆方向へ輸送されようとする全ての他の物質は、特殊な輸送システムにより血管壁の細胞(内皮細胞)のチャネルを通り抜けなければなりません。
このシステムが、神経細胞と血液の間の物質交換を制御し、有害な物質から神経細胞を保護しています。
この関門を血液脳関門と呼びます。
理論的には、血液脳関門の透過性亢進は望ましくない物質の輸送、その結果としてもしかしたら脳損傷につながるかもしれません。
血液脳関門の透過性は、正常な生理学的条件下においてさえ時間的なゆらぎの影響を受けますが、それに加えて外部要因の影響も受けることがあります。
ドイツ連邦放射線防護局(BfS, オンライン2016)の声明に拠れば、脳内温度上昇が血液脳関門の透過性亢進を引き起こすことは議論の余地がありません。
これは発熱によっても起きますし、曝露限度値を顕>著に上回る強度の無線周波電磁界により生じる温度上昇の場合にも起こり得るでしょう(ICNIRPにしたがえば、7 W/kgまたはそれ以上で(ICNIRP 2009, p.190))。
研究の目的は、このような曝露限度値以下の無線周波電磁界によっても血液脳関門が損傷されうるか否かを明らかにすることでした。
携帯電話関連の電磁界による血液脳関門の透過性への影響はいくつかの研究で調べられています。
この問題に関する全ての実験研究の概観は、EMFポータルの携帯電話に関する研究の概観でご覧になれます。
さまざまな国際および国内の委員会が、無線周波電磁界の血液脳関門への影響の証拠に関して現存データを常に評価しています。
国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)に拠れば、ほとんどの研究が曝露限度値以下の無線周波電磁界の血液脳関門への影響を何も見出していません。
影響ありとの結果を得た少数の研究のほとんどは、実験群が小さい、曝露およびドシメトリの説明が不十分など、方法上の欠陥がある、年代の古い研究でした。
したがって、一定限度の妥当性しかありませんでした(ICNIRP 2009, p.190 ff)。
欧州連合の新興・新規同定された健康リスク>についての科学委員会はICNIRPのこの見解に同意しています(SCENIHR 2015, p.128)。
ドイツ放射線防護委員会(SSK, 2011, p.23)は、全ての現在の研究の要約およびドイツ移動体通信研究プログラム(DMF)の結果を参照して、曝露限度値以下の無線周波電磁界の血液脳関門への影響に関する十分な証拠を認めていません。
したがってSSKは、この問題をこれ以上研究する必要を何ら認めていません。
スイス連邦環境省(FOEN, 2014, p.27)もまた、現在の文献から得られる血液脳関門への影響に関する証拠は不十分とみなしています。
FOENに拠れば、ある種の影響を支持する証拠のほとんどの出所は、ただ一つのスウェーデンの研究グループによる数々の研究です(主なものは、Salford et al. 1994、Salford et al. 2003、Eberhardt et al. 2008、Nittby et al. 2009、Nittby et al. 2011)。
FOENにしたがえば、彼らの研究の全てが、データの収集と分析、ドシメトリの説明に関して方法上の欠陥を見せており、曝露中に温度が制御されたか否か>を示す情報が提供されていません。
さらに言えば、観察された影響は健康上の重要性がありません。
これらの研究を別にすれば、血液脳関門への無線周波電磁界の影響に関する証拠は非常に弱いと見なされ
ます。
総括すれば、血液脳関門の透過性に対する無線周波電磁界の影響はないと国際および国内の専門家委員会は考えているとの結論が導かれます。
無線周波電磁界の影響に関するWHOからの新たな詳細にわたる見解は2016年に公表予定です。
**********************
注:2023年3月23日の7アクセスでは、この2016年見解の更新は行われていない。
以下はEMF Portalのサイトにあった情報
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掲載誌: Sci Rep 2017; 7 (1): 15496
タイトル:Effects of GSM and UMTS mobile telephony signals on neuron degeneration and blood-brain barrier permeation in the rat brain.
ラットの脳におけるニューロン変性および血液脳関門の透過性に対するGSMおよびUMTS携帯電話信号の影響
研究者:Poulletier de Gannes F, Masuda H, Billaudel B,
Poque-Haro E, et al;
この研究は、携帯電話の無線周波(RF)信号(GSM-1800およびUMTS-1950)への曝露後のラットの脳における血液脳関門(BBB)の透過性およびニューロン変性を、以下の二つのプロトコルを用いて評価した。
(1) 2時間の単回曝露の直後、1時間後、1、7または50日後にラットを屠殺;
(2) 反復曝露(2時間/日、5日間/週、4週間)、曝露期間終了の直後および50日後に影響を評価。
ラットの頭部を脳平均比吸収率(BASAR)0.026、0.26、2.6、13W/kgで曝露した。
その結果、単回曝露または反復曝露の直後にはBBBの透過性またはニューロン変性に対する悪影響は認められなかったが、例外として0.26W/kgのUMTS曝露では一過性のBBB漏えいが認められた。
反復曝露の50日後のニューロン変性の発生率に変化はなかったが、どちらのRF信号でも13W/kgでアルブミン漏洩の有意な増加が認められた。
この研究では、最も強い遅発影響は13W/kgのGSM-1800によって生じた。
ラットの頭部における13W/kgのBASARはヒトの頭部の4倍に相当することから、ヒトの脳での悪影響は50W/kgを超える反復曝露後に生じ得るかも知れない、と著者らは述べている。
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原著を読む、
以下は暴露条件を示す図で、頭部にのみに電波が曝露するようになっている。
関西医療大学 保健医療学部 鍼灸学科 教授 亀節子の解説論文の中にあったBBBに関する見解
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掲載誌:関西医療大学紀要, Vol. 12, 2018
タイトル:人工電磁波がもたらす健康影響について―電磁過敏症をめぐる諸問題―
研究者:亀 節子 関西医療大学保健医療学部
1)マイクロ波による血液脳関門の破壊
高周波が脳を包む膜を弛緩させることを、Allan H. Frey は1970 年代には発見していた。
その後Salfordは、ラットを用いた実験で915 MHzの電磁波の被爆によって脳内にアルブミンが流入することを確認し、さらに、携帯電話の通話モードの電磁波を2時間暴露させると、大脳皮質や海馬に萎縮した神経細胞が認められたことから、Salfordは、神経細胞の萎縮と血液脳関門障害との関連性に注目した。
こうした実験は、再現性という観点からは未だ不十分な面もあるにしても、マイクロ波によって血液脳関門が障害される可能性が少なくないことを示している。
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記:2023−1−18
以下の記述がある。
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重要な結果ですから、世界中で追試研究などが行われたのです。
日本からは2009年の「増田論文」で否定されて、更に2015年にもラット31匹を使用してSAR値2W/kgでの短時間照射で「相関なし」と否定する「増田論文」が発表されています。
一方で2015年にはSAR値2W/kgで二八日間の長期被曝でラットのBBBに明白な影響を与えているとのタング論文(中国)」が発表されています。
「影響なし」を示す研究は簡単なのです。
実験動物の数を少なくする、「被曝量を弱くする」「照射期間を短くする」ことなどで、統計的に有意な結果が得られなく出来るわけです。
日本の安全宣伝に使用される研究にはこのような研究が多いように私は思っています。
どのような意図なのか」「スポンサーがどこなのか」などにも注目する必要があります。
勿論、今後の研究結果が重要ですが、「安全だとはいい切れない」ことだけは確かであり、今なお重要な現象として関心が高いのです。
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記:2021−10−9
電磁界(100 kHz − 300 GHz)へのばく露の制限に関するガイドライン
国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)2020年に
「BBB血液脳関門」に関しては以下の記述がある。
『高周波電磁界がラットの血液脳関門を通過するアルブミン漏出を誘発するという報告もありましたが(例えば、Nittby et al. 2009)、研究の方法論的限界および結果が独立的に検証されていないため、影響の証拠は依然としてありません。』
これは、BBBへの電磁波影響の研究はあるが、ガイドライン制定の論拠としては、まだ採用できない、という評価になっている、