纏め:2013−7−27 更新:2013−8−5 最終更新:2014−12−21
フランスでは携電話基地局の建設に反対して裁判となり、建設に反対する住民側の勝訴となった・・・・予防原則の適用が裁判で認められた・・・・・という情報が伝わっている。
これらの裁判に関して、入手が可能な範囲で、情報を収集してみた。
第1章:ネットなどで公開されているフランスでの携帯基地局裁判で住民勝訴の事例
「フランス 携帯基地局 裁判」でネットを検索すると以下のような情報がヒットする。
1.電磁波問題市民研究会の会報とサイトに公開
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電磁波研会報・第57号 2009.3.23 発行
フランスでは次々と勝訴判決出る
フランスでは「携帯電話基地局の撤去を求める裁判」で、次々と勝訴判決が出ています。
その中でも、2009年2月4日にベルサイユ高等裁判所で出た判決は、元の判決に続き、住民側を勝訴とする画期的な判決です。
その内容は次ページに詳細に紹介しますが、(1)基地局を撤去すること、(2)撤去しない場合は遅延料として1日につき500ユ−ロ(約6万3200円)を支払うこと、(3)提訴した3組の夫妻に、精神的苦痛の賠償金として、7000ユ−ロ(約88万5千円)を支払うことを命じました。
予防原則への態度が日仏の差
2008年からこれまでに、フランスでは、立て続けに4件の勝訴判決が出ました。
この中の1つは「建設前の差し止め判決」です。
この判決は、フランス司法が予防原則を認め始めたことと関係します。
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同じ号での詳細記事
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フランスの大審裁判所で「基地局撤去と賠償金支払」判決出る
裁判の概要
フランス南部ロ−ヌ地方タシン・ラ・デミリュ−ヌ(Tassin la Demi-Lune)地域に、携帯電話会社「ブイグテレコム社」(Bouygues
Telecom)が、2005年末に高さ19メ−トルの携帯鉄塔を建てました。
これに対し、3組の家族が損害賠償と基地局撤去を求めて、ナンテール巡回裁判所(日本の地方裁判所にあたる)に提訴しました。
この判決は2008年9月18日に出ました。内容は、(1)基地局の撤去、(2)原告3組の家族に合計3000ユ−ロ(約37万9千円)を支払うこと、(3)期限までに撤去しなければ遅延料として1日につき100ユ−ロ(約1万2千円)支払うこと、というものです。
これに対し、ブイグ社がベルサイユ大審裁判所(日本の高等裁判所にあたる)に不服申し立て(上告)しました。
その判決が、2009年2月4日にベルサイユ大審裁判所で出ました。
内容は、(1)基地局を撤去すること、(2)撤去しない場合は遅延料として1日につき500ユ−ロ(約6万3200円)を支払うこと、(3)住民である3組の夫妻に精神的苦痛の賠償金として7000ユ−ロ(約88万5千円)を支払うこと、というのが判決です。
この判決を日本の判決と比べると、その内容の充実さに驚きます。判決はA4版7頁に及びますので、要旨のみを以下に紹介します。
争いの要旨
ブイグ社は、1994年12月に携帯電話ネットワ−ク営業許可を受けました。
当初は第2世代携帯電話である「GSM」としての許可です。
次に、ブイグ社は2002年12月に、第3世代携帯電話である「UMTS」の許可を得ました。
そして、2005年末に、ブイグ社は、ロ−ヌ地方タシン・ラ・デミリュ−ヌ地域に高さ19メ−トルのコンクリ−ト製携帯基地タワ−(基地局)を建てました。樹木の形をしており、カモフラ−ジュしたタイプのものです。基地局は四方2kmをカバーするものです。
これに対し、基地局近くに住む3組の家族(判決では3組の家族は匿名になっている:BEMSJ注:公開されている判決文では原告らの氏名や住所は黒く塗りつぶされ、公開されていない)が、2007年1月18日に、リヨンの行政裁判所にブイグ社を相手に提訴しました。
提訴内容は、(1)基地局撤去、(2)撤去しない場合は遅延金1日につき500ユ−ロ(約6万3千円)支払うこと、(3)生活妨害(BEMSJ注;生活妨害と訳しているが、ニューサンスのこと)と家屋の資産価値下落に対する賠償金を支払うこと、です。
裁判の始まり
ナンテ−ル裁判所は、2008年9月18日に判決を出しました。
内容は、(1)基地局は撤去すること、(2)撤去期限が過ぎたら遅延金1日につき100ユ−ロ(約1万2千円)支払うこと、(3)3組の家族に健康リスク料として、各家族に3000ユ−ロ(約37万9千円)支払うこと、というものです。
ただし、家屋資産価値下落と景観妨害の賠償金として、3組の家族総額3000ユ−ロ(約37万9千円)を支払うこととする要求は却下しました。
健康リスクについて、判決では以下のように述べました。
「(健康リスクに関する)科学的論争はまだ結論は出ていない。
しかし、ブイグ社はリスクがないことを証明していないし、予防原則も尊重していない。
ブイグ社は、二つ行政許可が出ているとしているが、これらは予防原則に十分対応してはいないし、基地局の問題点に関する書類も一つも提出されていない、リスクはたしかにあるし、被告が主張するような仮説ではない。
そうしたリスクに意に反して曝露されることは生活妨害となるし、健康と関連する事実が存在する中で暮らすことは特別の質の生活妨害である。
こうしたリスクを取り除くには、基地局を撤去する以外にない」
ブイグ社の控訴で次の裁判が開始
この第1審判決に対し、ブイグ社は控訴しました。
控訴理由は、「第1審判決は、健康リスクが明確にあるとしているが、これは事実誤認である。
科学的研究は、基地局の近くに住む人へのリスクの仮説は立証していない。
予防原則の必要性を主張する科学者も、基地局に関連するリスクには言及していない。
第1審で取り上げている研究では携帯電話の使用についてのリスクには言及しても、携帯電話基地局のリスクには言及していない。」というものです。
一方、3組の家族側も、基地局撤去の判決は支持するが、生活妨害に対する賠償金は低いため、1家族当たり10000ユ−ロ(約126万円)を支払うこと等の要求で、ブイグ社の控訴に対抗しました。
また、3組の家族側は、携帯電話と基地局ではリスクが違うというブイグ社の主張に同意しないし、数多くの科学文献からすれば健康リスクは今後重大なものになろう、と主張しています。
したがって、現在の公式に制定された基準値ではリスク回避にならないであろうと主張しました。
なお、2006年6月1日に、3組の家族側が依頼して測定した電磁波量は、朝7時から7時45分の間で、0.3〜1.8V/mでした。
大審裁判所が元の判決を支持した理由
こうした経緯を紹介した後で、大審裁判所判決は、以下のように核心部分に言及していきます。
「住民側は特別な生活妨害が起こっていると主張しているが、基地局からの電磁波量は、熱作用を起こすほどのレベルではないことは明白なので、公式に決められた基準値以下だとか、事業活動は法にあっているとか、公衆のための有益性といった理由が、生活妨害になっていないという根拠にはならない、ということになる。」
「電磁波の非熱作用による健康リスクについて、住民側は特に注目している。
スミロ−(Zmirou)報告(注:フランス政府が実施した研究報告)では、熱作用のみが、科学的に立証されたダメージを与える作用だとしつつも、熱作用以下のレベルでも、様々な生物学的影響があるとする科学的デ−タが存在するとしている。
非熱作用に関してよくわかっていないが、そのことが予防原則から導き出される警告を産み出している。」
「さらに、携帯電話の使用に関して、慎重なる回避策が奨励されているが、それとは別に、公衆への電磁波曝露を少なくするとか、子どもや病人のような潜在的にセンシティブな人には、基地局から100メ−トル以内では、アンテナのビ−ムが直接当たらないようにすべきだと、スミロ−報告では勧告している。」
「2001年にICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)に沿って、一つはベーシックな規制が実施されたが、一方議会からの質問によって、政府としても参考値の考えが示された。」
「ICNIRPのガイドラインでは、筋肉刺激や末梢神経やショックや火傷など、電磁波の急性影響が明らかになっているが、一方で、がんリスクなど長期影響の可能性にも言及している。長期影響は科学的データが十分でないが、疫学調査によると、現行のガイドライン値とははるかに低いレベルで発がんとの関係が示唆されている。」
「WHOが2006年6月に出した文書304号では、基地局や無線ネットワ−クからの高周波曝露で健康影響がないと予想しているが、もっと曝露が高まったら健康影響が出るかどうかについて研究が行なわれるべきだ、とアドバイスしている。」
フライブルグ宣言等の警告をどう見る
大審裁判所判決は、さらに以下のように続きます。
「一方で、医師たちから、中継基地局の近くに住んでいる患者で増加している病状を心配して、次のようないくつもの宣言(アピ−ル)が出されている。
2000年のザルツブルグ・アピ−ル、2002年のフライブルグ・アピ−ル、2004年のバンベルグアピ−ル、2005年のヘルシンキ・アピ−ル。」「2006年のベンベヌ−ト決議では次のように宣言している。
極低周波や高周波の電磁波曝露で生物学的影響が起こっている。
動物研究や細胞研究に加えて、疫学研究では一定の極低周波が小児がんリスクを増大させることが示されているし、子供同様に大人に対しても、がん以外の健康問題を引き起こしていることが示されている。
政府は、すでにいくつかの国で実施されているような予防原則に基づいた、一般人と職業人を扱った勧告の枠組みを採用すべきだ。」
バイオイニシアティブ報告にも言及
「2007年8月31日に出されたバイオイニシアティブ報告は、大学や研究機関のメンバ−によって書かれた。
その報告では、ICNIRPが決めた基準では人々に健康の保護には不十分であり、電磁波の健康影響はまだ完全にはわかっていないが、リスクマネジメントのための方策をとるには十分な科学的知識が現在でもある、としている。」
「ICNIRPの基準では頼りにならないとして、いくつかの国では別の基準を採用している。0.6V/m採用のオ−ストリア、リヒテンシュタイン、イタリア、ポ−ランド、ロシア、中国、4V/m採用のスイス、3V/m採用のルクセンブルグがある。また、建物の周囲に禁止ゾ−ンを設定している。」
以上の理由づけから、ベルサイユ大審裁判所は、(1)基地局撤去、(2)撤去しない場合は遅延料を1日につき500ユ−ロを支払う、(3)3組の家族に賠償金として7000ユ−ロを支払う、との判決を出しました。
アンジェ市では設置前基地局中止判決
フランスで2008年9月のナンテ−ル判決以後、立て続けに3件の基地局撤去の判決が出ました。
さらに、フランス西部のアンジェ(Angers)市(BEMSJ注:アンジェ市に建設された基地局の紛争ではなく、アンジェ市の地不裁判所で裁判が行われた)で、教会鐘楼に携帯基地局を建てようとする計画に住民が反対し、提訴しました。
この基地局予定地の近くに小学校がありますが、その保護者たちを中心に反対運動が起こったのです。
その判決が2009年3月5日にあり、健康不安を訴えた住民側を支持し、建設差し止めの内容が出ました。
このアンジェ市の判決は、建設前に出た判決であり、フランスで初の快挙です。
携帯会社のオレンジ社は大手の携帯会社ですので、この判決の影響は少なくありません。
「学校はセンシティブな建物なので、予防原則がふさわしい」と判決は述べました。
この道理が、日本でも普通になるように、みんなで力をあわせましょう。
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2.フランスのナンテール地裁判決文(和文)の公開
http://denziha.net/shiryou/080918.html にあった
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2008/9/18
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フランス・ナンテール大審裁判所(地裁)判決
携帯電話事業者に対し、携帯電話中継基地局の撤去等を命じる
情報源 TRIBUNAL DE GRANDE
INSTANCE DE NANTERRE 8ème chambre JUGEMENT RENDU LE 18 Septembre 2008
翻訳 匿名希望
ナンテール大審裁判所第8部 2008年9月18日判決 第07/02173号
エリック・ラグージュ他5名対ブイグテレコム社事件
(以下 略)
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3.フランスの裁判状況を調査にフランスに出張した弁護士中村多美子の報告
2005年新潟地裁で「遺伝子組み換えイネ野外実験栽培差し止め等請求事件」の裁判があった。
この資料は、その控訴審(高裁での審議)に証拠として、フランスでは予防原則が認められたという事例として、提出されたもの。
この裁判の原告らによって、詳細な資料がネットに公開されていた。
http://ine-saiban.com/saiban/siryo/X/kou119Nakamura.pdfからの引用
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予防原則の適用を認めたフランスの2つの判決( 甲118)について
控訴人復代理人 弁護士 中村多美子
1、事件の概要
フランスで、携帯電話基地局を操業する会社に対し、基地局に住む住民が、間接強制付きで基地局の撤去と自宅の資産価値の低下を理由とする損害賠償を求めた事案。
2、判決の内容
(1)ナンテール大審裁判所判決
中継塔から放射される電磁波による健康リスクに関する科学的議論は、なお開かれているとしながらも、損害そのものとは区別されるリスクは確かである。
リスクが存在する場合に、予防原則の適用を国内外の当局が推奨している。
会社は、リスクの不存在も予防原則を遵守していることも立証していない。
隣人をその意思に反して予防措置なく健康上の確実なリスクにさらすことは、「異常近隣妨害」に該当し、これを除去するには中継塔の撤去を認めるほかないとして、原告の請求を認容。
(2)ベルサイユ高等裁判所判決
大審裁判所で確実とされた健康に関するリスクが、現実の損害になるかどうかは以前不確実であるとしながらも、電磁波の無害性に関する不確実性は残存し、この不確実性は根拠のある合理的なものである。
一方で、会社は技術的に実施可能であり、一部市町村との間で約束した回避措置(フランスの現行基準を下回る放射基準の設定、基地局を居住地区から遠ざける)を実施していない。
この状況では、住民側が、基地局による健康リスクの不在の保証を得ることはできず、異常近隣妨害の構成要件である「正当な危惧」を抱くのが順当として、原審である大審裁判所を上回る金額の間接強制・損害賠償を容認しつつ撤去を命じた。
3、解説
当職は、2009年6月26日、パリのRichard
Forget(フォルジェ)弁護士の事務所を訪問し、同弁護士と面談しました。
フォルジェ弁護士は、ナンテール裁判所とベルサイユ控訴院において、携帯電話中継塔の差し止めを認める民事裁判の判決を得た原告側弁護士です。
当職は、同弁護士に対し、これらの判決が、いわゆる予防原則(Precautionary Principle)によって定められた特別な実体法に基づくものであるのかどうか尋ねました。
同弁護士は、予防原則によって差し止めを認めるような特別な実定法はないとした上で、本件の差し止めは、フランスの民法に従前から存在する概念である「異常近隣妨害」によって認められたものであると言いました。
この「異常近隣妨害」とは、当職が聞く限り、日本の民法に言う「受忍限度論」に非常に近いものであると思われました。
フォルジェ弁護士によれば、予防原則が何らかの法的効果を直接に導くような実定法があるのではなく、従前から存在する民法を含む各種実体法の解釈指針となっているとのことでした。
また、本差止判決の対象となった基地局には、何らか一般化できない特別な事情があるのかどうかについても尋ねましたが、そのような事情はなく、本差止判決は全ての携帯電話中継塔一般に適用可能であるとのことでした。(実際、その後もフランスでは、同種の判決が続いています。)
本差止判決の背景についてお尋ねしましたところ、フォルジェ弁護士は、こうした問題の解決は、科学至上主義ではできないということを主張していました。
すなわち、科学が未知や不確実を含んでいる中で、科学的知見についてのコンセンサスが得られない場合に、「法」としてどうするのか、という問題であると。
社会が壊れるようなリスクがあっても、科学のコンセンサスが形成されるまで待つのか、何らかの予防的な措置を要求するのか、それを決めるのが法の役割ではないか、その中で、本件判決は、現状認められているリスクは、アクセプトできないと判断したものである、と評価していました。
以上
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第2章 フランスの裁判の概況
一般的には、以下の4つの判決が「フランスにおける携帯電話基地局反対に関する住民勝訴の判決」とされている。
*ナンテール地裁判決(以下、この案件を「ナンテール判決」と記述する)
フランス南部リオンの郊外にあるTassin la Demi-Luneの町(人口2万人程度)に建設されたブイグテレコム社の基地局に関して、近隣に住む住民が、基地局撤去などを訴えて、ナンテール(パリの郊外にある町)にある裁判所に提訴した。
争点は異常なニューサンス(異常な近隣妨害)である。
2008年9月18日に「住民勝訴」の判決が下った。
*ベルサイユ高裁判決(以下、この案件を「ベルサイユ判決」と記述する)
ナンテール判決を不服として、被告ブイグテレコム社が控訴した高裁判決。
争点は異常なニューサンス(異常な近隣妨害)である。
2009年2月4日に「住民勝訴」の判決が下った。
上図は、2013年7月24日のフランス携帯基地局マップで「Tassin
la Demi-Lune」を検索した結果。
多数の携帯電話基地局が建設されている。紛争の基地局の住所が判らないので、これ以上の調査はできない。
*カルペントラス裁判(以下、この案件は「カルペントラス裁判」と記述する。)
Chateauneuf du Papeの町(ワインの産地、人口2000人程度)に建設されたSFR社の携帯基地局に関して、近隣に住む住民らが、基地局撤去などを訴えた裁判で、カルペントラス地裁に提訴。
争点は異常なニューサンス(異常な近隣妨害)である。
2009年2月16日に「住民勝訴」の判決が下った。
被告のSFR社は控訴した、詳細は不詳である。高裁判決に関しては情報未入手。
NEXT-UPのサイトにあった紛争になった携帯電話基地局の写真
View of
the SFR relay antenna pylon: edge of Châteauneuf-du-Pape on the D192, route de
Bédarrides.
上図は、2013年7月24日のフランス携帯基地局マップで「hâteauneuf-du-Pape」を検索した結果。
マーカーで示した箇所が紛争の携帯電話基地局で、場所が特定できた。
基地局情報も以下のように公開されている。
Station
431613 |
|
Identification
de la station |
|
N°
Identification |
431613 |
Exploitant |
SFR |
Adresse |
LA GRENADE(BEMSJ注:裁判でもめた地域名) |
Code
Postal / Commune |
84230
CHATEAUNEUF-DU-PAPE |
Accord
ANFR pour l'implantation |
02/02/2007 2007年2月2日 |
こうした基地局マップDBの情報から、当該の基地局は地裁判決で「建設反対・稼働停止・基地局の撤去」等が認められたが、その以降の高裁判決などで逆転して、基地局の稼働が認められたとみることができる?
*アンジェ裁判(以下、この案件は「アンジェ裁判」と記述する)
NOTRE DANE D’ALLENCONの村(人口500人程度)に建設されようと計画したオレンジ社の携帯基地局建設に対して、村の当局は建設許可を与えたが、住民が建設反対で、アンジェの地方裁判所に提訴。
争点は「予防原則」である。
反対運動する住民らのWEBサイトが開設されている。
2009年3月5日に「住民勝訴」判決が下った。
被告のオレンジ社は地裁判決を不服として高裁に控訴。
2010年2月24日 高裁判決がでて、2009年3月5日の地裁判決はキャンセルされた。(住民の逆転敗訴?)詳細は不詳。
2011年12月現在の情報として、最高裁に持ち込まれ、最高裁では「判例から外れる裁判」と判定された。判例を変更するか否かを決める更に上位の判例裁判とでもいう高位の裁判所Tribunal des Conflictsで審理中。詳細は不詳
上図は、2013年7月24日のフランス携帯基地局マップで「NOTRE
DANE D’ALLENCON」を検索した結果。
場所が特定できた(大きな教会がある)、マーカーで示した箇所が紛争の携帯電話基地局である。
基地局情報も以下のように公開されている。
Identification
de la station |
|
N°
Identification |
606787 |
Exploitant |
ORANGE |
Adresse |
R ST
ELOI PL DE L'EGLISE EGLISE |
Code
Postal / Commune |
49380
NOTRE-DAME-D'ALLENCON |
Accord
ANFR pour l'implantation |
02/10/2009 2009年10月2日 |
こうした基地局マップDBの情報から、当該の基地局は地裁判決で「建設反対・建設禁止」等が認められたが、その以降の高裁判決などで逆転して、基地局の稼働が認められたとみることができる?
注:BEMSJはこのアンジェの住民らのサイトに記載されていた連絡先に
・英文での電子メール を入れたが、何も返信が無いので
・機会翻訳で、フランス語も併記して、 英文・仏文での電子メールを入れたが、これにも返信はありません。
・さらにサイトに記載された連絡先の郵便住所に航空便で、問い合わせを行いましたが、これにも、まったく音信がありません。
どうなっているのでしょうか?
第3章 各裁判の判決文
1.ナンテールの地裁裁判の判決文
・判決のフランス語文は画像ファイル・テキストファイルとしてネットに公開されている。
・判決文の和訳版は、優れた法律家による和訳として、「九州裁判よりの情報提供」として入手したので、以下に転記する。
*************** 判決の和訳版 ***************
2008/9/18
フランス・ナンテール大審裁判所(地裁)判決
携帯電話事業者に対し、携帯電話中継基地局の撤去等を命じる
情報源 TRIBUNAL DE GRANDE INSTANCE DE
NANTERRE 8ème chambre JUGEMENT RENDU LE 18 Septembre 2008
翻訳 匿名希望
※編注:本判決後、携帯電話事業者(ブイグテレコム社)が控訴したが、ベルサイユ高等裁判所は2009年2月4日、各夫妻へ7000ユーロの支払いと、基地局の撤去などを命じた(情報源フランス語 英語)。
ナンテール大審裁判所第8部 2008年9月18日判決 第07/02173号
エリック・ラグージュ他5名対ブイグテレコム社事件
当事者名及び代理人名の表示(省略)
裁判所の構成及び口頭弁論期日の表示(省略)
事 案
事実
被告ブイグテレコム株式会社は2006年、ローヌ県タサン・ラ・ドゥミリューヌ町所在の原告らの住居に隣接し、樹木の形状をした高さ19メートルの塔上に携帯電話用中継アンテナ(本件設備)を設置した。
当事者の主張
2007年1月18日に被告に召喚状が送達された後、2008年1月11日に裁判所書記課に提出した最終申立書において、原告らは当裁判所に対し以下の請求を行った。
被告に対し、遅延1日当たり500ユーロの罰金強制(アストラント(astreinte))の下で、本件設備の撤去を命じること。
被告に対し、異常な近隣妨害(trouble
anormal de voisinage)に基づき、以下の金額の支払いを命じること。
原告ラグージュ夫妻に対し、同人らの住宅の価値下落に対する損害賠償として20,000ユーロ、及び健康上のリスクにさらされたことに対する損害賠償として10,000ユーロ。
原告ラアロット夫妻に対し、同人らの住宅の価値下落に対する損害賠償として10,000ユーロ、及び健康上のリスクにさらされたことに対する損害賠償として10,000ユーロ。
原告グラヴィエ夫妻に対し、同人らの住宅の価値下落に対する損害賠償として10,000ユーロ、及び健康上のリスクにさらされたことに対する損害賠償として10,000ユーロ。
原告らは、その請求の根拠として、主として異常な近隣妨害の理論に依拠して主張を行っている。
すなわち、本件アンテナの存在は、健康上のリスクにさらされること、及び、視界障害(trouble visuel)による用益障害の存在が資産価値の喪失をもたらすことという2点において損害を与える障害(trouble dommageable)に該当するとした。
2008年2月27日に提出された申立書において、被告は当裁判所に対し、以下の請求を行った。
被告の設備は近隣妨害に該当しないとの判断を行うこと。
したがって、原告らの請求をすべて棄却すること。
被告の主たる主張は以下の通りである。
原告らは、いかなる種類のいかなる病理(pathologie)をも訴えていないこと。
原告らは、健康に対するリスクの存在を何ら立証していないこと。
破毀院は、純然たる仮定的な損害(préjudice purement éventuel)を考慮することを拒否していること。
携帯電話の中継装置に関しては、眺望権(droit à la vue)は存在しないことが多くの判決で言及されていること。
当裁判所は、当事者の理由付けのより詳細な提示を後の記述に譲ることとする。
判決 理由
健康上のリスクについて
健康上のリスクについては、原告は以下のように主張している。
携帯電話と中継アンテナとは、同様の技術によって機能しているものの、根本的な差異が存在する。
すなわち、携帯電話の使用によって、その通話時間、電波の放射場にさらされることは、使用者の選択に係る行為であるのに対し、中継アンテナの近隣住人がアンテナの放射場にさらされることは選択の結果ではなく、1日24時間、週7日間、恒常的に蒙ることである。
400以上の国際的な研究において、携帯電話の使用者及び中継アンテナの近隣住民の健康に対するリスクが明らかにされている。
多くの医師が、中継アンテナの近隣住民である彼らの患者の中に発生した病理に対して懸念を表明している。
被告の主張する文献は今日では時代遅れであり、誤りである。というのは、世界保健機関(WHO)の委託によるインターフォン研究の初期段階での総括では、危険があるという結論であったことから、科学者の立場は公式見解レベルにおいても変化したからである。
今や、フランスの当局も予防原則の適用を推奨している。
保険会社は、電磁波による健康リスク、したがって中継アンテナや携帯電話による健康リスクをカバーすることを拒否している。
下院では、中継アンテナ設備を規制するための議員提出法案が何度も提出されている。
現在でも効力のあるフランスの法規範が現に遵守されているということは重要ではない。
なぜなら、異常な近隣妨害に関する確立した判例によれば、異常な近隣妨害は法規範への違反に依存するものではないからである。
被告は次のように主張した。
本件訴訟は、いうところの健康リスクの存在に関する結論の先取りに帰着する。そのようなリスクの存在は科学的な研究によって常に否定されている。
原告らは、携帯電話に関する研究と、本件の対照である中継局に関する研究とを混同している。
電話技術と中継局の技術が同様であるという事実は、両装置の条件の違いから、これらから放出される電波エネルギーが全く比較にならない以上、全く意味のないものである。
基地局から受ける電波エネルギーは、近隣の局からのものであっても、携帯電話の利用の際に受けるエネルギーと比較して、後者の場合には利用者の頭部にアンテナが接近していることから、かなり弱いものである。
司法裁判所は、累次に渡り、本件の対象と同様のタイプの中継局が発射する電波は異常な近隣妨害には該当し得ないと判断している。
トゥーロンの裁判所が2006年3月20日に採用した、仮定的なリスク(risque hypothétique)の存在を認める解決策は、唯一かつ未確定のものであるが、民事責任法のもっとも基本的な諸原則に反しており、法的に受け入れ可能な先例には該当し得ない。
このように、当事者は国内外の多くの答申、研究又は分析を引用するが、それらの解釈は少なくとも対照的である。
裁判所が依拠しうるのは弁論に提出された文書だけであるが、それらによる結論として確実なことは、科学的な議論は依然開かれており、当事者に各自の視点を提示することを許すものであるということである。
それらから認めうるもう1つの結論は、ある者からは確認され、他の者からは疑われる健康障害が、損害(この損害と中継アンテナの近接性との関係はなお立証を要する)に該当するとしても、障害そのものからは区別される障害のリスクは確かなものであるということである。
というのは、この問題に関して権限を有する国内外の当局が、予防原則の適用を推奨していることに争いはないからである。
この点、被告は本件において、リスクが存在しないことも、何らかの予防原則を遵守したことも立証していない。
というのは、その立証としては不十分な2件の行政決定を提出したほかには、提出された文書のいかなるものも、本件設備に特に関わるものではないからである。
ところで、隣人をその意思に反して、防御方法として主張されているような仮定的なものではない、確実なリスクにさらすことは、それ自体近隣妨害に該当する。その異常性は、人の健康に関わるという事実に由来する。
このリスクが健康障害の顕在化によって具体化されることは、障害の重大さに応じて異なった法的な性質決定(qualification)の対象となる別個の障害に該当するだろうが、原告らは何らの病理も主張していないのであるから、これは本件の対象外である。
弁論に特別な文書が提出されていないことからすれば、本件においてリスクを除去することが可能なのは、設備の撤去による以外にない。
原告らの蒙った損害は、1組当たり3,000ユーロの損害賠償によって補填される。
合理的な期間内における本件撤去の実効的な執行を確保するために、1日あたりの罰金強制及び仮執行が付される。
視界障害について
本件においては、原告らの弁論一件書類の中に、視界に関する原告らの損害を証明するものとしては、4葉の写真の質の悪い白黒コピー(原稿らの申立書に添付されていないが、当裁判所に提出はされたリストの文書41号)、及び2004年6月の町長による〔本件塔の建設〕工事の告示に対する異議申立に係る決定、とりわけ「一件書類に加えられた文書からは、近隣の風景の一体性について、及び住居や既存の植栽に対する影響について判断することはできない」という記載しか存在しない。
被告の強調するところによれば、原告らは「本件樹木が人工物であることに単なる通行人は気づかないかもしれないことを強調しているのであるから、このような一体化の努力を真に問題にしているわけではなく、また、「原告らがその請求の根拠として提出する写真は、塔の擬装技術が優れていることを示している」のであり、「原告らは、樹木の形状をした塔が見えるということだけを以って異常な近隣妨害との性格づけが可能だと主張し、専ら結論先取りをこととしている」という。
実際のところ、複製の質の悪さ及び撮影アングルからは、本件設備を擬装する「樹木」の人工性を識別することはできないし、この樹木が風景(すぐ近接して、少なくとも2方向に同様の高さの樹木が存在する)の中で奇異な印象を与えることもない。
したがって、視界障害は明らかではなく、まして、異常性は認められない。この点に関する共同原告ラグージュ夫妻の請求は棄却される。
住宅の価値下落について
視界障害の不存在及び本件設備の撤去により、原告が主張する住宅の価値下落には根拠がない。
したがって、この点に関する原告らの請求は棄却される。
訴訟費用について
当裁判所は原告らの請求を一部ではあるが認容するので、被告には訴訟費用の支払いを命じる。
訴訟費用に含まれない費用について
さらに、訴訟費用には含まれないが主張された費用として、原告らに対して3,000ユーロを支払うことを命じるのが衡平に適うと思料される。
以上の理由により、
当裁判所は、
本判決の被告への送達日の翌日から起算して4ヶ月経過後より1日当たり100ユーロの罰金強制の下、本件送受信設備の撤去を被告に命じ、
健康リスクにさらされたことに対する損害賠償として、被告に対し、原告ら1組あたり3,000ユーロの支払いを命じ、
住宅の価値下落及び視界障害に関する原告らの請求を棄却し、
被告に訴訟費用の支払いを命じ、
民事訴訟法典第700条に基づき、原告らに対する3,000ユーロの支払を被告に命じ、
訴訟費用の点を除き、本判決の仮執行を命じる。
2008年9月18日、ナンテールにて判決。
書記官及び裁判官の署名(省略)
起案者名(省略)
********************
BEMSJコメント:この判決文を読んでの感想。
リスクがないことを被告は証明することはできない、なぜならば、世の中にゼロリスクは存在しないからである。
フランスの判例では法律に適合しているとしても、ニューサンスが認められている。すなわち、国の防護指針に適合しているとしても、フランスの判例では、ニューサンスが認められている ということが、この判決文からも判ることである。これは重要なポイントで、日本の裁判制度や判例とたぶん、大きく異なる点であろう。
被告は、国の電波防護指針などに適合しているから問題ない という趣旨のことしか主張していないのではないか、詳しくはこの裁判に提出された全ての証拠書類を読まなければならないが。
もし、被告が、「国の電波防指針に適合するだけではなく、電波の強さは通信が可能な範囲でできるだけ低くしている」と言った「できるだけ低くしている」という主張を行っていれば、それは「被告はなんらかの予防原則を適用している」と判定され、被告の勝訴になったのではないだろうか。
いずれにしても、この判決文は「できる範囲での予防原則も実施していないのであるから、原告のいうニューサンスに該当する」という判定を下したものと言える。
2.ベルサイユ判決
ベルサイユ判決のフランス語のTEXTファイルは公開されている。
同じく英文版のTEXTファイルも公開されている。
日本語訳版は、「九州裁判よりの情報提供」として入手したが、日本語として判りにくい個所が随所にあった。
そこで、英文版判決文を読みながら、BERMSJが修正した。
「九州裁判からの情報提供を基に、BEMSJが修正」版として、以下に転記する。
************************
<BEMSJ注:この和訳は判決文の全文ではなく、部分である。
以下は 「事実と手続」の項の後半の部分 >
ブイグテレコム社はこの判決に対し控訴した。
ブイグテレコム社は2008年11月21日付けの命令(BEMSJ注:オルドナンス:フランスの裁判における独特な制度、正確な和訳はない。ここでは判り易く「命令」と訳した)により、2009年1月7日の法廷に共同当事者○○、○○および○○を指定期日召喚することを許可された。
同社は、研究結果は基地局の近隣住民に対するリスクの仮説を退けるものであり、また研究者が予防原則に言及する場合でも中継局については、リスクは存在しないと明言しているのにもかかわらず、健康への確実なリスクの存在が確立されていると見なすことにより事実の錯誤を犯したとして判決を不満とする。
ブイグテレコム社は第一審の裁判官が典拠とした研究は異論の余地があり、実際に異議が唱えられているだけでなく、本係争の対象である中継局ではなく携帯電話の使用に関するものであるため無効であるとする。
ブイグテレコム社は、原告が何ら疾患を訴えていないのにもかかわらず、裁判所はリスクがないことを立証するための文書を同社が提出していないと判断することによって立証責任を逆転したとする。
ブイグテレコム社は、被控訴人が言及するリスクはこの場合には仮説的なものでしかないので、このリスクは異常近隣妨害の理論の範囲内で賠償されうる損害であるとは解釈できずないと主張する。
ブイグテレコム社は、障害(危険)が実現するか否かに関しては、損害そのもののみならず、この損害とブイグテレコム社の業務活動との間の因果関係にも、不確実性があると指摘する。
BEMSJ注:「障害(危険)が実現」と言う箇所は、フランス語直訳では「リスクの実現」である。リスクは「危険の可能性」とか「危険の確率」という意味であるので、「リスクが実現する」という表現はおかしい。
フランス語では英語のRiskとHazardの違いを区別していないのではないか? 共に翻訳するとrisqueというフランス語が出てくる。
Riskはリスクと表記し、Hazardは障害もしくは危険と表記されて区別されるのが英語の世界。
二つの意味をフランス語では使い分けていないので、以下ではフランス語のRisqueを前後の意味から、「リスクRisk」、「障害(危険) Hazard」のいずれかであるかを想像して、使い分けて翻訳してみる。
このためブイグテレコム社は控訴院に対し、当該判決を取り消し、新たな判決により同社に対して命じられた有責の判定を免じ、共同当事者○○、○○および○○のすべての請求を棄却すること、ならびに共同当事者に対し民事訴訟法典第700条の規定により同社に対しそれぞれ1000ユーロずつ、および裁判費用を支払うよう命じることを求める。
***
被控訴人たる○○夫妻、○○夫妻および○○夫妻は、施設の解体を命ずる判決の支持を申し立て、付帯控訴により罰金強制が遅延1日あたり500ユーロとされ、ブイグテレコム社が健康に対するリスクへの曝露による過去の損害の賠償のために異常近隣妨害として1万ユーロを○○夫妻、○○夫妻および○○夫妻に支払うこと、また民事訴訟法典第700条により合計額7500ユーロを原告団に支払うことを命じられることを要請する。
被控訴人は、近隣人に異常な妨害を行う者に責任があることの確認は、過失の立証ではなく、原告が経験した異常な近隣妨害が存在することの立証が条件となるとする。
本件においては、基地局の設備が居住家屋に極めて近くに設置されていることにより、被控訴人は自らおよびその子が、安寧な生活が乱されることになる健康リスクに曝されており、これは危険物の排除と被った害の賠償により弁償されなければならないと主張する。
被控訴人は携帯電話の無害性は確立されるにはほど遠く、携帯電話に関連する電磁波の影響を巡る科学的な論争により、被控訴人が中継アンテナと隣接し、かつ中継アンテナから発信される電波が最も強い主ビーム方向に居住することから生み出される不安感が増幅されるとする。
これはリスクが健康に対するものであり、また原告が知る国内外の多くの研究結果により、携帯電話のような電磁波への曝露に起因する疾病がガンなど極めて深刻なものでありうることが導き出されるからである。
コメント:「中継アンテナから発信される電波が最も強い主ビーム方向に居住すること」のフランス語直訳は「放射束内に居住すること」である。
この直訳の表現は、一般の人や裁判官には判りにくい。
この部分の原文は、英文にある「Beam in
thier direction」という単語であろう。
携帯電話基地局アンテナは、担当するサービスエリア内ではほぼ均等な電波強度になるように、垂直方向に指向性を設けている。
例として、アンテナの水平位置から角度で0度から俯角10度程度の角度にもっとも強く電波を発信する。
これを「主ビーム方向への放射」と言う。
したがって、基地局アンテナの高さと同じか、少し低い高さに住居があれば、強い電波を受ける。
俯角が10度から90度の方向には、電波は弱く出す。弱く出すが地上までの伝搬距離が短いので、電波の減衰が少なく、適切な電波強度になる。
この裁判で問題になっている基地局は19mの高さに有る。基地局の周囲で高層マンションがあって、住居が地上高さ15mから18mであれば、強い電波に曝露する。2階建て程度の住居であれば、基地局に近接していても、強度の大きい電波への曝露にはならない。
原告らの住居がこの主ビーム方向に有るか否かは、この判決文だけでは判らない。
被控訴人らは、電磁波曝露に関して国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が1998年に提案し、欧州連合理事会が1999年7月2日に勧告1999/519/CEによって採用したものに従って、2002年5月3日付政令(Dicret)第2002-775号により定められた諸基準につき、その制定後に公表された数多くの科学的調査報告に準拠しつつ、それらの基準は時代遅れのものであり、かつ、それらは明白に確立した影響に関してのみに基づいて定められたものであること、そして予防原則は科学的不確実性が残存する場合にのみ適用されるものであるが故に、本件に関しては適用されないとのブイグテレコム社の主張に対して、反論する。
このことにより被控訴人は規定制限値の遵守のみでは、特に電磁場の非熱効果により生じるリスクを除外することはできないとする。
被控訴人は携帯電話から発される波動と中継局から発される波動の間の区別は適切ではないとし、中継局は極超長波(ELF)のマイクロ波を発すること、またこれにより世界保健機関(WHO)の分類で2Bに位置づけられ、このカテゴリーは「ヒトにとって発癌性的性格を持ちうる」ものであるため、その潜在的有害性は認知されているとする。
BEMSJコメント:中継基地局からはELFの電磁波・電波の発信はない。
携帯電話基地局アンテナからは50Hzと言ったELF周波数帯域の電波(電磁波)は発信することはできない。
よって、50Hzなどの低周波電磁界に関する発がん性判定2Bを利用して、この裁判の論を進めることは明らかな誤りである。
原告ら及び原告らを支援・支持している電磁波関連の専門家の見識が疑われる。
被控訴人は新規基準の設定の緊急性を訴える医師の呼びかけの一部に含まれている勧告や、フランスが採択している基準より低い基準値を複数の欧州連合加盟国が採択しているという事実、それにパリやブザンソンなど一部の市町村が、政令が採択している基準値より大幅に低い基準値を設定しているという事実に触れる。
被控訴人は近隣における中継アンテナの存在により強いられている状況は、各人が「均衡が取れ健康に配慮した環境の中に生きる」権利を侵害するものであり、民事責任の予防力は環境法においても、また被用者の就労拒否権を保証する労働法でも、また不正競争の分野においても異議が唱えられておらず、この民事責任の予防力により「将来及ぼす損害のリスクに応じてある行動に制裁を科すこと」ができるはずであると考える。
被控訴人は加えて、障害(危険)が具現化するまでの待機期間を強いることは、異常なまたは違法なリスクの恒常化を伴いうるものであり、犠牲者に結果として最後に起こる結末を我慢させることになると主張する。
被控訴人は、障害(危険)の実現は仮説的なものであるものの、その存在の確実性は科学的議論によって評価されるものであり、また犠牲者に補償の対象となる精神的損害を及ぼすのに十分であるとする。
被控訴人は健康に対するリスクへの曝露による損害、個人的状況を損ねる性格の精神的損害、および中継アンテナが自らの所有地の隣の所有地に存在することにより引き起こされる不動産の価値低下により生じ、特に共同当事者○○の不動産の価値を低めることにつながった財産的損害に対する補償を要求する。
判決理由
2008年11月19日にブイグテレコム社により控訴された判決が08-8775号として登録されたこと、この後08-9058号として登録された2008年11月27日の召喚の交付と提出に至った指定期日の召喚が許可されたこと、
単一かつ同一の法廷であることに鑑み、08-9058号および08-8775号として登録された書類の結合を命ずるべきであること、
当該施設が2002年5月3日政令により定められた基準値の遵守のもとに運転されていること、○○夫妻の要請によりピエール・ルリュズ博士によって2006年6月1日に行われた点検が、19時から19時45分の間の1メートルあたりのボルト数(V/m)で表された電場の実効値(RMS)が0.3V/mから1.8V/mであったことを示していること、
BEMSJコメント:電波強度が最大でも1.8V/m程度であるならば、この程度の電波強度は、もしかしてテレビ塔からの近隣におけるテレビ電波強度、ラジオ放送局に近接する地域におけるラジオ放送電波強度と同順かもしれない。
タサン・ラ・ドゥミリューヌ町に設置されたアンテナに最も近いところに生活する被控訴人が、電磁波の熱効果によるリスクには曝されていないこと、
異常近隣妨害が主張されており、基準の遵守、事業の合法性、事業の共同体への有益性のみでは妨害の存在を除外するのには不十分であること、
第一審の原告は電磁波の非熱効果への曝露、特に極超長波(ELF)と呼ばれる短い間隔で非連続的に発される周波数を含む波動への曝露による健康へのリスクに特に触れていること、
BEMSJコメント:前述と同じ、これは原告らの電磁波に関する明らかな誤りである。
2004年6月11日の国務院政令によると、2001年に政府に提出された報告書は、現在の科学的知見では電磁波が公衆衛生にとって危険な非熱効果を有することは確立されていないとしていること、
この言及される報告書(ZMIROU報告書)は、
・電波の周波数帯でその「健康に対する有害な影響が唯一」科学的に確立されているのは、「発熱による一定の影響」のみであること
・現在の科学的データによると、エネルギーのレベルにより温度の上昇を伴わない様々な生物学的影響が存在すること、
・これらの非熱効果に関する知見の欠如により、健康に対する影響が特定されえないこと、この健康に対するリスクについては実証がまだなされておらず、その減少または排除を保証する新たな値を定めることができないこと、
を考慮し、
同報告書は、健康リスクの仮説は確認されていないことを強く強調しながら、予防原則による特定の警告に関してまとめている。
すなわちこの報告書は携帯電話の使用に関する慎重な回避策の他に、一般市民の曝露レベルを最低限に抑えるという目標を追求し、特に子供と病人という潜在的に敏感な人々が、100メートル以内に位置する局から来る中継アンテナから発信される電波が最も強い主ビーム方向に居住することによる影響を直接受けないようにすることを提言していること、
BEMSJコメント:前述したように、携帯電話の基地局からの主ビーム放射方向では、強い電波曝露となる。十分に距離が離れていれば、弱くなる。
ツミル報告書では、100m以内の近距離で、アンテナからの主ビームの放射範囲に子供や病人が曝露しないように、喚起しているものと思われる。
この裁判の原告らの住居がこのツミル報告で喚起している条件にあてはまるのか? この判決文を読んだだけでは判らない。
2001年に刊行された国際非電離放射線保護委員会による電場、磁場および電磁場への曝露の制限値確定のためのガイドラインは、すべての関係者が典拠とするものであり、また中継局の近隣住民の健康へのリスクの曝露に関する国会議員の質問に対する大多数の政府回答にて言及されているものであるが、このガイドラインは「基本制限:明らかになっている健康への影響から直接的に確立された、電場、磁場および電磁場への曝露の制限値」、およびその「遵守が基本制限の遵守を保証」する「基準レベル」という2つの制限値のカテゴリーが提示されているとしていること、
このガイドラインでは「筋肉や末梢神経の興奮、伝導体との接触による衝撃や火傷、またはエネルギー吸収の影響による組織の温度上昇などの健康への急性影響のみを根拠としている」ことを明らかにしていること、
ガイドラインが「癌のリスクの増大などの長期的な影響について」は、「国際非電離放射線保護委員会は科学的データが曝露制限値の確立の根拠とするには不十分であると結論」づけながらも、「疫学研究により50/60Hzの場について本ガイドラインで勧告される値を大きく下回る磁束の密度への曝露と発癌性効果との間に、連関性の存在を訴える材料が出されている」ことに言及していること、
研究結果の欠如によりまだ立証されていない潜在的リスクに備えることを目的として2001年に出された勧告は、電磁波の非熱効果の存在に関する議論を完全にオープンなものとし、また2002年の政令は「科学的に確立された」健康への悪影響、すなわち無線周波数帯における「発熱による一定の影響」を避けるための拘束的措置を定めていること、
これ以降(この期間は携帯電話の飛躍的増加との関係で測られるべきである)、規制により国土全域をカバーすることを課された競争事業者の倍数分の中継局が、国土全域および最も人里離れた場所に次々と建設されていることに鑑み、2003年および2005年にフランス環境衛生安全公社により複数の科学研究の諮問に基づいた2つの意見が出され、2003年のものは「健康に対する何らかの影響を基地局に帰するのは不可能である」という結論を出し、2005年のものは「前回の監査報告書以降に発表された科学データはいずれも、携帯電話の基地局から発せられる放射線による健康へのリスクを明らかにするものではない」と述べていること、
これらの意見の相対的妥当性は、2005年12月に社会問題監督局が行った指摘に基づく、フランス環境衛生安全公社の科学作業方法の評価に照らして評価されるべきであること、
世界保健機関が2006年5月に発表した基地局の影響に関するファクト・シート第304号(書類第21号)が、「曝露が非常に低いレベルであるという事実および現在まで得られた研究作業結果を考慮すると、基地局および無線網の健康に対する悪影響を確認する確かな科学的要素は存在しない」としながらも、「基地局および無線網の無線周波数場への曝露が健康に対し何ら影響を与えないことを予期することはできるが、それにもかかわらず世界保健機関は携帯電話の無線周波数へのより強度な曝露が健康に影響を及ぼしうるかどうかを見極めるための研究の実施を勧告する」としていること、
健康への悪影響の存在の確認は健康の侵害の確認に相当するものであり、この場合にはこの侵害は保健衛生上の惨事とも呼べるものとなるため、必然的にリスクの存在を除外するものであること、
また2000年にザルツブルクから、2002年にフライブルクから、2004年にバンベルクから、2005年にはヘルシンキからそれぞれ発された呼びかけなどのような広報活動や訴えなどにより、医師が中継アンテナの近隣に住む患者の一部において進行している疾病についての懸念を公に表明していること、
2006年のベンヴェヌート決議は「生物学的影響は極超長波(ELF)への曝露でも、また無線周波数への曝露でも発生しうる。疫学研究、および生体内外での実験により、一部の極超長波(ELF)への曝露は子供における癌発生リスクを高め、また成人および子供における他の健康の問題を発生させうることが立証されている」ことを強調しており、各国政府に対し、「一部の国が既に行っているように、予防原則に基づく電磁波への一般市民および職業上の関係者の曝露に関する勧告枠組みを採択する」ように呼びかけていること、
予防原則(市民に対しては2008年1月2日の厚生省のコミュニケにより勧告された)のもとに明らかにされまたは考慮された悪影響で、1998年以降知られているものの大部分は、携帯電話の集中的利用に関するものであるが、熱効果がないように見られる基地局による波動および磁場と、よりアグレッシブと見られている携帯電話の波動および磁場とを完全に区別することが適切であるかどうかという問題は、携帯電話と中継地の間を通過する波動の類似性に鑑み、またこれらの中継局が極超長波とELF場を生じさせるという、国立周波数公社(ANFR)が否定していない事実に鑑み、有効なものであるということ、
BEMSJコメント:「これらの中継局が極超長波とELF場を生じさせるという、国立周波数公社(ANFR)が否定していない事実」は何を意味しているか? 携帯電話の中継基地局のアンテナからELF場を発信していると、国立周波数公社というフランスの政府機関が、肯定しているのであろうか?
INTERPHONEプロジェクトにより国際規模で開始された研究は、まだ着手されたばかりであること、
2007年8月31日にBIO-INITIATIVEと題された最新の報告書が提出されたこと、提出者についてはその大学称号と過去の業績が真面目さを証明しており、ブイグテレコム社が国内機関または国際機関からの委任がないこと、および電気施設と携帯電話を区別しないという意図を理由として行った批判を退けることができること、
BIO-INITIATIVE報告書(欧州議会はこの報告書を読んで問題意識を喚起されたと述べている)はこの点について最終的な回答をもたらさないものの、特に国際非電離放射線保護委員会が設定した極超長波(ELF)への曝露の制限値は人間の保護には不適切であり、また電磁場の健康への影響はまだよく知られていないものの、リスク管理措置を講じるためには現在の科学的知見で十分であると結論づけていること、
医師による一部の研究が研究または測定における厳密さの欠如のために批判されまたは除外されうるものの、控訴のためにブイグテレコム社が提出したものを含む刊行物は全体として、知見が断片的であることを理由として、曝露の有害可能性についての研究を続行すべきであるという必要性を表明していること、またこの曝露はアンテナや中継局から発される波動の場合では連続的で一方的に押しつけられる性格のものであること、
極超長波(ELF)の波動や電磁場への人間の曝露の公衆衛生への影響を断定的に除外する要素は存在しないこと、
国際非電離放射線保護委員会が制定した基準値への言及を放棄し、0.6 V/m(オーストリア、リヒテンシュタイン、イタリア、ポーランド、ロシア、中国)、0.4 V/m(スイス)、3 V/m(ルクセンブルク)の値を採択、法制化し、または建造物からの距離的な排除範囲を設定するという他国の例は、中継アンテナの近くに住んでいる人々が感じうる懸念を消し去る性格のものではないこと、この中継アンテナによる放射はフランスでは2002年の政令で定められている制限値の枠内ではあるものの、他の複数の欧州諸国で許可されている範囲を超えていること、
BEMSJの感想:0.4V/mと言った他国の例でも、人々は不安を消し去ることができない と言っている ことは驚きでもある。
障害(危険)の実現化は不確実ではあるが、議論に提出された科学論文や刊行物を読み、各国法制の姿勢の違いを見ると、中継アンテナにより発される波動への曝露の無害性に関する不確かさは残存し、この不確かさは根拠のある合理的なものと形容されうること、
本件において、ブイグテレコム社がこの設備設置の一環として、同社が技術的に実施可能であり、また一部の市町村と携帯電話事業者の間で結ばれた憲章により明示される、特別なまたは実効的な措置を実施しなかったこと、この憲章はフランスの現行の基準値を下回る放射基準を設定し、または携帯電話アンテナを居住地区から遠ざけるものであること、
被控訴人はその家族住居に隣接する○○第○○区画に設置された中継アンテナが生じさせる健康へのリスクの不在の保証を得ることができず、妨害の構成要因である正統な危惧を抱くことが順当であると認められること、
この妨害の異常な性格はリスクが健康に関するものであることから導かれること、この障害(危険)の具体化は被控訴人およびその子を侵害するものとなること、
この中継アンテナの近隣所有地への設置により被控訴人が被る不安感により生まれる精神的損害の停止は、ブイグテレコム社による何らかの提案がない限りにおいて、その解体の命令を強いるものであること、
判決はこの点について、本判決の送達から4ヶ月の期間以降は命じられた罰金強制を遅延一日ごとに500ユーロとすることを除き、支持されるべきであること、
2005年末より住居に近接して中継アンテナが設置されたことにより被控訴人は、基地局アンテナから放射される主ビームの放射範囲に居住しており、この事実が不安感を生じさせたことは疑いの余地がなく、その不安感の現れは被控訴人が行った数多くの行為から解釈されること、
BEMSJコメント:前述の放射束の記述と同じ論。原告らはアンテナの主ビームの放射範囲に入っているのであろうか???もしかして、原告らは単に、基地局アンテナから水平距離で50m、100mの至近距離に住んでいる、ということだけを主張しているのかもしれない。
この不安感は3年以上継続しており、各夫妻が被った損害の賠償は7000ユーロに定められるべきこと、
被控訴人は財産価値の喪失を理由として金銭的要請を行う根拠を持たないこと、財産損失の原因であるアンテナの解体が命じられる限りにおいて、その仮説そのものが除外されるべきであること、
ブイグテレコム社は本件においてその請求について敗訴し、民事訴訟法典第700条に従い被控訴人団に対して6000ユーロを支払うよう命じられるべきであること、
以上の理由により
控訴院は
終審として対審により判決し、
08/9058号および08/8775号として分類されている書類の結合を命じ、
○○夫妻、○○夫妻およびジャンマリー○○夫妻が被った精神的損害の賠償額を3000ユーロと定めたことおよび罰金強制を除き、2008年9月18日にナンテール大審裁判所で当事者に下された判決を支持する。
取り消された判示項目について判決し、
ブイグテレコム社に対し○○夫妻、○○夫妻および○○夫妻が被った精神的損害の賠償として、それぞれ7000ユーロずつの損害賠償を支払うように命じ、
本判決の送達から4ヶ月後以降、大審裁判所により言い渡された施設の撤去の命令に付帯する罰金強制を遅延1日あたり500ユーロと定めると述べる。
次を付け加える。
ブイグテレコム社に対し民事訴訟法典第700条の適用により被控訴人らに対し6000ユーロを支払うように命じ、
ブイグテレコム社に対し裁判費用の支払いを命じる。民事訴訟法典第699条に従い代訴人には裁判費用を徴収する許可が与えられる。
本判決は控訴院書記官への提出により公に言い渡されたものとなる。訴訟当事者は予め民事訴訟法典第450条第2項に定められる条件により通知されている。判決は○○裁判長および○○書記官により署名され、書記官には判決の原本が署名した裁判官により手渡された。
書記官
(署名)
裁判長
(署名)
*****************************
この判決文を読んでのBEMSJの感想:
上記の和訳文の中で、赤字にしてある箇所を見れば、この裁判では、携帯電話基地局から発信されている電波(電磁波)の健康影響にかんして、きちんと、科学的に説明がなされていないと感じる。
原告らは健康影響に関する専門知識に欠ける面が有ったり、誤った知識を持っていたりしてもやむを得ない。
しかし、被告の通信会社は専門的な知識は持っていて、判り易く裁判の法廷の場で説明できるはずである。
判決文を読んだ範囲では、被告はそうしたことをきちんと行っていない。
その為に、被告が敗訴していると、極論することもできそうである。
3.キャルパントラス裁判の地裁判決文
キャルパントラス裁判の地裁判決文フランス語画像ファイルは公開されている。
NEXT-UPのサイトに判決文の一部英訳文がある。
以下に英文版と、BEMSJによる和訳を以下に示す。
********************
以下は「判決理由」の項に書かれた内容である。
" In the light of the
current uncertainty over the supposed harmlessness of exposure to the radiation
emitted by relay antennas, structures that emit electromagnetic fields, such as
the antenna installed by SFR close to the home of Mr
and Mrs Xxxx in
Châteauneuf-du-Pape, there exists a well-founded doubt concerning the potential
danger presented by this type of installation, a risk that can be considered
entirely plausible, even probable, although its manifestation (which could be
disastrous) has not yet come about."
SFR社がChâteauneuf-du-PapeのX夫妻の家の近くに設置した電波を放出する中継アンテナと設備からの電磁波への曝露による仮定された障害性に対する現在の不確実性に関する見解の中に、まだ実現しない兆候(もし実現すれば悲惨になる)かもしれないが、この種の設備設置によって引き越される可能性のある危険に関する十分な論拠をもつ疑いが存在し、可能性が低いか、可能性が高いか考えることができるリスクが存在する。
"Every
resident can claim, by virtue of this principle, that the exposure to radiation
should be as low as reasonably possible.
全ての住民は、この予防原則に基づいて、電磁波への曝露を可能な限り低くすべきであると、主張することができる。
"In
this case Mr and Mrs Xxxx have thus proved that their apprehension is pertinent
and entirely understandable, though without reversing the responsibility for
the burden of proof.
本件では、X夫妻は、証明責任を転嫁させないで、彼らの不安は適切であり、十分に理解できるように、法廷に提出している。
"At
present they cannot be guaranteed by the mobile telephone company, in the
matter of safety and security, the absence of any health risk generated by the
relay antennas installed very close to their home."
現状では、安全と安心の為に、彼らの家に密接して設置された中継アンテナから発信される電波によって引き起こされる健康リスクが皆無であることを、携帯電話会社は保障することができない。
"Whatever
the mobile telephone company may say, this is a clear instance of an
exceptional nuisance to one's neighbour, to which an
end should be made forthwith.
携帯電話会社が如何に発言するとしても、直ちに終了させるべき近隣の人への異常な近隣妨害の事例である。
In order
for the two exceptional nuisances to one's neighbour
detailed hereunder and noted by the Court to be remedied, the operating company
must proceed with the demolition (that is to say the dismantlement) of the
pylon in question, in accordance with the principal request of Mr and Mrs Xxxx."
裁判所によって了解 (Noted注:合意・賛成でもないが、「判った」というレベルで「了解」したという意味)され、この判決文に詳細が述べられている隣人への二つの異常な近隣妨害の為に、通信会社はX夫妻の要求に基づいて、疑義のある鉄塔の取り壊し(いわゆる解体)を進めなければならない。
Considering
the very negative impact of keeping the relay antennas in question in place in
proximity to the dwelling of Mr and Mrs Xxxx, it is important to
maximize the effectiveness of the obligation to demolish the structure imposed
on the mobile telephone operating company named Société Française du Radiotéléphone (SFR) by adding to this obligation a penalty
of 400 euros per day of delay after the period of four months counting from the
day on which this obligation is validated by a decision that has the force of a
matter that has been adjudged.
X夫妻の住居に近接して建てられた疑問のある中継アンテナが維持されるという有害な効果を考慮し、SFR社という名の携帯電話会社に課せられた設備の解体の義務を最大限に有効化することが大事なので、当該義務が判決によって強制的な効力が持つようになった日より数えて4か月以上の遅れが出た場合、1日あたり400ユーロの罰金を付加する。
4.アンジュ裁判の地裁判決文
アンジュ裁判判決のフランス語画像ファイルは公開されている。
アンジェの裁判の判決文の英文版がNEXT-upのサイトに掲載されていた。
以下は、英語版の判決文をBEMSJが翻訳したもの。
仮訳なので、英文と和訳文を併記した。
英文版が的確に全文がフランス語原文から翻訳されているか定かではないので、関心のある方は、フランス語原文を読むか、フランス語原文を直接翻訳して下さい。
**************************
Facts of the Case – Procedure – Claims of the
Parties
事実、手続、当事者の主張
By presenting a declaration of works on 3 September 2008,
receipt of which was noted on 9 September 2008, the company Orange France
notified the town council of Notre Dame d’Allençon of
its plan to install three relay antennas on the church in a color matching the
bell tower at the level of the shutters, and to install a technical control
area inside the church on the first landing.
2008年9月3日付けで提出された工事申請書(9月9日付けで受理)により、オランジュ・フランス社は、教会の二階に設置された雨戸と同じ高さに、鐘楼と同一色に色合わせを行ったアンテナを3基設置し、教会内の二階踊り場には関連機器を設ける計画をノートルダム・ダランソン村に提出した。
On 12 September 2008, with the consent of the town
council, the mayor indicated that there was no objection to the works and the
company SPIE Ouest Centre, the contractors retained by the site manager, posted
a notice of the decision, as officially recorded on 23 September 2008.
村議会による合意を得て、村長は2008年9月12日に工事に異論はない旨回答し、建築主と契約を結んだスピー・ウエスト・サントル(SPIE
OUEST CENTRE)社は当該決定の告示手続を行い、2008年9月23日に公式に記録された。
By a writ dated 1 December 2008 several persons, local
residents and/or parents of pupils attending the school next to the church,
acting on the basis of article 809 clause 1 of the Code of Civil Procedure and
in opposition to the company Orange France and the company SPIE Ouest Centre,
lodged with us a petition to forbid Orange France to install one or more
telephone antennas in the church tower, with a penalty for any observed
offence, and to sentence them to pay 4000€ in accordance with article 700 of the
Code of Civil Procedure.
2008年12月1日付け令状により、幾多の住民(BEMSJ注:当該地区の以外の住民の意味?)、当該地区の住民、教会に隣接する小学校に在籍する生徒の父母たちは、オランジュ・フランス社およびスピー・ウエスト・サントル社に対する請願を、民事訴訟法典第809条1項に基づいて本裁判所に付託し、教会の鐘楼に1または複数の携帯電話基地局アンテナを設置することを禁止すると共に、違反が確認された場合の強制的な罰金を定めること、さらに民事訴訟法典第700条に基づいて4000ユーロの支払を命じるよう求めた。
(BEMSJ注;フランスの裁判では、裁判費用を相手方に請求できる、勝訴となれば、原告らの裁判費用や原告らが依頼した弁護士の費用を請求できる様である。但し、敗訴となれば、相手方の裁判費用や弁護士費用の請求書が届く。)
They cite the precautionary principle as outlined in
article 1.110-1 of the Code of the Environment.
原告らは、環境法典L110条1項に定められた「予防原則」を論拠にした。
They point out the imminent danger posed by the
installation of a mobile phone antenna that emits radiation constituting a
health hazard, the absence of which cannot be guaranteed by the company Orange
France; they emphasize the closeness of their homes and of the school, cite the
European Parliament resolution of 4 September 2008, and various scientific
studies.
原告らは、危険が存在しないことをオランジュ・フランス社が保証できない状況で、健康障害を生じさせる電波を放出する携帯電話基地局アンテナの設置は、切迫した危険性を呈すると指摘した。彼らの住居および小学校が直近の距離にあることや、欧州議会が2008年9月4日に採択した決議および様々な科学的調査があることを強調した。
[The company Orange France] cites their duty towards the
public interest for the sake of which they are creating the relay network, the
need to improve coverage of the country, and the burden imposed on them by
instructions from the State that oblige them to achieve this, on pain of
significant financial penalties.
オランジュ社は、中継基地局の設置は公益上の任務であり、全国の領域を順次まかなっていくことが必要であること、および国により定められた許認可事業履行条件書によりそれらの設置が義務づけられており、当該義務を履行しない場合には高額な罰金が課せられることを訴えた。
They conclude that the installation functions in
accordance with current regulations, which impose a safety margin with a factor
of 50 between the threshold at which serious effects [from radiation] appear
and the statutory limit.
同社は、顕著な影響が現れる限界値と法定規制値の間で安全係数を50としている現行法規に適合する形で、本件設備を設置していると主張した。
They maintain that there is no scientific controversy on
the subject and that the reports and notices issued by the administrative
authorities combine in agreeing that there are no biological or health effects
from this type of radiation; it emphasizes that the public has a very low level
of exposure to radiation due to the shape and the height of the beam and
besides that the law does not recognize that any health hazard exists.
同社は、この点については科学的にも論争はなく、行政当局らの報告書や答申は放射による生物学的な影響も健康への影響も認められないとすることで一致を見せているとされ、またアンテナから発信する電波のビームの形式や高さからして、一般公衆への電磁波曝露は微弱であり、法律はいかなる健康上への障害も認めていない、とする。
Reasons
for the Judgement
判決理由
It follows from the terms of article 809 of the Code of
Civil Procedure that:
民事訴訟法典の第809条規定は次のように定めている。
"The presiding authority can
always, even in the presence of serious contestation, impose such measures of
conservation or repair as are deemed necessary, either to prevent imminent harm
or to put an end to an obviously illicit nuisance."
主管官庁は、いつでも、たとえそれ相当の異議が存する場合においても、切迫した損害を避けるため、あるいは明らかに違法なニューサンス(近隣妨害)を中止させるために、必要な保全処分または原状回復処分を命じることができる。
It follows from article 2 of the constitutional law of 1
March 2005 that a charter of the environment exists, which declares in
particular that:
2005年3月1日の憲法的法律第2条により制定された環境憲章には、とりわけ次のような規定がある。
"Art. 1: Each person has
the right to live in an environment that is balanced and respects health.
第1条 人はそれぞれ調和がとれ、かつ健康を尊重する環境の中で生きる権利を有する。
Art. 2: Everyone has a duty to
take part in the preservation and the improvement of the environment.
第2条 全ての人は、環境の保護および改善に参加する義務を有する。
Art. 3: Everyone must, in the
conditions defined by the law, avoid any harm that they might cause to the
environment or, failing that, limit its consequences.
第3条 全ての人は、法の定める条件下において、やむを得ない場合でもその結果を最小限に留めるようにして、みずからが環境にもたらし得る侵害を予防しなければならない。
Art. 4: Everyone must
contribute to repairing the harm they cause to the environment, in the
conditions defined by the law.
第4条 全ての人は、法の定める桑件下において、みずからが環境に与えた侵害の修復に、努めなければならない。
Art. 5: When the
materialization of any harm, even if its outcome is uncertain in the state of
scientific knowledge, might affect the environment in a serious and
irreversible manner, the public authorities should, in application of the
precautionary principle and in the domains for which they are responsible, put
in place procedures for evaluating the risks and adopt provisional and
proportionate measures to prevent the materialization of the harm."
第5条 如何なる損害でもその具現化が、科学的な知見に不確実性がある結果であっても、環境への影響が深刻でかつ取り返しのつかないかもしれない時、公的機関は、予防原則を適用し、それぞれの職権の及ぶ範囲内において、リスクの評価手続きを実施し、損害の具現化を防ぐ為に、暫定的でかつ均衡のとれた対応策を採用すること。
It follows also from article 1.110-01 of the Code of the
Environment that:
環境法典L110条1項も同様に以下のように定めている。
"I: Natural spaces, resources
and areas, the landscape and its natural features, the quality of the air, the
animal and plant species, and the diversity and balance of nature to which they
all contribute are part of the shared heritage of the nation.
1.自然空間、資源と地域、景勝地ならびに自然環境、大気の質、動物種、植物種、そしてこれらのものが織りなす生物学的な多様性と均衡は国の共同遺産である。
II: Their protection, their
enhancement, their restoration, their repair and their management are in the
public interest and contribute to the objective of sustainable development
which aims to satisfy the needs for development and health of present generations
without compromising the capacity of future generations to meet their own
needs. Within the framework of laws that define their field of action, they are
governed by the following principles:
2.その保護、利用、回復、修復および管理は公益性を有し、現在の世代がその発展と健康に関する要求を満たしつつ、しかも将来の世代が自身について同様の要求に応じる能力を害しないことを目指す持続可能な発展という目標に適うものである。それらの活動を定義づける法の定める枠組みの中で、次の原則に従う。
1: The principle of
precaution, according to which the absence of certainty, in the light of
scientific and technical knowledge of the time, should not delay the adoption
of effective and proportionate measures with the aim of avoiding the risk of
serious and irreversible harm to the environment at an economically acceptable
cost …"
1.予防原則:その時々の科学的知見に照らし、確証を欠くことを理由として、環境に重大かつ取り返し返しのつかない損害が生じる危険を、経済的に許容可能な費用で、防止することを目的とする効果的かつ均衡のとれた措置をとることを、遅らせてはならない・・・。
On
the right to bring the petition:
当事者適格
The church is built on the plot numbered 468 on the local
map and it is not contested that several petitioners live in homes in close
proximity to the church; nor is it contested that several petitioners have
children who attend the village school situated on plot 470 adjacent (cf. the
attestation by the head of the school of 15 January 2009).
教会は土地台帳468号地に建てられており、複数の原告の住宅が教会と直近の位置にあることについては争いがなく、同様に、複数の原告の子供が教会に隣接する470号地に所在する村の小学校に在籍していることについても異論の余地はなく、争われてもいない。(校長の2009年1月16日付け証明書を参照)
In any case, since each citizen has the right to an
environment that is balanced and respects health, it matters little if the
petitioners live more or fewer meters away from the planned site for the
installation of the antenna, or even in a neighboring community, once it is not
contestable or contested that they could be within range of the radiation
emitted.
市民それぞれが、調和がとれ、かつ健康を尊重する環境に対する権利を有することから、原告等が中継基地局の設置予定地から近いか少し遠くに離れているところに住んでいるか、さらには隣村に住んでいても、放射される電波にさらされる可能性があることについて争いがない以上、さほど重要なことではない。
On
the relevant regulations:
適用される法規制について
On 12 July 1999 the Council of the European Union passed
a recommendation defining the basic restrictions and the levels of reference
concerning the limits of exposure of the public to electromagnetic fields (from
0Hz to 300GHz).
欧州連合理事会は1999年7月12日に勧告を採択し、電磁界(0Hzから300GHzまで)への一般公衆による曝露に関する制限について基本制限値および参考値を定めた。
In an interministerial circular from the government dated
16 October it was explained that the level of reference was set at a level 50
times less than that at which it was possible to observe significant heating of
human tissues, in order to guarantee the absence of non-thermic effects, which
had not been proven but which were currently being studied.
10月16日付けのフランス政府通達では、参考値は人体組織に顕著な発熱が観察することができる水準の50分の1に設定し、いまだ確認されてはいないとはいえなお調査が進められている非熱効果が生ずることのないよう担保していると、説明している。
The regional authorities were invited to set up a system
of joint consultation on choosing the placement of antennas, in order to take
account of public concerns regarding the potential health effects of the fields
generated. The circular referred to disagreements between neighbors,
consultation with parents of school children, nearby residents, etc.
地方官庁(地域の政策決定権者)は、電磁界が及ぼす公衆衛生上の影響に対する住民の懸念を考慮するために、アンテナ設置場所の選択に関する共同討議の場を設けるよう請われた。本通達では近隣紛争、あるいは生徒の父母や周辺住民等との討議が想定されている。
By a decree of 14 November 2001 the levels set by the
European Union were included, without any change, in the regulations relevant
to the operators of the communications networks.
2001年11月14日付けの省令により、欧州連合が定めた基準値は、修正されることなく、そのまま電気通信網事業主に課せられた法規制の中に組み込まれた。
It is true however that these upper limits (from 48 to 61
V/m depending on the frequency of the networks, 900MHz, 1800MHz or UMTS) are
not the same as those adopted by every country; in fact many European countries
have set stricter limits (for example, Belgium: from 20.6 to 30.7 V/m, Italy: 6
V/m), which reveals at the least a divergence in the degree to which public
health is considered important.
これらの上限値(900MHz、1800MHzまたはUMTSによる各通信網の周波数に応じて、48から61V/m)は他のいずれの国が採用したものとは異なり、多くの欧州諸国ではさらに厳しい上限が定められており(例えば、ベルギーは20.6から30.7V/m、イタリアは6V/m)、このことは少なくとも、公衆衛生が重要であると考えている政令の中に、相違(配慮の軽重)があることが明らかであることも、事実である。
It is also noted that it is not contested that certain
States, European and otherwise, have instituted a regulation defining an
exclusion zone around dwellings or buildings considered sensitive.
また、「影響を受けやすいといわれる人々が利用する」建物や住居として定義された法規制文を制定した国が、欧州地域の内外を問わず、見うけられることも争いのない事実である。
This approach has been included in French regulations,
there also at a minimal level in relation to the considerations it is based on.
このような方針は、フランスの法規制にも取り入れられており、そこでは、考慮事項に照らして最小限の曝露レベルになっている。
The report of the Director General of Health of 16
January 2001, called the Zmirou report, concluded
(d):
厚生総局長の2001年1月16日の報告、いわゆるZMIROU報告書は、次のように結論している:
"The objective of reducing the level of public
exposure to the minimum possible concerns in particular those who are
potentially vulnerable such as children and certain of the sick.
With this in mind, the group of experts recommends that "sensitive" buildings (hospitals,
crèches and schools) situated less than
100 metres from a macrocellular
station should not be within direct range of the beam from the antenna …
the group of experts thinks that the respect of these measures by the operating
companies is of a kind to reduce the fears of the public, in particular of
parents concerned about the exposure of their children while attending school
…"
「一般公衆への曝露の水準を可能な限り最小限に留めるという目的は、とりわけ児童や病人等、潜在的に影響を受けやすい人々に関係している。
そのために専門家グループは、マクロセルラー方式による基地局から100m以内の距離にある影響を受けやすい人々が利用する建物(病院、託児所、小学校)については、それらがアンテナから発信される主ビーム方向の強い電波を直接的に受けることのないようにすることを勧告している。
・・・専門家グループは、事業者がこれらの措置を守ることによって、一般公衆、とりわけ教育施設における子供たちの曝露について懸念を抱いている父母の不安は緩和されるものと考えている。」
The concept of an obligatory exclusion zone was not
incorporated in the regulations.
影響を受けやすい人・・・・に関する義務的な区域除外の概念は、国の法規制の中には盛り込まれていない。
The decree of 3 May 2002, based evidently on the same
recommendation, must here be recalled in its principal terms:
同様な勧告に基づく2002年5月3日の政令は、基本原則として、再認識すべきである。
Article 2
The persons mentioned in
Article 1 should see that the level of exposure of the public to the
electromagnetic fields emitted by the apparatus of the telecommunications
networks and by the wireless installations that they make use of is below the
limits set in 2.1 of the annexe to the present
decree.
第2条
第1条に掲げる者は、その稼働する電信網設備および無線電気設備から放射される電磁界への一般公衆による曝露水準値が現行の政令附則2.1に定める制限値よりも低いものとなるよう留意すべきである。
These levels are considered to
be respected when the intensity of the electromagnetic fields emitted by the
apparatus and wireless installations concerned is below the levels of reference
defined in 2.2 of the same annexe.
当該無線電気設備および施設よりから放射される電磁界の水準が同附則2.2に定められた参考値より低い場合、上記制限値は守られているものと見なす。
Article 3
When several wireless installations
or appliances are emitting electromagnetic fields in a certain place, the
persons mentioned in Article 1 should see that the level of exposure of the
public to the electromagnetic fields emitted by the whole group of
installations and appliances concerned is below the limits set in A of 2.3 of
the annexe to the present decree.
The obligation defined in the
above clause is satisfied when the electromagnetic fields emitted by the whole
group of installations and appliances meet the levels of reference defined in B
of 2.3 of the same annexe.
第3条
ある一定の場所において、複数の無線通信設備または施設から電磁界が放射されている場合、第一条に掲げる者は、関係するすべての設備および施設から総じて放射されている電磁界への公衆曝露水準値が、政令附則2・3のAに定める制限値よりも低いものとなるよう留意する。
上記に定める義務は、当該設備および施設から総じて放射されている電磁界が同附則2・3のBに定める参考値に適合している場合に、満たされたものとする。
Article 5
第5条
The persons mentioned in
Article 1 shall communicate to the administration or the authorities
responsible for the frequencies concerned, at their request, a dossier
containing either a declaration that the apparatus or installation meets the
standards or specifications mentioned in article 4, or documents proving
respect of the exposure limits or, as the case may be, the levels of reference.
第1条に掲げる者は、その周波数を所轄する主管当局・行政当局と、連絡を取らなければならない。
当局の求めに応じて、装置または施設が第4条の規定する規格または仕様に適合している旨の宣言書、あるいは、曝露制限値または場合によっては参考値の遵守を証明する書類を含む一件書類を提出する。
This proof can be presented by
using a measurement protocol in situ, within the boundary of the relevant field,
of the level of exposure of the public to electromagnetic fields, details of
which are published in the official Journal of the European Community or in the
official Journal of the French Republic.
欧州共同体官報あるいはフランス共和国官報にその詳細が示されている電磁界の一般公衆への曝露水準に関する現場計測手順に従って測定することで、確証として、提示することができる。
The dossier mentioned in the
preceding clause shall also detail actions taken to ensure that inside schools,
crèches or health establishments that are situated within a radius of 100
meters of the apparatus or installation, the exposure of the public to the
electromagnetic fields emitted by the apparatus or installation is as low as
possible, while maintaining the quality of the service provided.
前項にいう一件書類にはまた、提供されるサービスの質を維持しつつも、設備または施設から半径100メートル以内にある教育施設、託児所または健康施設における一般公衆による曝露を可能な限り低くするために取られた措置についても記載することとする。
The fact that the Council of State has rejected appeals
against the requirements of this regulation on the grounds that it respects the
upper limits set by the above-mentioned recommendation does not alter the
matter.
前述の推奨に規定された上限値に関する背景情報の中で、この法規制の要求に対する申請を国務院が棄却したという事実は、本件の論議に無関係である。
In fact it is clear from the matter under consideration
that the standard is old (1999), adopted without change by France, and that it
is even termed "obsolete" by the European Parliament in its
resolution of 4 September 2008 on the mid-term evaluation of the European plan
of action on matters of environment and health 2004-2010, the resolution being
adopted as follows:
実際、フランスにおいても法として適用されることとなったものの、規定は古いものであり(1999年のもの)、2004年‐2010年期における環境健康に関する欧州活動計画への中間評価に対する欧州議会からの2008年9月4日勧告においては「廃れている」とさえ言われている。同勧告では次のように述べられている。
22: …notes that
the limits of exposure to electromagnetic fields fixed for the public are
obsolete insofar as they have not been revised since the recommendation
1999/519/EC of the Council of 12 July 1999 concerning the limits of exposure of
the public to electromagnetic fields (from 0Hz to 300GHz), that these limits
obviously do not take account of the subsequent development in information and
communication technologies, nor indeed of the recommendations put forward by
the European Environment Agency or of the more demanding emission limits
imposed by example by Belgium, Italy or Austria, and that they do not take
account of vulnerable groups such as pregnant women, newborn babies and
children;
22.一般公衆について.定められた電磁界への曝露制限値については、電磁界(0Hzから300GHzまで)ヘの一般公衆による曝露に対する制限に関する理事会勧告1999/519/CEが1999年7月12日に採択されて以降なんらの改訂もなされていないことから廃れたものとなっていること、また当該制限値は情報通信技術の発展はもとより、欧州環境庁が発する勧告も、またベルギー、イタリアおよびオーストリアなどによってより厳しい放射規制が採用されていることをふまえたものではないこと、そしてまた同制限値は妊婦、新生児および児童のような弱者のことを考慮したものでもないことを認め、
23: …in
consequence requests the Council to revise its recommendation 1999/519/EC in
order to take account of the best national practices and thus to set more
restrictive limits of exposure for the whole range of apparatus that emits
electromagnetic radiation in the frequencies from 0.1Hz to 300GHz;"
23.したがって理事会に対し、国家の実践の中で最良のものを考慮し、0.1Hzから300GHzまでの周波数帯における電磁波を放射するすべての設備について、より厳しい曝露制限値が定められるよう、勧告1999/519/CEを改訂するよう求める。
It appears also
that agreements have been reached between operating companies and local
communities on more restrictive contractual limits of exposure (cf. the letter
from the president of the National Observatory for the security of school
establishments and higher education, a state body, and the mention in the list
of reasons for the proposed law no. 2491 not included in the order of the day).
また、通信事業者と地方自治体の間で、より厳格な曝露水準値に関する合意が達成されてきているように見受けられる(参照:国家機関:高等教育と学校安全性管理機構の所長の書簡、および、評議日程に含まれなかった第2491号提案法案の理由に帰された事項)。
On
the respect of the present regulations:
法令の遵守について
I
It is very clear that the company Orange France has not
contributed to the debate any item that might enlighten the court on the
features of its installation and the respect of current standards or
precautions taken.
オランジュ・フランス社は、同社施設の特徴、適用法規の遵守、そして執られた予防措置のいずれについても、当裁判所の理解に助けるとなる証拠を、論議の為に提出(寄与)していないと言わざるを得ない。
Moreover it could have
presented a full explanation, in the sense of the dossier referred to in
article 5 of the 2002 decree, on "the
actions taken to ensure that inside schools, crèches or health establishments
that are within a radius of 100 meters of the apparatus or installation, the
exposure of the public to the electromagnetic fields emitted by the apparatus
or installation is as low as possible, while maintaining the quality of the
service provided."
同社はまた、「提供されるサービスの質を維持しつつも、設備または施設から半径100メートル以内にある教育施設、託児所または治療施設における一般公衆による曝露を可能な限り弱めることを担保するために採られた措置」について、2002年の政令第5条に定められた「一件書類」で十分な説明を提示することもできたであろう。
There is no doubt, in view of the various local maps
produced in the debate and after measuring the distances according to the scale
indicated, that the site of the school is less than 100 meters from the church
tower.
口頭弁論においては複数の地域の地図が提出されたが、表示されている縮尺を掛けたうえで距離を測定するならば、教会の鐘楼から100メートル未満の距離に小学校の区画が位置していることについて疑いの余地はない。
Moreover the beam from an antenna is not simply linear
and the Zmirou report specifies that it has a broad
horizontal spread of 120° and a narrow vertical spread; installed at a height
of about 20 meters (the plan is for 24 meters) it touches the ground at a
distance between 50 and 200 meters.
加えて、アンテナから発信される電波のビームはただ直線的であるわけではなく、ZMIROU報告書によれば水平面では120度の広い広がりと垂直面では狭い広がりを示しており、20メートルの高さに設置された場合(計画では24メートルの高さ)の基地局鉄塔の場合は、主ビームは50から200メートルの間の水平距離で地面に至る。
It can be deduced from these factors that the site of the
school is very likely to be subjected to radiation from the antenna oriented on
the azimuth 100 and that the school should be classed as a
"sensitive" building in the sense of the Zmirou
report as well as the 2002 decree.
これらのことから推論するに、小学校が所在する区画は方位角を100度とするアンテナによる放射の下に置かれる可能性が十分にあり、また当該小学校はZMIROU報告書および2002年の政令にいう影響を受けやすい人々により利用される建物に該当するものと言うことができる。
If only for the sake of "handling the extreme
anxieties of the parents", which the company Orange France recognizes in
its documents as the reason for the recommendation in the Zmirou
report and consequently in the 2002 decree of "a tightly restricted
range", the company Orange
France should have presented specific details on the technical aspects referred
to above and not been content to produce the administrative dossier
authorizing the works, which is limited strictly to town planning regulations
and does not provide an answer to the question of environment and public health
raised by the nearby residents and local users.
たとえ「父母の不安への対処」のために過ぎないとしても、それがZMIROU報告書で「極めて限定的に制約された」勧告がなされ、それゆえに2002年の政令が定められた際の根拠であったということはオランジュ・フランス社もその準備書面において認めるところであり、もっぱら都市計画法の平面にのみその視点を限定し、周辺住民や現地の利用者が抱く環境および健康に関わる疑問になんら答えていない工事認可に関わる行政書類を提出するに留まることなく、上述した技術的な点について、同社は具体的に説明すべきであった。
It is all too evident that the planning proposal
submitted by the company Orange France does not provide any means of verifying
the respect of the statutory limits applicable in France, which as has been
shown are some of the most lax.
オランジュ・フランス社によって提出された建設計画は、最も手ぬるいと分類されるものと認められるフランスの現行の適用可能な法定限度に関して、適合確認方法が示されていないということが明白である。
Nor does it offer any assurance regarding the
precautions, not set up as strict regulations but included as recommendations,
relating to the sensitive building of the nearby municipal school.
この計画は、公立学校に近接した影響を受けやすい人によって使用される建物に関して、厳格な法規制は設定されていないが、勧告として含まれている予防原則に関する何らの保証も提示されていない。
It is appropriate to recall here the precautionary
principle as set out in article 1.110-1 of the environment code:
ここで、環境法典L110条1項に示される予防原則を再確認しておくことが好ましい。
"1: The principle
of precaution, according to which the absence of certainty, in the light of
scientific and technical knowledge of the time, should not delay the adoption
of effective and proportionate measures with the aim of avoiding the risk of
serious and irreversible harm to the environment at an economically acceptable
cost …"
1.予防の原則:その時々の科学的知見に鑑みて確証を欠くことを理由として、環境に重大かつ取り返しのつかない損害が生じるリスクを、経済的に許容可能な費用で、防止することを目的とする効果的かつ均衡のとれた措置をとることを遅らせてはならない・・・。
In the state of uncertainty about the technical features
of the planned installation and considering the known risks to public health in
the event of exceeding the current standards, standards which have been shown
to be particularly lax and denounced as such, in the state of uncertainty about
the guarantees offered for the protection of the sensitive building of the
municipal school, and finally in the absence of any proof of the impossibility
of making use of an alternative site, the precautionary principle compels us to
forbid the realization of the plans to install relay antennas on the bell tower
of the church of Notre Dame d'Allençon, an
interdiction that constitutes an effective and proportionate measure with the
aim of avoiding the risk of serious and irreversible harm to the environment at
an economically acceptable cost.
現行規制値はきわめて緩やかなものであり、その点で批判の対象とされているのであるが、そのような規制値を超えた場合に生じる公衆衛生に関わる明白なリスクとの関係において計画された施設にはその技術的特徴において不確かなところがあることに鑑み、また村立小学校のように影響を受けやすい人々が利用する建物の保護に対する保証においても不確なところがあることに鑑み、そして代替地に設置することができないことが証明されていないことに鑑み、本裁判所は予防原則に基づき、重大かつ取返しのつかない損害が生じる危険を経済的に許容可能な費用で防止するための効果的かつ均衡のとれた措置として、ノートルダム・ダランソン教会の鐘楼に中継基地局アンテナを設置する計画の実施を禁止する。
This reasoning coincides in the present case with that
cited in accordance with article 809 clause 1 of the Code of Civil Procedure
and it is within our competence to take any measure to prevent imminent harm, a
definition that includes obviously the health hazard for residents living near
the proposed installation.
本件においては、上記に示した当該判断の根拠は民事訴訟法典第809条1項に基づき主張された根拠に合致するものであり、本裁判所は差し迫った損害の発生を予防するための措置を執る権限を有し、当該損害にはその定義上、計画された施設の周辺住民に及ぼされる健康上のリスクが当然に含まれる。
In accordance with article 696 of the Code of Civil
Procedure the terms of article 700 of the Code of Civil Procedure will be
applied in the amount of 2500€.
民事訴訟法典第696条に鑑み、
民事訴訟法典第700条を適用し、その額を2500ユーロに定める。
For
these reasons
以上の理由により
Following debate in public
that has presented arguments for both parties,
対審による公開弁論の後、始審による急速審理命令として、
In presence of the company
SPIE Centre,
スピー・ウエスト・サントル社の立ち会いの下、
We
forbid the company Orange France to proceed with the realization of plans to
install relay antennas on the bell tower of the church of Notre Dame d'Allençon, subject to a penalty of 5000€ per day per
observed offence of carrying out the prohibited works from the date of the
present notification.
オランジュ・フランス社にノートルダム・ダランソン教会の鐘楼上に中継基地局アンテナを設置する計画の実施を禁じ、禁じられた工事が実施された場合には1日当たり、違反が生じるものとして、本判決が送達された時より当該1違反につき5000ユーロの罰金強制を付す。
We
sentence it to pay the costs of the hearing and to pay 2500€ to the petitioners
as a group in accordance with article 700 of the Code of Civil Procedure.
オランジュ・フランス社に本件訴訟費用の支払い、および民事訴訟法典第700条に基づき、原告等に併せて2500ユーロの支払いを命じる。
Judgement handed down this
day and recorded by the Clerk of the Court.
書記官への交付を以て、上記の日付にて作成され、言渡されたものとする。
The present decision has
been signed by …….., President and ………Clerk of the Court.
本判決は裁判長および書記官により署名された。
第4章 法律関係の補足・解説
1.ニューサンス(近隣妨害)とは
ナンテール判決、ベルサイユ判決、キャルパントラス裁判は、ニューサンスが争点になった裁判です。
ニューサンスという法概念は、日本の法律にはありません。
kotobank 百科事典マイペディア 政治・法律 によれば
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ニューサンスとは
英米法の概念。不法妨害,財産享有妨害,生活妨害などと訳。
不法行為の一類型。音響,臭気,震動,ばい煙,または公然の猥褻行為などによって他人の財産享有,健康,安楽,利便を侵害する行為。
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とあります。
2.フランス法におけるニューサンス
以下はネットで見つけた専門書の一部引用です。
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フランスにおける近隣妨害の法理(一)
高橋 康之
近隣妨害という概念は、広義には、隣接する土地の所有者または利用者間における妨害で、民事責任を発生させるものを指す。
前述のように、フランスでは、とくにイミツシオ等に関する規定はなく、近隣者間の妨害も民事責任の判例法の中に埋没しているのであって、これを特殊の問題として取り扱うのは、学説上のことである。
したがって、この近隣妨害の理論の及ぶ範囲についても、学説は必ずしも一致しない。
ことに、近隣妨害の性質をどのように見るかということと、その適用の範囲とは、密接な関係にあり、前者を決しないかぎり、後者を定めることは不可能ともいえよう。
(6)狭義の近隣妨害
土地の利用者が法規に違反することなく、正当の利益の追及のために、自己の土地を使用し、しかも、その際つくすべき注意義務を果たしてなんらの過失もなかったのに、近隣に損害を与えることがある。
その場合にも、加害者は責任を負うべきか、判例はこの場合にも、加害者に責任ありとしている。
これが狭義の近隣妨害の場合である。
後に述べるように、この場合の責任も無過失責任ではなく、1382条に基礎を置く一般の過失責任の一変型だとみるのが判例および通説の立場であるから、究極的には前の(5)と変らないことになろうが、(5)の場合のように過失の存在が直接的でないところに、特殊性を見出すことができる。
三 判例による近隣妨害の法理の形成
一基本原則
土地所有者が、その権利を行使する際に、近隣の生活を妨害した場合には、たとえその者に過失がなくても、その者に責任が発生する。これが狭義の近隣妨害である。
この原則は、民法典制定直後から判例によりすでに認められていたという。
しかし、そのような妨害行為がすべて責任発生の原因となるわけではない。
人は社会生活をする以上、ある程度まで他人の行為によって迷惑を受けることは、忍容もなければならない。
その忍容の程度を超えた行為があった場合に、はじめて、行為者に対して責任を追求できるだけである。
判例は<通常の近隣者問の義務の範囲を超える損害>は賠償されるべきであるとして、その原理を明らかにしている。
問題はどのような損害が、通常の近隣者間の義務の範囲を超えるかであるが、これは結局下級裁判所の事実認定にまつはかない。
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3.日本の民法の受忍限度論
第1章の「3.フランスの裁判状況を調査にフランスに出張した弁護士中村多美子の報告」の中に、「この「異常近隣妨害」とは、当職が聞く限り、日本の民法に言う「受忍限度論」に非常に近いものであると思われました。」とある。
以下は、受任限度論に関する資料です。
http://www.shinginza.com/cgi-bin/topics/script2.cgi にあった内容 2009−9−27のログ
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法律相談事例集データベース
【民事・不法行為における違法性の内容・相隣関係と受忍限度論】
質問:一昨年、一戸建てを購入しました。住んでみると、隣の家の小窓から、こちらを覗いているように感じます。
料理の匂いが漂ってきたり、水を流す音や声が聞こえてきたりします。
雨が降ると隣の屋根からこちら側に雨水が垂れてきたりもします。
隣家の住人に対して何らかの対策をとってくれるように伝えましたが、「法律違反ではない。」とのことで、聞き入れてもらえません。
精神的苦痛で不眠症になってしまいました。どのような法的主張が可能ですか?
回答:
1.隣家の小窓から覗かれているように感じるという問題ですが、民法上、隣人が境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む)を設けている場合は、隣人に対して目隠し設置を請求することができます(民法235条1項)。
2.屋根から落ちる雨水については隣家の屋根に樋の設置を請求することができます(民法218条)。
3.以上の原因の他に料理の匂いや、生活の音により不眠症となり平穏に生活する権利侵害による精神的苦痛を理由に損害賠償請求(民法709条、701条)請求ができるかという点ですが、何らかの侵害行為が違法性を帯びるか問題であり、その基準は、日常生活における受忍限度(加害者側から言うと権利の濫用と評価されます。)を超えるかどうかで判断されます。
具体的に言えば@被害の内容・程度A加害行為の態様B当事者間の交渉経過C規制基準との関係D地域性E先住性(土地利用の先後関係)F被害回避の可能性などを総合考慮して決せられます。
客観的な数値を求めるために環境計量士に依頼することもできます。その他、証拠として日常生活を記載した日記、写真等も必要でしょう。
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4.アメリカの電磁波裁判での争点「不当侵害、ニューサンス」
記:2013−8−5
アメリカの電磁波に関連した裁判では、「不当侵害」や「ニューサンス」を争点に争われている。
電磁波は目に見えないからニューサンス・不法侵害の対象とならない、という判例も存在する。
永野秀雄「電磁波環境訴訟の理論と争点」より一部引用。
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1.送電線等の電力施設から発生する電磁波による身体的損害賠償請求訴訟
a:Zuidema v San Diego Gas & E1ectric Co判決
Zuidema v San Diego Gas & Electric Co判決は、1993年4月30日にカリフォルニア州において出されたもので、電磁波曝露により人身損害賠償が請求された事件のうち、はじめて陪審評決に至ったものである。
原告のMalloly Zuidemaは、生後9ケ月で非常にまれな腎臓障害と小児腎臓ガンであると診断された。
1991年に5歳になったMalloryとその両親は、被告会社に対して、過失に基づく人身損害賠償と私的ニューサンスに基づく財産的損害賠償とを求めて訴えを起こした。
原告は、懲罰的損害賠償を求めず、填補損害賠償だけを請求している。
原告の家は、被告電力会社の送電線に取り囲まれており、その電磁波のレベルは、通常の送電線による電磁波曝露の最大15倍にまで達していた。
原告及び被告の専門家証言では、同家の様々な場所における電磁波の強さは、24.91ミリガウスから40ミリガウスにわたるものであった。
原告は、その過失に基づく主張において、被告会社は、少なくともMalloryが受胎した1986年以後、高圧送電線によるこのような強度の電磁波に曝露することで、小児ガンが引き起こされることを知っていたか、あるいは、知っているべきであったとして、このリスクに関して、原告を含めた顧客に対して通知・警告する義務を怠ったと主張した。
また、原告は、その準備書面において、被告会社の電磁波問題に関する広報活動が非常に不適切であったとする主張を行った。
原告は、事実的因果関係を立証するために、非常に詳細な医学的証拠を提出し、かつ、電力会社が電磁波の強さを減らすために用いることができた様々な技術に関する証拠を提出した。
この過失に関する詳細な議論とは対照的に、私的ニューサンスに基づく主張は、わずかしか展開されなかった。
陪審は、原告に対する過失、私的ニューサンスに基づくいずれの主張も認めない評決を出し、裁判所はこの訴えを却下した。
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特に電磁波環境訴訟については、困難な場合が多い。
なぜならば、一部の法域において、被告による侵害は可視的なもの(可視基準)、あるいは一定の体積を持つたものよる侵入でなければならない(特定体積基準)とされているためである。
このような法域にあっては、物的実体のある侵害が存在しない場合には、原告の所有する不動産に対する侵害は、成立しない。
このため、いくつかの判例では、光、振動、あるいは騒音を他者の土地に対して侵入させたとしても、不法侵害は成立しないと判示されている。
この立場は、伝統的な判例法理を踏襲したものと言えよう。
その一方で、一部の法域においては、その侵害が、ガス、粒子、波(waves)などの不可視なものや一定の体積を持たないものであっても、これらが他者の所有する土地の上に進入した場合には、不法侵害の成立を認めるリベラルな立場をとる判例も存在する。
このような立場を明示した判例として、オレゴン州最高裁によるMartin v・Reynolds Metals Co判決が著名である。
この事件では、被告のアルミ精製プラントから発散した目に見えないフッ素化合物が原告の牧畜場に蓄積されたことが不法侵害を構成するか否かが主たる争点となった。
被告は「特定体積基準」を満たさないすべての侵害はニューサンスであって、不法侵害を構成するものではないと主張した。
裁判所は、不法侵害における侵害要件を「当事者の排他的所有に関する法的に保謎された利益に対するいかなる侵害をも含むものであって、当該侵害が、それが可視的・不可視的なものか、あるいは、物理学者による数学的表現によってのみ計測可能なものであるかは問題とならない」と判示した。
このように、マーティン判決が可視基準と特定体稲基準とを否定し、不可視的不法侵害の成立を認めた理由のひとつは、すでに粒子やその他の目に見えない作用物に関して不法侵害を認めた判例が存在したためであるが、近年の不法侵害訴訟では、このように可視基準や特定体秋基準によらない考えに沿った判例も多数も存在している。
被告は、一定の物理的大きさをもったものだけが、不法侵害における対象物として認められるため、本件は、不法侵害訴訟における6年間の出訴期限ではなく、ニューサンスの場合の2年間の出訴期限が適用されるべきであると抗弁した。裁判所は、この主張を否定して、「本裁判所は、その対象物の大きさよりも、そのエネルギーあるいは力に焦点をおくものとする」と判示した。
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5.アメリカ法の「不当侵害、ニューサンス」に関する解説
「中央大学 教授 (総合政策学部) 米国弁護士 (NY州)平野 晋 による
アメリカ不法行為法(Torts)の研究および教育用サイトです。」からの引用です。
http://www.fps.chuo-u.ac.jp/~cyberian/torts-chapter_III_(intentional%20torts).html#nuisance
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「土地への不法侵害」は、土地の「占有権」の排他性を保護法益とする。
その点に於いて、土地の「使用・享受」を保護する「nuisance」(ニューサンス:生活妨害)と区別される。
たとえば「土地への不法侵害」は他人が許諾なく土地を横断した場合であり、「nuisance(ニューサンス)」は騒音で隣人を悩ました場合である。
第八節 Nuisance(ニューサンス)(生活妨害)
「ニューサンス」(nuisance)の典型事例は、隣地の被告の運営する家畜飼育場からの悪臭や、空気や水の汚染により、近隣の土地に居住する原告が権利侵害を受けたと主張するものである。損害賠償を請求するのみならず、当該活動の差止を求めるインジャンクション請求が伴う場合も多い。
即ち「ニューサンス」とは、近隣の土地使用および享受に於ける利益へのアンリーズナブル(理不尽)な侵害である。
その特徴は、通常、隣人同士の間に於いて、一方当事者が土地や空気や水等への金銭化し難い執着を有し、他方当事者の活動は社会的に高い社会的価値を伴っている中で、衝突が生じる。
そのような「混雑した社会」に於ける不可避的な衝突に対し、多様な規範観によって判断も様々になり得る。
裁判所は、被告の行為がニューサンスに該当するか否かを判断する際に、過失の認定のように、沢山の諸要素を秤に掛けて衡量する。
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