IH調理器の使用に関するスイス官庁の報告書

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スイス連邦公衆衛生局                 日本語訳;201117

 

Federal Office of Public Health (FOPH)の報告書を日本語訳した。 仮訳です。関心のある方は英文の原文を読んでください。

 

電磁調理器とは

 

電磁調理器は早く調理でき、エネルギーを節約する。その利点により営業用のキッチンで長く使用されてきた、そして、家庭用キッチンでの使用も一般化してきている。
電磁調理器で食材を調理するのに必要な熱エネルギーは中間周波数磁界により発生する。

これらの磁界は鍋の底に浸透し、鍋と食材を熱する電流を誘導する。磁界の一部は鍋で吸収されず、調理機器のすぐ近傍で磁界は発生するかもしれない。

 

電磁調理器から発生する磁界が健康被害を示すかどうかはわかっていない。
これらの磁界は電磁調理器の正しい使用によって軽減可能である。
最良の結果を得るために、次の助言が助けになる。

 

・調理ゾーンのサイズに合う適切なサイズの調理器具(訳者注;鍋など)を使用すること。

つまり、広い調理ゾーンには小さな鍋を置かず、調理ゾーンが完全に覆われる鍋を使用する、また、調理ゾーンの中央に常に鍋を置くようにする。

・鍋が支障なく加熱できたとしても、歪んだり、曲がったりしたような変形した鍋は使用してはいけない。

・調理機器から鍋に効率よくエネルギーが伝えられる、特別に製造された鍋を使用することはきわめて重要である。
そうした鍋には製造業者が電磁調理器に適したことを示すラベルを貼っている。
使用する最適な鍋は電磁調理器と共に提供されたものである

・あなたの体と調理機器の間を510cmの距離を保つことで磁界の曝露をかなり軽減可能である。

・漏洩電流があなたの体へ流れるのを防ぐために、金属製の調理スプーンを使用してはいけない。

・心臓ペースメーカーもしくは埋め込みの除細動器を装着した人は電磁調理器を使用する前に医師と相談すべきである。

詳細な解説

 

電磁誘導は電導性部材を加熱する手法として、工業的に長年、幅広い分野で使用されている。
この原理が家庭内で熱源として最初に使用されたのが電磁調理器である。
熱は鍋で直接発生し、従来の調理器のように熱を調理ゾーンから鍋に伝導させることはない。

電磁調理器は反応時間が速く調理が速く、そして調理時間が短い上に、発生した熱のエネルギー節約になり、熱い調理ゾーンがないためにやけどや火事の危険性が低い。

 

1.技術的情報

 

周波数は20kHzから100kHzである。

出力は7.5kWまで

 

電磁調理器の原理

電磁調理器は各々の調理ゾーンの下に中間周波数交流(20100kHz)を流すコイルがある。
これは調理機器がセラミックカバーで遮られることなく通過し、調理ゾーンに置かれた鍋に浸透する磁界を発生させる(図1)。
磁界は電気伝導性の鍋の底にぐるぐる回る電流を発生させる(渦電流)。
この原理は誘導と呼ばれる。鍋の底は金属性で、使用周波数で、渦電流による熱損失が可能な限り高いもので作られる。
これは強磁性金属で可能となる。
これらの材料では交流電磁界は鍋の表皮の部分に集中する(表皮効果)。
その部分は材料の中でも抵抗が大きい部分であり、より多くの熱が発生する。

鍋の底に浸透した交流磁界は、磁化と脱磁化を繰り返し、付加的な熱を発生させる(ヒシテリシス損失)。

 

1.誘導コイル  2.温度センサー  3.熱的な絶縁

4.ガラス・セラミックプレート  5.操作指示部

6.強磁性材の金属鍋の底  7.交流電磁界

 

漏洩磁界

誘導により鍋に捕捉されない磁界はstray fields(漏洩磁界)と呼ばれる。
それは調理ゾーンが鍋により完全に覆われない時にしばしば発生するといえる(3)。
鍋底のうず電流は調理機器によって発生する磁界と逆向きの磁界を発生させるので、調理機器とstray fieldsによって発生した磁界は結果として両方ともに弱められる。

 

漏洩電流

誘導コイルと調理ゾーンに置かれている鍋はコンデンサーを形成する。
誘導コイルのスイッチをオンにすると、鍋には電荷が充電する。
もし、鍋に人が触れるならば、微小電流(漏洩電流)が人体に流れるだろう。

 

典型的な出力

家庭で使用するために設計された装置は通常4つに調理ゾーンがり、それぞれ1,200から3,600Wの範囲の種々の出力である。
組み込み型の調理器の総出力は約7,500Wである。
各調理ゾーンは調理時間を早めたり、水を早く温めたりするために出力を、一時的に増すことができる(ブースター機能・電力機能)。

 

加熱電力の制御

加熱電力は磁界の性質に影響を及ぼす種々の方法で制御することができる。一般的な方法を以下に示す。

 

・交流電流の周波数を使っての制御:電磁調理器は共鳴周波数で最大電流を流すことができる電気振動回路で構成される。
もし、周波数が共振周波数からずれるならば電流と出力の両方で減少する(例:17.5kHzが共振周波数で最大出力の場合、41.7kHzでは最大出力の4分の1になる。)

・パルス振幅変調を用いた制御:より低い調理電力に設定した場合、出力は周期的な磁場のスイッチのオンとオフで制御する。
典型的な例では毎2秒に1パルスを出力し、選択した出力に従ってパルス持続時間を変える。
結果としての発生する磁界は0.5Hzの周波数のパルス磁界ととなり、パルス幅は変化する。

 

2.曝露:漏洩磁界

 

FOPHにより委託された本研究では、4つの調理ゾーンがある2種類の組み込み型調理器(調理器1、調理器2)と、1つの調理ゾーンを持つ可搬式調理器(調理器3)で、漏洩磁界が測定された。

電磁調理器のための現行の規格では、ICNIRPにより推奨された参考値に適合しなければならない。
調理ゾーンの上に、調理ゾーンを十分にカバーするだけのサイズの鍋を、中心も合わせて置いた時、30cmの距離で6.25μTというものである。
測定した全ての機器は、この要求事項に適合していた。

しかしながら、日々の使用において、このような状態で使用されることはないだろう。
複数の調理ゾーンを同時に使用したり、使用する鍋が適当でなかったり、さらに調理ゾーンの中央に鍋を置いていない場合の、磁界の大きさの変化も調査しなければならない。
現実的には調理機器から少なくとも常に30cm離れているとは限らないので、ガラスセラミックス調理ゾーンの端から130cm離れた場所の磁界を測定した。
これは特に妊婦、子供および身長の低い人々の使用に対応する。

 

同時に複数の調理ゾーンを使用した場合

複数調理ゾーンを同時使用した場合、調理機器の前面に生じる磁界は、1つだけの調理ゾーン使用時に発生する磁界よりもより大きいというわけではないことを測定の結果、わかった。

 

適切な鍋 対 不適切な鍋

調理ゾーンの中心に合わせて置いた適切な鍋と、不適切な鍋を使用した場合で、測定を行った。

 

・適切な鍋:電磁調理器での使用に適したもので、かつ、その直径が調理ゾーンと同じである。

・不適切な鍋:電磁調理器での使用に不適切なもの、もしくは、その直径が調理ゾーンと同じでない。

不適切な鍋使用で測定した漏洩磁界は、適切な鍋を使用した場合の測定値よりも3.5倍までと、大きかった(図2)。

 

2:調理ゾーンの中心に中心を合わせて置いた適切・不適切な鍋を使用した時に、1cmから30cmの距離で、磁界を測定した。

 

鍋の中心を調理ゾーンの中心に合わせるか 合わせないか

鍋を調理ゾーンから取り外すと、IH電磁調理器は自動的に電源が切れる。
正確に中心に鍋を置いた場合と、鍋を中心からずらせるが、電源断にならないぎりぎりの状態までずらした場合に、磁界の比較測定を行った。
3は、同じ鍋を使用して、中心位置をずらした場合の磁界値で、5倍までの増加を示す。

 

3 適切な鍋で、中心を合わせた場合と、中心をずらした場合の、距離130cmにおける磁界値

 

適切な鍋で中心を合わせた場合と 不適切な鍋で中心を合わせなかった場合

4に適切な鍋で中心を合わせた場合と、不適切な鍋で中心を合わせなかった場合(最悪の条件)の磁界値の比較を示す。
規格に定められた使用方法での漏洩磁界値に比べると、最悪条件では9.5倍に達するような増加である。

 

4 適切な鍋で中心を合わせて置いた場合と、不適切な鍋で中心を合わせなかった場合の、距離130cmでの磁界測定結果

 

漏洩磁界の距離による変化

測定対象とした調理ゾーンに、よりも近づくと漏洩磁界はより大きくなる。
30cm
の距離ではICNIRPによって推奨されている6.25μTの参考値にすべての供試機器が適合していた。
調理ゾーンの前縁から1cmでは、大部分の供試機器では漏洩磁界は参考値を超える。
鍋が中からはずれたところに置かれた場合は、漏洩磁界は、適切な鍋の使用時では112cm以内の距離で、不適切な鍋の使用時では120cm以内の距離で参考値に達してしまう。
すべての測定は最も高い電力に設定した調理器で行われた。
1cm
の距離は日常の使用では起こりえないが、最悪のケースのシナリオとして提示する。
測定結果では、現実的には起こり得ると考えられる距離である少なくとも510cmの距離で、適切な鍋が正しく使用される(適切な調理器、調理ゾーンの中心に合わせて置く)時には、ICNIRPの参考値を超えるものはなかった。

 

3.健康への影響

 

今日まで、電磁調理器の健康への影響の専門的な研究は行われていない。
電磁調理器によって発生するこの種の中間周波数磁界は人体を透過し、体内に電界と電流を誘導する。
非常に強い誘導電流は中枢神経系を刺激する。
ICNIRP
の暴露限界は中枢神経を刺激する閾値の50倍小さい電流のみを認めている。
急性影響はICNIRPが推奨する閾値を遵守することによって防止することができる。
あなたは“健康被害と防止”の項に記した情報を見ることによって、ICNIRPが推奨した閾値の遵守を担保できる。

WHOによれば、中間周波数の磁場が健康への長期間の影響を及ぼすとの確たる証拠はない。
しかしながら、この周波数の範囲を研究したもののいくつかは出版されていることに注目する(訳者注:原文の英文はfewとあるが、この節の全体の文意からa few aが抜け落ちたものと想定して翻訳した)。
中間周波数で行われた動物実験の数少ない研究から、結論を導くことはできない。
人を対象とした研究の大半はコンピューターのモニターによるリスクの研究であり、健康への影響を確認することができない。
こうした研究を外挿する形で、IH調理器に適用できるかは、わからない。
なぜならば、それらの機器では、放射する電磁界と磁界の大きさが共に異なるからである。

 

埋め込み電子装置への影響

いくつかの研究では電磁調理器による埋め込み型電子装置への影響を見ることができる。
電磁調理器によって発生する漏洩磁界が、近接した埋め込み型電子装置、それも単極型の心臓ペースメーカーへの影響すること排除することはできない。
単極型心臓ペースメーカーに漏洩電流が影響することを心に留めておくべきである。
単極型心臓ペースメーカーを装着した人々は、長時間鍋に触れないことや調理中に金属性スプーンを使用しないようと、推奨を受ける。
埋め込み電子装置を装着した人々は手順書に記載された安全アドバイスを読むことは当然であり、電磁調理器を使用する前に医師に相談すべきである。
もし、電磁調理器が正しく使用されているのであれば、埋め込み型電子装置が障害を受けるのは極めて低いように思える。

 

4.法規制

 

電磁調理器はスイスでは、低電圧装置に関する指令によって規制を受けている低電圧装置である。
この法規制は、正しく使用された時、予知できる正しくないやり方で使用された時、予知された故障が発生した時、人や物体に危険が及ばないことを要求している。

また、ヨーロッパの低電圧指令の本質的な健康と安全性への要求に従うならば、低電圧装置は市場で販売することができると、規定している。

低電圧装置の製造者は市場に出す前に、適合宣言書を得なければならない。
適合宣言書には本質的な要求に適合している旨の記述がある。
個々々の製品に対する本質的な要求事項は技術標準に記載されている。
家電製品から漏洩する電磁波に関しては、EN62233の記載事項に適合していなければならない。
対応する適合基準はICNIRPによって推奨される限度値である。

製造会社は装置が適合基準に従っていることを保障する責任がある。
スイスには、市場の包括的な監視システムはない。
管理権限官庁は、市場の製品をランダムにサンプ抽出し、法規制に適合しているかを検査する。

 

文献:翻訳を割愛

改訂の最終年月日:2009121

連絡先:翻訳を割愛