電力線搬送通信PLCに関連する人体影響に限定して、情報を集めてあります。
記:2013年5月16日
IT media のWEBにあった内容から一部を引用する。
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特集 ソリューション 「エンタープライズPLC」のススメ:
PLC電磁波漏えい問題で聞こえる「慎重派」の声
PLCの普及促進で最も大きい障壁となり得るのが、電力線から漏れ出る電磁波の問題。
ルール(法規制)にのっとってクリアしたはずの問題の火種は、まだくすぶっているようだ。
2007年02月28日 08時00分 更新
電磁波の漏えいを規定するコモンモード電流
このように、さまざまな議論を経て実用化にこぎつけた高速PLCだが、実は解禁後の現在もアマチュア無線家らが中心となって、高速PLCの事業認可の取り消しを求めて行政へ訴訟を起こすなど、各所において争論が続いている。
すでに指摘されているように、漏えい電磁波の問題についてはPLC推進派と非推進派双方の考えに大きな食い違いがあり、いまだにその溝は埋まっていないようだ。
高速PLCによって漏えいする電磁波は「コモンモード電流」の許容値によって規定されている。
とはいえ、一般にはコモンモード電流という言葉自体があまり聞き慣れないものだ。コモンモード電流とは一体何であろうか。
一般家庭では、電力線が電柱から家に引き込まれ、宅内の分電盤につながっている。
分電盤は機器や部屋ごとに分岐しているが、さらにその線の先にも分岐があり、スイッチやコンセント、照明などの電気機器につながっている。
電力線上には交流が流れているが、高速PLCでは2M〜30MHzという高周波数信号を交流に重畳して通信を行う。
このような状況では、電力線上を前述のコモンモード電流が流れ、電磁波が発生してしまう可能性があるという。
電源と電気機器を電力線でつなぐと、通常、電気は電源から1周してから戻ってくる。
ところが、図2のように2本の電力線で同じ向きの電流が発生してしまうことがある。これがコモンモード電流である。
図2:コモンモード電流の発生原理。
電源と機器の行き/戻りの信号線のバランスが悪いと、コモンモード電流が発生しやすくなる。
例えば、地面との間に接地(アース)などを通してループが形成されると、同じ方向に電流が流れてしまう。
電流の方向が同じだと電力線が大きなアンテナとなり、電磁波が漏れ出す
コモンモード電流が発生する原因は、家庭内の配線の平衡度が崩れることに起因する。
宅内で片方の配線だけにスイッチが入っていたり、地面との位置関係などが違うと、行きと戻りの信号線のバランスが悪くなったり(平衡度が小さくなる)、コモンモード電流が発生しやすくなる。
例えば、地面との間に接地(アース)などを通してループが形成されると、同じ方向に電流が流れてしまう。
通常は2本の電力線を流れる電流の方向が逆のため、発生する磁界は相殺されるが、コモンモード電流では方向が同じなので、電力線の周囲には磁界と電界が発生する。
そして、電力線が大きなアンテナとして働き、電磁波が遠くまで漏れ出てしまうことになる。
もともと電力線はシールドされていないため電磁波が漏れやすいのだが、これが同じ周波数帯域を使う無線通信にとってノイズ源となり、ほかの通信を妨害する恐れがあると懸念されているのだ。
もちろん、こうした漏えい電磁波の問題に対し、高速PLC推進ベンダー各社でもさまざまな対策を練ってきた。
コモンモード電流の発生原因は電力線の状況だけでなく、PLCモデムの性能にも依存する。
したがってベンダー各社は、PLCモデムに起因するコモンモード電流を規定値に収め、なおかつ万が一何か問題が起きた場合に備えて、PLC信号を搬送するサブキャリアの特定周波数をカットできるようにノッチを入れるなどで配慮している。
例えばパナソニックコミュニケーションズが発売するPLCモデム「BL-PA100」では、現在アマチュア無線と短波放送の周波数帯にノッチフィルタを入れて、影響が出ないよう工夫されている。
とはいえ、前述のように宅内に張り巡らされた電力線は建物ごとにさまざま。
さらに照明のオンオフなどによっても配線長は変わってしまう。
運が悪ければ家屋自体が大きなアンテナになる可能性もあり、特定周波数の電磁波を放射する可能性もある。
将来的に高速PLCモデムが広く普及してくると、ほかの無線通信に対してどのような影響を与えるか、まだよく分からない状況である。
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電力通信の場合、家庭内の配電線に高周波の電力が電送され、それによる人体暴露はどうなるか?
10MHz以上30MHzまでの帯域に限定されるのであれば、20mW以上の電力を電力線に入れない・・・で、基本制限に合致させることができますが、電力線に電送される電力は20mW以下云々と規定されるのでしょうか?
いずれにしても10MHz以上は何とか論証・対応が可能かもしれません。
しかし、2-10MHzの帯域は 如何にして人体影響がないと論証できるのでしょうか?
作成:2005-12-29 このページに一部を修正して公開:2013-5-16 一部を修正・加筆:2014−2−2
PLC電力線搬送波通信において、10MHz以下は電力線近傍の電磁界強度を評価する必要がある。
2005年10月に総務省から発表されたPLCに関する研究会報告によれば、電力線に高周波電流を流すことによって輻射する電磁界がアマチュア無線や短波放送受信に影響しないように、EMCの観点から輻射を規制する案が提案されている。
この提案の論拠によれば、電力線は2本の線から構成されているが、電磁界の輻射に寄与するのはこれらの電線に流れるコモンモード電流であるとしている。
そして、コモンモードによる電磁界輻射の程度を、電力線を単線と見なし、そこに1mA(定在波が発生するので最大値)の電流が流れた場合の輻射電磁界強度をモーメント法によって計算し、遠方界の電界強度を算出した。
遠方界の電界強度から、他の通信への妨害を与えないレベルを勘案して、PLC電力線搬送波通信では、コモンモード電流を平均値では20dBμA=10μAとした。
そこで、PLCに関する研究会報告では触れていないことであるが、PLC通信が行われている電力線に近傍に人がいた場合の、電磁界曝露のレベルを推定する為に、近傍界の解析を、EZNEC+という解析ソフトを用いて、行ってみた。
以下のBEMSJの計算では、周波数は6MHzで代表させ、長い単線電線に10μA最大の電流が流れたとした時の、電線近傍の電界・磁界強度をモーメント法(EZNEC+)で計算した。
条件1:
・解析空間はFree Space;周囲に何もない条件
・周波数 6MHz 波長
50m
・放射エレメントは X=Y=Z=0 から Y=Z=0
X=50m まで X軸上に配置
・放射エレメントの直径は 0.01mmに設定
・解析のセグメント数は1000に設定
・給電点は原点に近く、X=5cmの第1セグメント (0.05% from End) ということからモノポールアンテナとして解析
・給電点のインピーダンスは6668-J224000オーム
・入力電力は 0.01μW
・以下の解析にあるようにエレメントに流れる最大電流は約10μAである。
Z=10cmの地点で、X軸上にあるエレメントからの電界・磁界強度を計算した。
あわせて各セグメントの電流もグラフに加えた。
電線に沿って、電線から10cmの距離では、以下のような電界V/mと磁界A/m、そして空間インピーダンス(電界/磁界 単位オーム)となる。
紫線が電界、青線が磁界、そして茶線で空間インピーダンスを示す。
近傍界と言うことで、空間インピーダンスは377オームという一定の値はとらず、場所によって大幅にインピーダンスは異なる。
従って、電界の測定値を単純に空間インピーダンス377オームとして磁界に換算することはできない。
電界は電界プローブで測定を行い、磁界は磁界プローブで測定を行う必要がある。
距離1cmでの空間分布は、距離10cmでの電界強度、磁界強度の10倍となっている。
位置が電界最大、磁界最少の地点での距離減衰特性を示す。
10m程度の距離までは距離に逆比例して減衰し、遠距離では距離の二乗に逆比例して減衰することがわかる。
給電点付近での乱れを除けば、
1cmの距離でも 電界は0.1V/m程度、磁界は0.16mA/m程度である。
ICNIRP 1998年ガイドライン 30MHzで磁界曝露規定値73mA/mに比較して十分小さい。
電源コードに高周波電流がのり、定在波が立ち、電界のピーク点と磁界のピーク点が異なることには留意が必要。
PLCからのコモンモード電流が100μAと規定値を大幅に超えたとしても、近傍の電子機器への影響はほとんどないと、推定できる。
PLC通信におけるスペクトル分布がわからないが、複数のスペクトラムがあり、それらの電界・磁界が総和されたとしてもICNIRPの参考レベルには十分 合致すると思われる。
条件2:
・周波数を30MHzに変更
・給電点インピーダンスは4547−J45950オーム
・入力電力は0.01μWで一定、 その為にアンテナ電流は最大 8.5μAと 約10μAである。
結果を以下に示す。 電界強度のみのデータを示す。
周波数を30MHzに代えても、給電点付近の乱れを除けば、10cmの距離で5mV/m最大となり、格別大きくはなっていない。
このグラフでは、縦軸を対数ではなく、平等目盛にした。
電線に流れる正弦波電流に応じた形の電磁界が発生していることが判る。
条件3
・周波数を6MHzに戻す。
・解析空間を、Perfect Ground(完全導体面)上、1mの高さに、50mの長さのものモールアンテナを水平に配置する形に変更
・この変更で、給電点のインピーダンスはこれにより 給電点のインピーダンスは2773-j266300とインピーダンスが下がった。
・そして、電流の最大値を同じく約10μAにするためには 入力電力を一桁小さい0.001μWとした。
電界分布のみを計算した。
以下に結果を示すが、電界の最大値は0.020V/m と若干大きくなった。電線からの距離は10cm。
参考: 2005年12月のEZNECでの計算
EZNECは解析能力に限界があり、それを改善したのがEZNEC+というソフトであるので、2014年2月の解析結果の方がより正確と言える。
赤線が電線上に流れる電流、この電流に比例して緑線の磁界が発生、黒線は電界を示す。
長い電線がアンテナとなっているので、定在波が立ち、電線から同じ10cmの距離でも、場所によって電界と磁界の大きさが異なる。
磁界の最大値の地点では電界が最小値となり、磁界が最小値の地点では電界は最大値となる。
コモンモード電流を10μA(平均値)に規制した場合、
電線から10cm離れた空間における電界と磁界強度はかなり低く、人体防護の観点からは楽観視してもよさそうである。
電界強度は最大で8mV/m
磁界強度は最大で16μA/m =20×10-6μTである。
作成:2008-2-29 編集してこのページに公開:2013−5−16
1)PLCが認可されるか否かの論議が行われていた2006年に、BEMSJは、規定値として提案されていたコモンモード電流値であれば、電源配線の近傍に人がいても、人の電磁界曝露は微量であり、問題視する必要はない、と考えた。
PLCモデムから放出されるコモンモード電流値は最大で10μAであり、このコモンモード電流が流れる電線から10cmの距離における電界強度は8mV/mであり、磁界強度は20×10-6μTであった。
これはICNIRPの10MHzにおける参照レベル 27.5V/m、0.092μTの規定に対して、十分に低い値であり、仮に複数の周波数成分の総和を考えるとしても、それでもまだ十分に低い値にとどまると考えた。
2)しかし、昨日、偶然にも、以下の2件の研究成果(2007年に行われたEMCJでの発表、ともに東京外での開催なので、BEMSJは聴講もしていないし、予稿集も入手していなかった)がEMCJのサイトに、アブストラクトだけは公開されていたことを知った。
気になったのは、以下の発表に含まれている「モデムから注入したコモンモード電流を20dB以上も上回るコモンモード電流が屋内配線に流れること」という短い文章である。
漏洩電磁界強度が背景の周囲雑音レベルを超えるか否かに関しては、BEMSJは関知しない。
講演抄録/キーワード |
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講演名 |
2007-09-21 14:25 |
抄録 |
我が国の広帯域電力線搬送通信設備(PLC)の技術基準は、短波帯ではPLCモデムを特定の条件のISN(LCL=16dB, DMZ=100Ω, CMZ=25Ω)に接続したときのコモンモード電流の許容値のみを定めている。 |
文献情報 |
信学技報, vol. 107, no. 226, EMCJ2007-49, pp. 37-42, 2007年9月. |
資料番号 |
IEICE-EMCJ2007-49 |
講演抄録/キーワード |
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講演名 |
2007-10-25 09:35 |
抄録 |
我が国の広帯域電力線搬送通信設備(PLC)の技術基準は、コモンモード(CM)電流の規制によって漏洩電界を離隔距離10mで周囲雑音以下に抑制するとしていたが、実際には周囲雑音を20dB以上上回る漏洩電界を発生する。 |
文献情報 |
信学技報, vol. 107, no. 278, EMCJ2007-53, pp. 1-6, 2007年10月. |
資料番号 |
IEICE-EMCJ2007-53, IEICE-MW2007-100 |
3)もし、PLCモデムから放出されるコモンモード電流値は設定された測定条件下では10μAであるが、実際の配電線上では20dB(電流比であれば10倍、電力比であれば100倍、どちらであるか?原著を読んでみる必要がある。ここでは最悪を考えて100倍とした)のコモンモード電流が流れる(配電線の不平衡によって、より大きなコモンモード電流が発生する)とすれば、単純計算で、この1000μAのコモンモード電流が流れる電線から10cmの距離における電界強度は800mV/mであり、磁界強度は2000×10-6μT(0.002μT)となる。
これはICNIRP(1998年のガイドライン値)の10MHzにおける参照レベル 27.5V/mに対して2.9%であり、0.092μTの規定に対して2.2%である。
単一の周波数であれば、まだ十分に低い値である。複数のスペクトラムを総和して考えると、さて、どうなるか?
上記の研究では「20dB以上」と表記しているので、「以上」の程度によっては参照レベルへの適合比はさらに大きくなる。
複数のスペクトラムとして、総和を考えるとどうなるか?
PLCモデムの通信方式は周波数拡散方式などであり、単純ではないので、BEMSJには細かい検証ができない。
複数の周波数(この周波数帯域は周波数によって参考レベルが変化している)が存在するとして、総和を考えても大丈夫であると、検証しておく必要がある。
10MHz以上の周波数帯域に限定すれば、ICNIRPの基本制限を利用して、PLCモデムから送出される高周波電力は20mW以下であると、もし、証明できれば、10MHz以上の周波数帯域に関しては、適合宣言が可能になる。
以下の研究報告がある。
一部のみ引用して紹介する。
掲載誌:信学技報 EMCJ 2006年6月
タイトル:屋内電力線通信における漏洩電界の測定
研究者:石原正裕ら
この研究では、PLCから漏洩する電磁波を3mの距離で測定している。
電力線に接続された各種電子機器をON・Offすることによって、電磁波の漏洩が異なることを示している。
関心のある方は、原著を読んでください。
スイス連邦政府によるPLCからの電磁界輻射量の測定報告書が刊行されている。
OFCOM
November 2004
Home Plug Modem 4.5 – 21 MHz
Assessment of the EMI radiated by PLC installations inside buildings
In-situ measurements carried out in the Swiss city of Solothurn
この報告書では、以下に示す結果が報告されている。
上の図 Fig 3 はPLCが設置された家の、家の中での電磁界測定結果である、緑の点がPLCの無い時に背景に存在しているノイズ成分であり、紫の点が、PLCからの輻射による電磁界である。最大で80dBμV/mとあるので、10mV/m程度の電磁界がPLCから輻射されていることが判る。
上の図Fig.17は、PLCが設置された家の、家の外での電磁界の強さで、家から3mの地点、10mの地点、20mの地点での測定結果をしめしている。
3mの地点での電磁界強度は、60dBμV/mを超えていない。 すなわち、1mV/mを超えてはいない。
関心のある方は、スイス政府の報告書原文を読んでください。