*『バイオイニシアティブ報告書』に関する情報コーナ


   研究のトップへ戻る


20078月に発表された報告書に関する情報コーナです。
ちょっと量がおおいので、独立したページに設定しました。

1.バイオイニシアティブ報告書の概要
2. バイオイニシアティブの提案 高周波電磁界を総量として0.1μW/cm2(電界強度で0.6V/m)に規制しようとした場合の問題点
3
バイオイニシアティブの高周波曝露規定案0.1μW/cm2に関する検証
4
バイオイニシアテォイブの報告を欧州環境庁EEAが推奨している?
5. バイオイニシアティブ報告を欧州議会が推奨している?
6
さまざまな機関でのBio-Initiative Report の評価
6A
オランダ評議会による評価
7
誤って伝えているバイオイニシアティブ報告
8.裁判でバイオイニシアティブ報告が認められなかった事例
9.バイオイニシアティブ報告の2012年版刊行


 

 

 

---

 

1.バイオイニシアティブ報告書の概要

 

2007831日に『BioInitiative Report: A Rationale for a Biologically-based Public Exposure Standard for Electromagnetic Fields ELF and RF)』(バイオイニシアティブ報告書:生物学にもとづいた高周波ならびに超低周波の公衆被曝基準のための理論的根拠)が発表された。

この報告書の作成にあたったバイオイニシアティブ・ワーキンググループは、14名からなる電磁波の人体影響の研究や公衆衛生の政策に関する専門家であり、その中には、C.F. BlackmanBioelectromagnetics Societyの創設者、米)、Michael Kundi(オーストリア)、Henry Lai(米)、Lennart Hardell(スウェーデン)、Denis Henshaw(英)といった学者や長年『Microwave News』という情報誌を発行してきたLouis Slesinというジャーナリストらが含まれている。

報告書の全文は以下のサイトからダウンロードできる。
http://www.bioinitiative.org/index.htm

通常のこの種の提言・報告書は作成に参加した学者などがお互いに論議を行い、その結果として、合意文書の形にまとめられる。
このバイオイニシアティブ報告書の場合は、大きく異なり、それぞれの章が、その章を担当したものによって書かれただけである。

各章を担当する執筆者によって書かれたものを、編集しただけという形である。

冒頭の「公衆のための要約」の部分ですら、執筆:Cindy Sageとなっており、要約すらも一人の執筆者による記述になっている。

以下は、公衆のための要約の中の抜粋である。
**********************    ************
バイオイニシアティブワーキンググループのメンバーの間で意見がはっきりと一致しているのは、超低周波電磁波と高周波の両方に関して、既存の安全基準が不十分でるということである。
**********************   ***********
という記述がある。

それにも拘わらず、以下のような結論が「公衆のための要約」の中の「勧告」として、記述されている。

***********   **************
4.
勧告
A.
超低周波電磁波の新規曝露基準の策定
既存のすべての科学的証拠をもちいた、公衆衛生分析に立脚した、新規の超低周波電磁波基準が要求されていると、本章では結論する。
公衆衛生の見地からみれば、新規の基準がいま必要とされていることはあきらかである。
そのような基準は、小児白血病や、おそらくその他の癌、および神経退化病を増加させることがしめされている、
超低周波電磁波の環境水準を反映したものでなくてはならない。

超低周波電磁波基準は、
小児白血病研究において発症の危険に関連づけられた水準に、追加的な安全因子をくわえたものを、下回る水準に設定されるべきである。
危険と判定された曝露環境に住民をおくような、送電線その他の電力施設を新規に建設することは、もはや許容されない。
その水準は2から4mGの範囲であって、数十mGや数百mGではない。

国際非電離放射線防護委員会の1000mG(アメリカでは904mG)という既存の基準は、あやまった仮定にもとづく時代おくれのものである。
安全緩衝あるいは安全因子が、生物学にもとづく新規の超低周波電磁波基準に適用されるべきであり、危険水準よりも低い安全因子を付加するのが通常の方法である。
新規の超低周波電磁波基準が策定されるまでは、新設あるいは改良された送電線周囲の居住地では1mGの、その他のすべての工事においては2mGの、計画基準を課すのが合理的な方法である。

小児と妊婦(超低周波電磁波への子宮内曝露と小児白血病との関連がうたがわれるので)の居住域においては、1mG規制を確立することも勧告される。
この勧告は、自分で自分をまもることができず、従来の常識からいっても規制をするのに十分なほど高い白血病の危険にさらされている小児に対しては、より高い水準の保護が必要とされるという仮定にもとづいている。
この状況は特に、1mG規制を既存の居住地にまで拡大することを要求している。

ここで「確立する」というのは保健当局の正式な諮問がえられることを意味している。
既存のすべての配電設備を再建することは、短期的には現実的でないが、とりわけ小児が時間をすごす場所では、そういう既存の設備からの曝露を削減することは、奨励され実施されなくてはならない。

その基準は、小児白血病の危険上昇に関連づけられている水準(一般小児で2から5mG6歳以下では1.4mG超)を 反映すべきである。
成人の癌と神経病に関するほとんどすべての職業病研究は、最高水準の曝露を4mG以上としているので、新規の超低周波電磁波基準も、より高い領域でなく、その程度に設定されるべきである。
学校・家庭・職場において、病気の危険上昇に関連づけられる水準の超低周波電磁波への
慢性的な曝露をさけることは、超低周波電磁波に関する文献で言及されている生物活性因子の大部分をも、さけることにつながるであろう。

B.
高周波曝露削減のための
予防的措置の策定

生物学的効果が報告されており、したがって健康への重大な影響も想定される水準の、パルス高周波に人々を長期的に曝露させる、新無線技術の急速な普及が、公衆衛生上の関心事であることは、既存の科学的証拠(17章)をみてもあきらかである。
17
章では、公衆への高周波曝露を縮減するための予防的措置が要請されているという、公衆衛生上の勧告につながった、証拠を要約した。

現在の規制基準を下回る水準の高周波が、細胞膜機能・細胞間情報伝達・細胞代謝・発癌前駆体活性化の変化をひきおこし、ストレス蛋白質の生成を惹起することを示唆する、強力な証拠がある。
おこりうる結果としては、DNA破壊と染色体異常・脳神経を含む細胞の死滅・遊離基生成の増加・脳内麻酔機構の活性化・細胞ストレスと早期老化・記憶喪失を含む脳機能の変化・学習遅滞・運動神経の遅滞その他小児における発達障害・頭痛と疲労・睡眠障害・神経退化状態・
メラトニン分泌の減.・癌などがあげられる(567891012章)。

早くも2000年に、たとえば携帯電話電波塔その他の無線技術による、パルス高周波への意図しない曝露から公衆を保護するために、生物電磁気学の一部専門家は、野外の
曝露基準として0.1μW/cm20.614V/m)を推奨している。
2000
年の
ザルツブツグ決議は、公衆の高周波曝露基準の目標として、この数値を設定した。

それ以降、低出力の無線送信機(無線音声・データ通信アンテナ)の付近での病気と健康障害に関する、信頼できる単発的な報告が多数でている。
その効果には睡眠障害・記憶と集中力の減退・疲労・頭痛・皮膚障害・視覚症状(飛蚊症)・嘔吐感・食欲.振・耳なり・心臓症状(心拍増加)がふくまれる。
携帯電話電波塔水準(推定0.01から0.5μW/cm2)の高周波曝露が、
無線アンテナ施設から数百メートル以内に居住する住民に悪影響をおよぼすとする、信頼できる報告もいくつかある。
このような報告では、現在の連邦通信委員会・国際非電離放射線防護委員会の全身曝露基準を相当に下回る、制限・指針が議論されている。

公衆衛生の見地からみてどれほどの低水準まで考慮せねばならないか、明らかであることは、既存の情報に応答する努力をしなくていい理由にはならない。
高周波による生物学的効果や健康被害の下限は確立されていないので、たとえば無線WLANWI-FIシステムによる潜在的な健康への危険については、さらなる研究が必要とされており、また現時点においては、いかなる水準の無線曝露(
慢性的曝露)においても、確実な安全性は保証されない。

人体の健康に影響しめすと報告された下限は、既存基準にくらべると、移動電話・携帯情報端末では100分の1に、遠距離の携帯電話電波塔やWI-FIWLAN施設では1000分の1から10000分の1にもあたるものである。
安全基準そのものの基礎が問題とされており、いかなる水準の高周波の安全性をも問題視するのも無理なことでない。

携帯電話電波塔・WI-FIWI-MAXその他類似の発生源に適用される、環境無線パルス高周波曝露の警告目標水準が提案されている。
パルス高周波への曝露が公衆に影響しうるところでは、警告目標水準は0.1μW/cm2 0.614V/m)とされている。
この勧告は、証拠にみあったものであり、慎重な公衆衛生政策にも適合するものである。野外の蓄積的な高周波曝露に対しては、0.1μW/cm2の警告水準が適用される。


人々が生活し就労・就学する場所での、パルス高周波(環境)曝露に対して、合理的に適用されるべき、現在の科学と慎重な公衆衛生政策とが、そこには反映されている。
この水準の高周波は、全身曝露として経験されるものであり、携帯電話・ポケットベル・携帯情報端末その他の放射減による音声・データ通信に必要とされる無線通信網が存在するところでは、慢性的曝露をおこしうるものである。
野外の警告基準が0.1μW/cm2ということは、建造物内ではそれ以下の基準、たとえば0.01μW/cm2が適用されるということである。
(略)
******************    ************

---

 

2. バイオイニシアティブの提案 高周波電磁界を総量として0.1μW/cm2(電界強度で0.6V/m)に規制しようとした場合の問題点    


もっとも大きな問題となると思われるのは、中波のAMラジオ放送であろうと思われる。
なぜならば、この周波数帯域は、電界強度がそれなりに大きいからである。
総務省の電波防護指針では30KHzから3MHzでは一般公衆の曝露限度値は275V/m、少し厳しいICNIRPは、3KHzから1MHzの範囲で87.5V/mである。

これらの周波数帯域は、テレビ放送周波数帯域に比べて、許容される曝露電界強度は比較的大きい。
中波ラジオの電波強度の計算式は、総務省電波防護指針で定められているが、非常に複雑で、BEMSJは計算することはできない。

ラジオ放送受信マニアのWEBに以下の情報があった。
http://asaseno.cool.ne.jp/germanium/propagation.html 

*実際の計算例
計算諸元 放送局の諸元が以下であるとき、送信所から30km離れた地点での電界強度を求めよ。
・送信周波数:1MHz
・送信出力:100kW
・送信アンテナ:0.53波長 垂直接地アンテナ

ただし、伝搬路の大地定数は
・大地の比誘電率:10   ・大地の抵抗率を:100Ω・m とする。

*基本電界強度の計算例
完全導体の平面大地上にある0.53波長の送信アンテナからの電界強度は、式(4)を利用して、
電界強度 EmV/m=396 × √PkW)/dkm)   式(4

100kW
の中波送信局から3kmの地点では E=1.32V/m となる。
この1.32V/mに減衰係数をかけた値が実際の電界強度である。

減衰係数の例として、0.5程度がある。 大地の伝導率などで変わる。
よって実際の電界強度はE=1.32×0.5 =0.66 V/m  となる。

これだけでバイオイニシアティブの規定に入らなくなる。
中波ラジオ放送の1放送だけで、3kmも離れていて、これだけの電波強度になっている。


---

 

3.バイオイニシアティブの高周波曝露規定案0.1μW/cm2に関する検証


3-1
.ザルツブルグの最初の提案
最初に0.1μW/cm2という数値が登場するのは多分、ザルツブルグの規定であろう。
この規定は、「オーストリア・
ザルツブルグ州携帯電話中継塔からの電磁波暴露規定」としで提案されたものである。

1998
年の提案文書(英文の原文入手済み)によれば、
・携帯電話に基地局からの電波曝露に限定した規定、法規制ではなく、自主的に行ってもらうガイドラインとしての提案である。
この規定は1996年のMannによる研究、0.05mW/cm2900MHz電波が心電図に影響を与えるという研究を根拠とした。
500
倍の安全率を導入した。長期にわたる影響などまだわかっていないことがあるので、この様な安全率を導入した。
即ち、0.05mW/cm2500分の1の電力密度、0.1μW/cm2を携帯電話中継塔から発信される電磁波(電波)の曝露限度とする。
となっている。

電力密度0.1μW/cm2とすれば、電界強度は0.61V/mとなる。

その後、研究者(Mann)から自分たちの論文がザルツブルグの規制の根拠とされるのは迷惑との苦情があった、とされる。

この電界強度であれば、東京タワーの近郊ではテレビの電波1チャンネル分だけで、1V/m程度もあり、電力密度は0.1μW/cm2を軽く超える。
そこで、ザルツブルグの担当官(
Oberfeld)に確認を取った。

「この規定はザルツブルグ市近郊にあるテレビ等やラジオ放送塔等から発信される電波に比べて弱すぎる、すなわち0.6V/mより強い電波がテレビ塔など発信されて、携帯電話の中継塔からの電波をこのように規制しても意味がないのでないかと」質問をしてみた。

回答は「ザルツブルグ市の場合、テレビ塔は町のはずれにある山の頂上に立っており、市街には大きな電波強度にはなっていない。それらの電波強度は0.0001μW/cm2から 0.01μW/cm2(電界強度で0.19V/m)と十分に低かった。」 という回答であった。

0.0001
μW/cm2は電界強度で0.019V/m、テレビジョン受信機では十分な電波の強さと推定可能である。
ザルツブルグ市内では、テレビ放送の電波は0.01μW/cm2はあることがこれからも明らかである。
この数値は後に述べるザルツブルグの新提案に関連する。

2007
10月、私は家族旅行の中でザルツブルグを訪問した。
家族旅行ということで、測定器などの準備も持参もしなかった。
市内を歩いて、たしかにテレビ塔は郊外の小高い山の上に見えた。

3-2
.ザルツブルグの更新された曝露規定
2002年には、敏感な人々を考慮し、屋外0.001μW/cm2 、屋内0.0001μW/cm2の規制値を新たに勧告した。
この根拠となる主な論文は2002年に発表されたR. Santini et alなどの3論文である。

前述の市内におけるテレビ電波の強度0.01μW/cm2は、この新規定である屋外0.001μW/cm2を超える値である。

このことからも、ザルツブルグの規定は、あくまでも
携帯電話基地局アンテナからの電波に限定している。
テレビ放送も、FM放送も、その他の業務用各種通信も、全て規制の対象とはしていないことがわかる。
本来であれば、人は30-400MHzの帯域の電波をよく吸収する。
この周波数帯域の電波曝露は他の周波数より厳しく規制されているのが国際的な通例である。
したがって、携帯電話の発信周波数よりも、テレビ放送電波などをより厳しく規制するのが筋であるが、ザルツブルグではそうした合理性に基づく判断はなされていない。

また、個々の携帯電話ハンドセットからの電波発信もなんら規制していない。
欧州の携帯電話の無線出力はどの程度か不詳であるが、平均無線電力を250mWとして計算してみる。

携帯電話器の周囲に何もない、手も頭もないと仮定する。
250mW
の電波が360度全方向に均等に発信されるとする。
携帯電話から10mの距離を想定すると、円球面の面積は4*3.14*10*10=1000m2となり、
平均した電力密度は250mW/1000m2=0.25mW/m2=0.025μW/cm2となる。
50m
の距離では電力密度は0.001μW/cm2となる。

これでは、携帯電話基地局のアンテナが自宅の近辺になくても、誰かが携帯電話を持って歩いてきて、自宅の前10mの地点で通話をしたとすれば、屋外の規定値0.001μW/cm2を軽くオーバーしてしまう。
50m
以上離れた地点で携帯電話を使用してくれれば、この曝露規定に適合することになる。

即ち、基地局アンテナからの電波曝露を厳しく規定しながら、移動しながら電波を発信するハンドセットからの電波を全く規制しないというのは、合理性に欠ける、ザル法といわれてもやむをえないことになる。

ところで、ザルツブルグの屋外における携帯電話の電波強度を0.001μW/cm2にするためには、例えば住宅地域に立てるアンテナ塔の地上高はどの位になるか?推定を行ってみる。
想定:電力 P=50W
アンテナの主軸方向の利得 20dBi
アンテナから45度の俯角方向での指向性減衰は-20dBi と仮定する。
給電線などの損失はないものとする。
大地での反射があり、電力密度に対する係数は2.56とする。
この状態で、アンテナから45度の俯角で、地上までの電波強度が0.001μW/cm2になる直線距離Rを計算する。
直線距離はなんと1000mとなる。これよりアンテナの高さは700mとなる。

ザルツブルグにはこのような超高層の携帯電話基地局は見られなかったことから、この0.001μW/cm2の規定は順守されていないと判断できる。

それでは、ザルツブルグの旧規定 電波強度0.1μW/cm2の場合の、同様なアンテナ高さを求めてみる。
計算結果は、直線距離で100mとなり、アンテナの地上高さは70mとなる。
このことは、日本の携帯電話基地局のタワーの高さ40m50mよりも一回り高くした塔にしなければならない。
ザルツブルグでは厳密にはアンテナ塔の高さを測定したわけではないが、さほど高いとは思えなかったので、0.1μW/cm2の旧規定も順守されていない可能性が高い。

3-3
.ザルツブルグにおける実態
諸外国における電波防護規制等に関する調査報告書 平成163月」によれば、
「市民と携帯電話会社とのラウンドテーブル会議方式による1998年の合意は
ザルッブルグモデルとして、パブリックリレーション賞を1999年に受賞した。
しかし、その後携帯電話事業者側は勧告値を受け入れた判断は誤りであったとし、ザルツブルグの勧告規制値を無視し、2001年頃には結局1998年勧告以前の状態に戻っている。

ザルツブルグ州政府はプロジェクトチームを組んで勧告をつくる努力をしたが、携帯電話業界がそれを無視するのはあまり気にしていない。
ザルツブルグの
EMF規制値は勧告であって法的拘束力はないが、今後も市民保護の観点から勧告は続けて行く。
携帯電話業界は、ザルツブルグ州のEMF規制値は厳しくUMTSネットワークを構築できないと言う。これは政治家に対する圧力とも見られる。
これまでも勧告であって強制ではなかったので、実際にマストを設置し、アンテナも取り付けて来ている。」とある。

3-4
.ザルツブルグのもう一つの実態を示す報告書

マイクロウェ-ブ・ニュ-200256月号には以下の記事がある。
「ザルツブルグ基準値の議論活発化
オーストリア・ザルツブルグ周辺の実測測定調査を巡って
このたび、オ−ストリア調査センタ・ザイベルスドルフ(ARCS)とスイス通信局(BAKOMがザルツブルグの携帯中継基地局周辺の高周波無線電波の曝露量を計測した。
ザルツブルグは、高周波基準値「0.1μワット/cm2」でも知られている。
その結果、13地点でザルツブルグ基準値をオーバーした。」

この2002年のBACKOMの報告書は入手済みである。
これによると、実測値は以下の通りである。
測定は、すべてのアンテナは最大出力で作動するとして測定するやり方である。
マイクロウェーブの記事の「13地点でオーバー」は正しくなく、「13地点で測定し、結果として8地点でオーバーした」が正しい。


測定番号

測定地点・住所

最大電力密度

μW/cm2

最大電界強度 (V/m

1

Liefering

0.0356

0.366

2*

Grazer Bundesstrasse

0.2092

0.888

3

Gaisberg

0.00036

0.0368

4*

Vogelweiderstrasse

0.2654

1.00

5*

Ernst - Greinstrasse

0.2368

0.945

6*

Ginzkeyplatz

0.8307

1.77

7*

Gaswerkstrasse

3.9618

3.865

8

Friedhofstrasse

0.0098

0.192

9*

Bachstrasse

0.1048

0.629

10*

Hübnergasse

2.1330

2.836

11

Berchtesgardenerstrasse

0.0915

0.587

12*

Maria-Cebotaristrasse

0.1314

0.704

13

Makartplatz

0.0164

0.248

*:ザルツブルグの規定(0.1μW/cm2)を超えている。

こうした二つの報告書から、現実には、ザルツブルグ州の提案は無視されている、ことがわかる。

これでは、ザルツブルグ州の手法を手本にして、他の国や地方自治体が、まねようとしても、できないことになる。
こうした事情が、1998年にザルツブルグの提案があってから10年経過するが、他に追従する国・地方自治体が出てこない大きな理由なのではないか。

3-5
.バイオイニシアティブの提案の問題点
バイオイニシアティブは無線周波数帯の電波の曝露を、ザルツブルグの旧規定である電力密度0.1μW/cm2(電界強度は0.61V/m)とすることを提案している。
このバイオイニシアティブの提案はザルツブルグの規定のように携帯電話基地局アンテナからの電波曝露に限定されず、全ての無線通信手段が対象となる。
中波ラジオ、短波ラジオ、FM放送、テレビ放送、携帯電話、業務用各種無線通信が全て対象となる。

この電力密度・電界強度が限度値であるとすれば、東京タワーの近郊ではテレビの電波1チャンネル分だけで、1V/m程度もあり、電力密度は0.1μW/cm2を軽く超える。
各地にある中波ラジオ放送局の近辺は、多分、1V/mを超えると思われる。

そうなると、バイオイニシアティブの提案は、実質的に、無線通信を緊急・非常通信の目的以外には使用しない、テレビもラジオ放送も聴かない・見ない、という生活を提案することと同じである。

はい、それでは、皆さん、どうされますか?
バイオイニシアティブの提案によって、電磁波のリスクを回避するために、テレビ・ラジオのない生活を選択しますか?

それとも、バイオイニシアティブの提案まで行かなくても、適切な、生活レベルはあまり落とさずに、電磁波の健康リスクもゼロではないにしても、受容可能なレベルで、妥協しますか?

こういうことを考えると、バイオイニシアティブの提案を、はいそうですか といって鵜呑みするように、受け入れることは困難と思われる。

---

 

 

4バイオイニシアテォイブの報告を欧州環境庁EEAが推奨している?


4-
. 加藤やすこのWEBにあった記述

 

電磁波のリスクを知らせる報告書
20078月、電磁波の生体影響に関する研究で世界的に有名な科学者や公衆衛生の専門家14人からなる「バイオイニシアティブ・ワーキング・グループ」が、独立した立場から電磁波のリスクを評価し、現在の基準値の見直しを勧める報告書『電磁波(ELFRF)の生物学的影響に基づいた公衆被曝基準の論理的根拠』を発表しました。

現在のガイドラインの数千分の一以下や数万分の一以下でも、生体影響が発生しており、「
電磁波レベルを制限する現在の公衆安全基準が数千倍ゆるいのは明らかで、変更が必要だ」と述べています。

欧州環境庁(EEA)もこの
報告書を支持し、電磁波についても、被害を防ぐために予防的対策を採るよう呼びかけています。
バイオイニシアティブの報告書の中から、「一般の人のための要約と結論」<リンク切れ>を訳しましたので、是非、ご覧下さい。

 

以下はその翻訳版

EEA(欧州環境庁)ホームページより
「日常的な装置からの電磁波リスクが評価された」
発表:2007917

人間の健康に関する電磁場の影響について懸念を高める新しい報告が、携帯電話や送電線、日常的な被曝のその他の多くの発生源からの電磁波を規制する強い安全基準を求める。
その報告書『バイオイニシアティブ:電磁波の生物学的影響に基づいた公衆被曝基準の論理的根拠』は、国際的な科学者、研究者、公衆衛生の専門家によるバイオイニシアティブ・ワーキング・グループによってまとめられた。
EEA
は、2001年に出版されたEEAの研究『
早期警告からの遅れた教訓:予防原則 1896-2000』から書かれた章で、この研究に貢献した。

EEAは、アスベストやベンゼン、PCBのような、潜在的な有害性について科学に基づいた最初の早期警告から、続いておこる予防的行動と用心のための行動のために、一般の人々と環境への危険性の選択の歴史を再検討した。
タバコの喫煙とガソリンの鉛のケースは、まさに起ころうとしている。

EEA
は電磁場について特別な専門知識をもたないが、出版物『早期警告からの遅れた教訓』(http://reports.eea.europa.eu/environmental_issue_report_2001_22/en)の公衆危険分析のケーススタディは、長期曝露の有害性の「説得力のある」証拠と、その有害性がどのように起きるのかという生物学的な知識の両方が存在する前に、有害な曝露が広範囲に拡大することを示す。

「過去に、予防原則が行なわれなかった例が多数あるが、健康と環境にとって深刻で、しばしば取り返しのつかないダメ―ジに至った。
電磁波からの、起こりうる可能性がある深刻な健康への脅威を避けるために、今、適切で予防的でふさわしい行動を採ることは、将来の見通しから、賢明で
慎重な回避のように見える。
私たちは、予防がEU環境政策の原則の一つであることを思い出さなくてはいけない」と、EEAのエグゼクティブ・ディレクター、ジャクリーン・マクグレイド教授は言う。

現在の証拠は限られているが、バイオイニシアティブ・ワーキング・グループに従って、電磁場の被曝制限の科学的根拠を問うには十分強い。

出典:http://www.eea.europa.eu/highlights/radiation-risk-from-everyday-devices-assessed

訳:加藤やすこ

 

 

4-2 ガウス通信 90 200841日号 P12
EEA EU環境保護局 
高周波では0.1μW/cm2を推奨 バイオイニシアティブレポート」という見出しで、解説と加藤やすこの訳文を紹介している。

4-3
.ガウス通信 89 2008212日号 P5
EEA EU環境保護局 高周波では0.1μW/cm2を推奨 バイオイニシアティブレポート」という見出しで、解説がある。

4-4
.「BioInitiative EEA」をキーワードに 英語圏のサイトを見たが、特段、EEARecommend云々といっているサイトは見つからなかった。
 200853日のサイトチェック。

4-5
.そこでEEAに電子メールを入れてみた。

以下はその中の抜粋である。

 

To: European Environment Agency

I found following information on your WEB.
>http://www.eea.europa.eu/highlights/radiation-risk-from-everyday-devices-assessed
>Radiation risk from everyday devices assessed
>Published: 17 Sep 2007

I have some question on this information.

Some persons or group in Japan are introducing some information on your statement published 17 Sept. 2007. I feel something misunderstand on them. Thus I will write questions on this issue.

Question: EEA may state that 1
Bio-initiative report was published with some contribution of EEA,
2
precautionary principle is one of selection for environmental exposure, EMF too, not only one method of solution for EMF exposure
3
limit value for EMF exposure is out of scope for EEA due to EEA has no experts in office, even if Bio-initiative report was published with strict limitation. And also exposure limits value for both General Public and Professional is published in EU Directive already. 
This my understanding is collect?

Date; 2008-May-3

質問:EEAは次のことを言いたいのではないか?
1)バイオイニシアティブレポートにEEAはいくつかの貢献をした。
2)予防原則は環境問題のための解決策の一つである。EMF曝露に対する解決策の一つとして
予防原則の選択もある、予防原則だけが解決策ではない。
3)バイオイニシアティブ報告の中に、厳しい曝露規制値が提案されているが、EMF曝露の規制値はEEAの対象外である、なぜならば、EEAにはEMF曝露に関する専門家はいないから。欧州には欧州指令としての職業的・一般公衆のためのEMF曝露規定が存在する。 この私の理解は正しいか? 

返信が来た。 以下はその一部。

Thank you for your query and apologies for the delay in replying which was due to an oversight on my part during a particularly busy period.

In answer to Question, the statements you make are correct.
I enclose a background "Commentary" paper on this issue which may also be helpful.

European Environment Agency,

回答:作成された記述は正しい。


したがって、バイオイニシアティブ報告に記載された厳しい制限値を、EEAでは推奨はしていない。
日本の一部の情報誌やネットにあるのは、誤った情報といえる。

 

---

 

5. バイオイニシアティブ報告を欧州議会が推奨している?


5
1.「20089月、欧州議会は、独立系の科学者組織BioInitiativeの報告書を採り上げ、電磁波規制を厳格化するよう、欧州委員会に求める決議を採択しました。」という話があるが?

原文のURLhttp://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-//EP//TEXT+TA+P6-TA-2008-0410+0+DOC+XML+V0//EN&language=EN

************************   ************
ガウス通信 第93号(2008/10/20
欧州議会 電磁波など基準の厳格化を可決
 『バイオイニシアティブ報告』を受け止め、予防原則を適用

欧州議会が電磁波に関する厳しい基準を作ることを求める提案を94日採択した。
報道発表によると、 『欧州の健康と環境アクションプラン20042010中期評価』(MEPs)を賛成522対反対16で採決した。
2010
年までに2つの不可欠の目的についての答えを委員会に求めている。

新しい科学技術の危険性
MEPs』は、すでに市場に出回っているナノ粒子を含む消費財の安全性の確保のための特別な法的対策が欠落していることを憂慮している。
電磁波についての『バイオイニシアティブ報告』は、携帯電話、次世代携帯電話(UMTS)、無線LAN等(WifiWimaxブルートゥース)、デジタルコードレス電話といった移動式電話装置からの曝露による健康リスクがとりわけ大きいと指摘しているが、MEPs』はその報告書にも大きな関心を持っている。
その報告では、これまで採用されてきた公衆への電磁場の曝露制限は時代遅れになっている、と記されている。
そうした曝露制限は、情報とコミュニケーション技術の発達、または妊産婦、新生児や子どもたちなどの傷つきやすいグループを考慮に入れていないからである。
**************************   ************

ガウス通信の紹介記事では、バイオイニシアティブ報告に基づいて欧州で何かアクションをとることを決議したかのように見える。
 しかし、本文をよく読んでみると、「関心を持っている」にとどまっている。


5
220092月、この決議を受ける形で、欧州科学委員会は、電磁波についてのワークショップを開催しましたが、その席上、当のBioInitiativeが、「電磁波と健康影響との関係を証明したなどとは主張していない」と言ってしまいました。
http://ec.europa.eu/health/ph risk/documents/ev 20090211 mi.pdf
 

以下に関連する部分のみを仮訳を付けて、紹介します。
*****************   ***************
The BioInitiative Group stated that it does not intend to establish a standard of evidence and that it does not claim to have proven any association between EMF and health effects. Its point is that there is enough evidence to call for the application of the Precautionary Principle.
バイオイニシアティブグループは、「証拠の標準を確定させるつもりはない」、「電磁波と健康影響の関連を証明したとは主張していない」と明言した。
予防原則の適用を呼びかけるには十分な確証があることが特徴である。
**************    ********************

5
320094月、欧州議会は同様の決議を再度採択しましたが、ここではBioInitiativeは取り上げられていません。
5
2のこともあったので、Bio-Initiative Reportは欧州では信頼されなくなったのかもしれません。


*******************    ***********
欧州議会プレスリリース200942
電磁界の潜在的なリスクを回避すること

情報源:European Parliament Press Release 02-04-2009
Avoiding potential risks of electromagnetic fields
http://www.europarl.europa.eu/news/expert/infopress_page/066-53234-091-04-14-911-20090401IPR53233-01-04-2009-2009-false/default_en.htm

欧州議会により採択された報告書によれば、アンテナ、携帯電話マスト(アンテナ)、その他の電磁界(EMF)放出装置は、学校や健康施設などから一定の距離をおいた場所に設置されるべきである。
欧州委員会は、情報を十分に与えられていないと感じている市民の電磁界暴露の影響について、信頼性のある情報をもっと入手しやすくすべきである。
この報告書は賛成559、反対22、棄権8で採択された。
この報告書は、無線技術と電磁波放出技術の広範な利用及びそれらの社会への便益を認めているが、それらの”可能性ある健康リスクについての不確実性が継続していること”に関する懸念もまた提起した。
特に、子どもと若い人の電磁界への暴露について懸念がある。したがって、欧州議会議員はより厳格な規制と住民や消費者の保護を要求する。
*****************   **************

---

 

6.さまざまな機関でのBio-Initiative Report の評価


さまざまな機関で行われた評価の結果に関しては、電磁界情報センタのサイトに公開されている。
関心のある方は、http://www.jeic-emf.jp/pdf/faq/BIR_C.pdf <リンク切れ>を見ていただくことにして、
以下はその抜粋である。

*********************   ************
バイオイニシアティブ報告は、国際的な注目を浴び、欧州環境庁5を始めとした様々な機関や組織がコメントを発表した。
その中には、同報告書を積極的に取り上げるべきであるとするコメントもあれば、同報告で述べられている評価手順、評価結果および政策への勧告などについての疑問を述べたコメントも見られる。
このような背景の基で、バイオイニシアティブ報告が引き起こしている状況を電磁界情報センタが入手した資料により紹介する。

1
)欧州環境庁(EEA
欧州環境庁(EEA)は、バイオイニシアティブ報告を引用して2007917日に新聞発表を行った。
報道発表のタイトルは「日常の機器からの電磁界リスクが評価される」であり、以下の内容が含まれていた。
BEMSJ
注:このEEAに関しては、前述の項で紹介済なので、詳細は割愛。

2
欧州EMF-NET
欧州の第6 次枠組みプログラムの下に設置されたEMF-NET は、欧州委員会からバイオイニシアティブ報告に対してコメントを求められた。
これを受けて、2007 10 30 日付でバイオイニシアティブ報告に対するコメントを発表した。

「セージアソシエイト(米国)の
セージCindy Sage)女史が『公衆への要約』(訳注:報告書第1 章の「一般向け要約および結論」に相当)の著者であり、不安を掻き立てるようにまた感情的な言葉で書いており、その議論はよく計画された電磁界研究からは科学的な支持はされない。

3
デンマーク国家健康委員会
デンマ−ク国家健康委員会10は、200710月4日付で「電磁界と健康に関する「バイオイニシアティブ」グループからの報告」と題して同報告への見解を発表している。

健康委員会は、この報告について複数の専門家の評価を得る予定である。
しかし現時点では、電磁界へのばく露が健康に及ぼす悪影響について、
この報告が健康に関する専門的評価の変更をもたらすものではないとしている。
同時に健康委員会は、新しい技術の到来でしばしば話題になるコードレスシステムの利用における高周波電磁界と健康の問題などに関し、さらなる科学的知識の必要性を認識している。
そのため健康委員会は、携帯電話の使用時における注意事項に対し、コードレスシステムの使用時における高周波電磁界へのばく露を制限する勧告を追加するための科学的情報を収集し始めている。

4
)ドイツ連邦放射線防護局(BfS
ドイツ連邦放射線防護局(BfS12は、2008 年の報告書でバイオイニシアティブ報告に対する以下のコメントを公表している。

論評:“バイオイニシアティブワーキンググループ”の報告は、
明らかに科学的欠点がある。
特に、専門的には作用メカニズムは異なっていると認められているが、超低周波電磁界と高周波電磁界の健康影響を混合している。
報告が根拠に置いている研究の大多数は新しいものではない。
多くの取り上げられている領域での取り上げ方は一方的であり、グループはBfSや国内外の専門家委員会と違った結論となっている。
引用されているほとんどの研究は既知のものであり、現行のばく露制限値の設定や国の専門家委員会による定例の評価の際に既に考慮されている。
ドイツの携帯電話の研究プログラムの枠組みでも、報告書の根拠にある研究を考慮し全体の評価に取り入れている

5
)オランダ健康評議会
オランダ健康評議会14は、200892日付でバイオイニシアティブ報告に関する住宅・国土計画・環境省宛の書簡を公表した。

本委員会は、バイオイニシアティブ報告の編纂方法、科学的データの選択的利用、および上述したその他の欠点を考慮して、同報告は現時点の科学的知識を公平でバランスよく反映したものではないとの結論に達した。
ゆえに同報告は、電磁界ばく露のリスクに関する現行の見解を見直すための何らかの根拠を提示するものではない。
(中略)同報告は、電磁界が生体系に及ぼす如何なる影響も無視すべきではないと論じており、影響とダメージの違いを無視している。
以前の発表(例えば、2002年の報告書『携帯電話:健康影響の評価』)に明記しているように、本委員会はこのアプローチに同意しない。

6
)オーストラリア高周波生体影響研究センタ(ACRBR
オーストラリア高周波生体影響研究センタ(ACRBRは、20081218日付でバイオイニシアティブ報告に対する声明を公表した。

バイオイニシアティブ報告は科学の前進ではなく、バイオイニシアティブ報告は「客観的ではなく、現在の科学的知見の現状をバランスよく反映していない」(オランダ評議会報告4ページ)とするオランダ健康評議会に同意する
単に、バイオイニシアティブ報告は、科学のコンセンサスと一致しないレビューの集まりを提供しているに過ぎず、科学的なコンセンサスに異議を申し立てするのに足るだけの確固たる分析をしていない。」

7
) 米国電気電子工学会(IEEE
米国電気電子工学会(IEEEの中に設けられているCOMARは、2009保健物理学会誌(Health Physicsでバイオイニシアティブ報告に対するコメントを発表した。

COMAR
は、欧州EMF-NET、オランダ健康評議会ならびにオーストラリア高周波生物影響研究センタからのバイオイニシアティブ報告に対するコメント、すなわち、現状の高周波電磁界の生物影響についての科学文献の重み付けからは、バイオイニシアティブグループが勧告している安全の制限値を支持しないという結論に同意している。
これらの理由から、COMARは、政府機関や公衆の健康に関連する人々は政策についてはICNIRPIEEE/ICESなどの機関から勧告している高周波電磁界の安全の制限値に基づく政策を継続することを推奨している。

****************   **************


8)Skeptical Inquiry 2009年での批判

記;2011−4−24

発行元の紹介
The Committee for
Skeptical Inquiry
The mission of the Committee for Skeptical
(懐疑的な) Inquiry(質問、研究) is to promote scientific inquiry, critical investigation, and the use of reason in examining controversial and extraordinary claims.

http://www.csicop.org/si/show/growing_hysteria/
 にあった内容の一部抜粋です。
WEB
に公開されている雑誌の記事
掲載誌:Skeptical Inquiry  Volume 33.5, September / October 2009
タイトル:A Growing Hysteria
著者:Lorne Trottier

Alarmist groups are fueling a growing mass hysteria over supposed health risks from EMF.
These
health risks range from general complaints, such as fatigue and headaches, all the way to brain cancer.
The fact that EMF is also referred to as electromagnetic
radiation and is becoming more pervasive yet cannot be seen adds to the alarm.
A minority of scientists, some of whom have published an alarmist document called the Bio-Initiative Report, have helped fuel the hysteria. Yet the Bio-Initiative Report has been widely criticized in the scientific community for promoting only poorly conducted studies that support its alarmist views while ignoring far more rigorous and comprehensive studies that show no danger.

懐疑派は電磁界による仮定の健康リスクに対する大量のヒステリーの増加に油を注いでいる。
これらの健康リスクには、疲れや頭痛といった一般的な愁訴から癌までに及ぶ。
EMF
はさらに
電磁放射線とまで称され、警告に加えるべき目に見えない存在であるとされつつある。
科学界の少数派はバイオイニシアティブレポートという、いい加減になされた研究の“危険だ”という結果ばかり取り上げて、それよりもはるかに信頼できる研究が出した“危険はない”という結果を無視したものを発行した。

以上に述べたように、電磁波に関する専門家ではないEEAが予防原則の適用という面でバイオイニシアティブ報告を評価している以外は、軒並み否定的な評価を下している。

---

 

6A.オランダ評議会による評価

記:2012−5−20

以下に示す報告書に、オランダ評議会のバイオイニシアティブ報告に関する見解が、詳しく述べられている。

平成20年度電力設備電磁界情報調査提供事業 (情報調査事業)調査報告書
   平成213
株式会社 野村総合研究所

以下に抜粋する。
関心のある方は、全文を経産省のWEBからダウンロードしてください。

1BioInitiative reportに対する回答

・本報告書はオランダや他の多くの国々で現状適用されている制限値をはるかに下回る曝露制限値の設定を勧告しており、社会から関心を集めている。

 

・バイオイニシアティブ報告書を編集するために用いられた手法
科学的な勧告書は、通常、専門家グループの中で、現状の科学的な知見を用い、コンセンサスが得られるまで広範囲の議論を行うという一連のプロセスの結果、作成されるものである。

本プロセスは透明であることが重要である。

バイオイニシアティブ報告は、この手続きを踏んでいない。
本報告書は多くの章の寄せ集めであり、それぞれ個別の著者によって記載されている。各章について筆者間で協議や議論が実施された様には思えない。

 

評議会は例として12章を指摘したい。
ここでは12章の著者は何よりも50Hz磁界への曝露と乳がんの罹患との間の関連性についての疫学研究を参照jしている。
この著者は居住環境で実施された多くの研究を、曝露を十分正確に決定できないという理由で、棄却している。
しかしながら、これは電力線の側への居住と小児白血病への罹患との間の関連性を検討したあらゆる研究にも当てはまることであり、これらの研究は他の章で長々と記載されている。
レビューの章の科学的品質は極めてばらつきがあると結論づけることができる。

第1章はバイオイニシアティブ報告書の主唱者の一人によって記述されており、要約と結論が含まれているが、レビューの章の著者により到達する結論を多くの点ではるかに超えている。

要約に記載された結論の文言を各章の著者たちが支持したかどうか、これらが彼らの間でどのように議論されたか(あるいは、議論自体が行われたのか)、何を根拠に著者が様々な結論に到達したのかは不明である

・なぜバイオイニシアティブ報告書は記載されたのか?
第2、3、4の章は同じ著者が記載しているが、何故現状の曝露制限値が不適切であるかという彼女の信念を支持する議論を展開している。

第2章では、本報告書を記載した理由を次のように記載している。

本報告書は、現状の公衆への曝露基準がもはや公衆衛生防護の為に十分良いものとは言えない理由を記すために記載された。」

 

すなわち、最初から、バイオイニシアティブ報告書を記載した理由は、現状の科学的状態に客観的な分析を提供することではないのである。

それどころか、狙いは、現状の基準がなぜ不適格なのかを例証するための情報を提供することが目的であったのである。

・誤り

上記に述べた原則や手法上の異論に加え、いくつかの章では致命的な誤りが含まれている。評議会は二つの例を示す。

第1章のP6では著者は次のように述べている。
「電磁放射(熱ではなく)により伝達されたInformationが生物学的変化を引き起こしているようであり、これらの生物学的変化は福祉の喪失や、疾病、さらには死につながりかねない。」

本文書は科学的合理性を欠いており、評議会は不正確であると考えている。

まず、低周波電磁界により情報は伝達されないし、熱作用も生じない。無線周波数電磁界では、変調により情報が伝達される。

変調シグナルへの曝露により何らかの生物学的影響を生ずることを示唆する実験結果があるが、非変調シグナルへの曝露では見られていないか、かなり小さい。

今のところ、これを確証するには十分な科学的な証拠はない。

そのような影響が健康影響につながるかどうかについても判らない。

観測される生物学的影響が、福祉を低下させたり、疾病、さらに死にもつながるという指摘は科学的合理性を欠いている。

例えば、「新たな第3世代無線電話(及びオランダで関連する地域レベルでの無線アンテナによるRF放出)が普及することで、公衆の疾病の訴えが即座にもたらされている。」

参照しているのは2003年のTNOの研究である。

主張自体もTNO研究への参照も間違いである。

UMTSネットワークがサービスを開始するかなり前から様々な健康上の電磁界の(特にGSM基地局からの)せいだと訴えている人はいた。

TNO研究はUMTS基地局のようなシグナル(GMSのシグナルではなく)への曝露が福祉に負の影響を及ぼす可能性があると指摘した。

このTNO研究の報告書は人々の関心を呼び、UMTSのシグナルが伝送されていない場合であっても、苦情の増加がみられた。

4つの独立したフォローアップ研究ではTNOの結果を確証する示唆は何ら得られていない。

バイオイニシアティブ報告書には他にも多くの欠陥があるが、600頁以上に及んでいるため、ここではこれ以上の詳細は述べない。
これらの欠陥により評議会はバイオイニシアティブ報告書の品質を信用しようという気にはなれない。

・結論
バイオイニシアティブ報告書の編集方法という観点から、科学的データの選択的な使用や上記に述べた誤りから、評議会は、バイオイニシアティブ報告書は現状の科学的な知見に対し、客観的でバランスのとれたものとは言えないと結論する。

それゆえ、バイオイニシアティブ報告書は電磁界曝露のリスクに対する現状の見方を改訂する根拠を提供していない。
バイオイニシアティブ報告書は、生物学的システムに対する電磁界のあらゆる影響を避けるべきであるとし、ここでは影響と損傷の区別を無視している。
評議会はかつての文書で述べたように、本アプローチには同意しかねる。

2008年の電磁界に関する年次報告書では、本トピックスについてさらに記載するつもりである。

---

 

7.誤って伝えているバイオイニシアティブ報告

記;2011−11−12

1)寺岡敦子の誤り

掲載誌:新しい薬学をめざして40, 103-106 (2011). 新薬学研究者技術者集団」の発行。
タイトル:WHO インターフォン報告書 携帯電話使用と脳腫瘍との関連
筆者:
寺岡敦子

以下に一部を引用する。
**************    ************
このWHO の評価よりさらに積極的に対策まで進めようとする専門家集団が“バイオイニシアティブ・ワーキンググループ”であるが,欧米各国の14 名の学者などから構成される。
2007
年に公表された“バイオイニシアティブ報告書”(http://www.bioinitiative.org/index.htm)では,
ELF の環境基準は0.1μT とすることを推奨している。
さらにこの報告書では,携帯電話基地局からの高周波暴露に対しても0.1μW(マイクロワット)とすることをこの時点ですでに勧告していた。
**********************   ***************

明らかに、ワーキンググループの一人の意見が、ワーキンググループに参加した専門家の一致した意見であると、誤って報道している。


2)馬奈木昭雄弁護士の誤り

以下はサイトにあった講演要旨です。

講演要旨『
人体実験を許すな。〜携帯電磁波の危険性〜』
伊那谷の環境と健康を守る会 設立一周年 記念講演会〉 2011911日塩尻総合文化センター
馬奈木昭雄弁護士

***************    ***************

今日は、公害による
健康被害や環境破壊を基本的にどう考えるか、あるいはそれにどう立ち向かっていくのかということについて、法律の観点から話してみたいと思います。
(略)
バイオイニシアティブ報告という報告があります。
これは14名の科学者が、2000を超える論文を精査し、さらに12名の専門分野の科学者の校閲を経て公にした報告です。

EU議会は、この報告書を検討して、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が設定している現在の世界基準は不十分なので、0.1、あるいは0.01まで厳しくすることを決議しました。
(略)
*****************************   *************

EU議会は、0.1、あるいは0.01まで厳しくすることを決議しました。」とあるのも誤りです。

---

 

8.裁判でバイオイニシアティブ報告が認められなかった事例

記:2012−12−16

以下のシンポジウムが開催された。
********************************
電磁波問題シンポジウム‐予防原則と人権保障の観点から
平成24 12 15
於: 千代田区立日比谷図書文化館

基調報告:電磁波問題に関するスウェーデン・スイス調査報告 中西良一
・世界的に電磁波問題では先駆的とされるスウェーデン、スイスを訪問した。

**********************************
講演の中では言及されなかったが、講演終了後にレジメを読んだBEMSJが重要と感じた個所を、以下に列記。

***********************************
・(スイスの)ガントナー氏の担当事案:ガントナー氏の事案は、A(政府の規制値以下であっても当該曝露の値は高すぎる)の理由によるものだったそうで、バイオイニシアティブレポート等を根拠に政府の定める規制値が守られていても安全とはいえないとの主張をしたそうですが、連邦裁判所まで進み敗訴に終わったということでした。
ガントナー氏は、裁判所は、専門家が要るのは行政だから、行政に任せておけば良いという姿勢であるように感じたということでした。
スイスにおいて、Aを理由とした基地局の差止めに成功した例はないそうです。
**********************************

僅か2行程度の、報告書の中にあった記述ですが、予防原則を適用しているとされるスイスにおける裁判での結果です。


---

 

9.バイオイニシアティブ報告の2012年版刊行

記:2013−1−26   記;2013−4−19

大手の新聞などは報じていないが、201314日にバイオイニシアティブ報告の2012年版がネットで公開された。

このバイオイニシアティブ・ワーキング・グループ2012の新たな報告書は、電磁界と無線技術(無線周波数帯の放射)による健康へのリスクの証拠が2007年以後に急増しているとしている。
この報告書は、1800件を超える新たな科学的研究を調査したものとされる。
携帯電話の使用者、子供を望んでいる人々、子供、妊娠中の女性には特に大きなリスクがあると、主張しているようです。

関心のある方は、この2012年版を入手して、読んでください。

BEMSJ
は冒頭のサマリーの部分を、さらっと流し読みした程度です。

この改訂版では、2007年の高周波電磁界への曝露限度に関する勧告値(0.1μW/cm2)よりも更に低い、0.00030.0006μW/cm)という厳しい値を勧告しました。
これでは、テレビ放送の電波が1チャンネルあって、その電波強度が1Vmという合理的な値であった場合は、その環境でのテレビ電波による曝露は約2.5mW/m2=0.25μWcm2 となります。
バイオイニシアティブ報告の勧告に従おうとすれば、世の中に通常のテレビ放送は不可能になります。
携帯電話だけではなく、テレビ放送もFM放送も、AMラジオ放送も、すべからく否定する生活環境を、提案していると言えます。

 

 

---